ドッグトレーニングの現場から Vol.37

飼育初心者でも保護犬は飼えるの?(前編)

愛犬との日常 ワンポイントアドバイス(その7)

[2017/5/30 06:00 | 辻村多佳志]

藤田先生に聞く、しつけについてのワンポイントアドバイス、今回は「保護犬」についてです。飼育放棄された犬や虐待を受けた犬を、保健所などから引き取って飼いたいという人がいらっしゃいます。こうした考え方自体はじつに尊いものですが、保護犬はしつけが難しそうな気もします。飼育初心者が保護犬を迎えて、はたして幸せになれるのでしょうか? 藤田先生にうかがってみましょう。

監修/訓練士 藤田真志
麻布大学獣医学部卒/動物人間関係学専攻 (社)ジャパンケネルクラブ公認家庭犬訓練士 (社)ジャパンケネルクラブ愛犬飼育管理士 2004年に「HAPPY WAN」を開業

保護犬は初心者でも飼える!?

藤田先生は、保護犬のトレーニングを手掛けることも多いのですか?

「珍しくないですね。先日もトレーニングのご相談をいただきましたし、保護犬を引き取りたいのだけど、里親を待っている犬を知りませんか、お迎えする前に相談に乗っていただけますか、などのお問い合わせもよくあります」

そもそも、飼育初心者でも保護犬を飼えるものなのですか?

「飼い主さん次第ですね。しつけについてきちんとした考え方を持ち、犬についての勉強もなさる方なら、問題なく飼えるはずです。ただ、やはりリスクはあります」

リスクですか。ちょっと心配ですね。保護犬は人が怖くて震えているかわいそうな子、というイメージがありますし、心に傷を追った子は、育てるのに神経を使いそうな気がします。

「それは、かわいそうな犬を救い出して幸せにしてあげたいという、飼い主さんの優しい気持ちから生まれる思い込みかもしれませんね。もちろん、虐待されたなどで怯えている子はいます。しかし、やたらとハイテンションな子、人にも犬にも興味を示さず反応が薄い子、攻撃的な子など、保護犬の性格は本当にさまざまなのです。ですから、その子の性格をよく見極めて、それぞれに合わせたしつけを行わなくてはなりません」

かわいそうだという気持ちは、引き取った時点でいったんリセット。今日からはわが家の家族として、まったく新しい犬生を送ってもらおうということですね。ただ、保護されるまでの暮らしでつくり上げられてしまった性格を見極め、問題があれば直していくとなると、やはりしつけは、かなり難しいものになるのでは?

「考え方をちょっと変えてみましょう。世の中で飼われている多くの犬は、ペットショップで買うにせよ、知人のところで生まれた犬をもらうにせよ、子犬のころに家に来ることが多いと思います。子犬はまだ性格が固まっていないですから、育て方のちょっとした思い違いや失敗が原因で、半年もしないうちに、とんでもない悪い子に育ってしまう場合もあります」

いわゆる問題犬のトレーニングを数多く手掛けてきた藤田先生でしたら、ちょっとした予兆や細かな性格を見逃さずに適切な手を打てますが、子犬のころからずっと一緒に暮らしていると、将来問題行動につながりかねない兆候を、かえって見逃してしまいかねませんね。

「しかし保護犬は、よほど小さな子でない限り、ある程度の性格はすでにできあがっています。『安定性が高い』と表現するのですが、固まった性格を最初に理解することができれば、その後のしつけ方針や暮らし方が明確になります。保護犬だからといって必ずしもしつけが難しいわけではないのです。たとえば、多頭飼いを始めるときは子犬ではなく、安定性が高い保護犬を迎える方がうまく行く場合も多いですね」

お迎え前のトライアルが大切です

では、保護犬を引き取る際には、どういった点に気を付ければいいのでしょうか。

「シェルター、保健所、動物病院など、保護犬を世話してくれる場所はさまざまですが、どこで紹介してもらうにしても、トライアル(お試し)は必ず行うべきです。保護犬は性格がある程度固まっていますから、問題行動がひどい、飼い主さんになかなか懐かないなど、それぞれのご家庭の環境や飼育方針、飼育経験、先住犬やほかの動物との関係などに、うまくマッチしない場合があるのです」

そうしたミスマッチを回避するために、トライアルの期間はどのくらい必要ですか?

「2週間ぐらいはほしいですね。なかでも注意して観察するべきなのは、攻撃行動の有無です。初めて会ったときにおとなしくしていても、安心はできません。ご自宅に迎えてしばらくすると攻撃行動が出てくることもありますから」

トライアルの時点で、藤田先生のようなしつけのプロにアドバイスをもらえば、より安心して引き取ることができるでしょう。トライアル以外の注意点はありますか?

「体調ですね。病気やケガ、寄生虫のチェックがされているか、予防注射など適切な処置が施されているかは必ず確認しましょう。また、繁殖に使用されていた犬や老犬が保護犬となることもあります。痴呆が始まっていなければ、老犬でもしつけは可能ですが、やはりある程度のスキルは要求されます」

この原稿を書いている私も、ほんの微力ながらレスキューの現場に触れた経験がありますし、ボランティアさんからさまざまなお話も聞いています。そうした経験から申し添えるなら、引き取る際の費用にも目を向けましょう。助け出されてからお迎えするまでの間に行われた治療や予防接種などの費用は、新しい飼い主さんが払うべきなのですが、なかには、寄付金と称して少なからぬお金を要求される場合もあるようです。ちょっとヘンだな、と感じたら引き取りを避けるのも、健全な共生社会を築くために必要な視点ではないでしょうか。

次回は、この記事の最初のほうで上がっていた「リスク」とは何かを解説しながら、トライアルを済ませ、保護犬をわが家にお迎えしてからのしつけ方について考えていきます。

[辻村多佳志]