ドッグトレーニングの現場から Vol.22

お散歩中に会った犬に吠えてしまうときは?

[2016/09/27 6:00 am | 辻村多佳志]

藤田先生に聞く、しつけについてのワンポイントアドバイス、今回は、お散歩中にほかの犬に吠えてしまう、ときには襲いかかってケンカをしてしまう「ガウガウ犬」の直し方です。この癖はなかなか直らないことが知られていますが、それには理由があるようです。

監修/訓練士 藤田真志
麻布大学獣医学部卒/動物人間関係学専攻 (社)ジャパンケネルクラブ公認家庭犬訓練士 (社)ジャパンケネルクラブ愛犬飼育管理士 2004年に「HAPPY WAN」を開業

ガウガウしてしまう犬は「社会化不足」

人間にも性格があるように、犬にもそれぞれ性格や個性があります。人付き合いならぬ犬付き合いが苦手な犬が悪いわけではありませんし、周囲の犬とうまくやっていけなくても、飼い主さんに愛されて一生を送るなら幸せなのかもしれません。しかし、咬傷事故などが起きてからでは、犬も人も不幸になりますから、しっかり直しておきたいですよね。いまはガウガウ犬でも、しつけ次第でお友達と仲良く並んでお散歩したり、ドッグランやドッグカフェに連れて行けたりできるのでしょうか?

「もちろん、多くの犬のガウガウ癖は直せます。ただし、トレーニングにはかなり長い時間がかかることも多いので、飼い主さんの心構えは必要ですね。焦って結果を求めないようにしましょう。吠え声は、犬にとって重要なコミュニケーションツールですからね」

なぜ長い時間がかかることがあるのかというと、子犬時代の「社会化」が影響しているからです。まずはこの記事この記事をご覧ください。

ガウガウ犬のほとんどは、『人慣れ』や『犬慣れ』ができていない犬、つまり、子犬のころに社会性が育まれなかった犬です。もちろん、成犬になってからでも社会性を身に付けることはできますが、いったん固まってしまった性格や習慣を変えるためには、適切なトレーニングを根気よく続ける必要があります」

子犬をわざとガウガウ犬に育てようとする飼い主さんはいないでしょう。しかし、それでもなおガウガウ犬になってしまったということは、飼い主さんの『犬との付き合い方』がうまくできていなかったということ。しつけのテクニック以前の問題ですから、これを行えばほかの犬とケンカをしなくなる、といった特効薬的な方法を求めてもムダに終わります。まずは、飼い主さんと愛犬が一緒になって、プロのドッグトレーナーに相談し、毎日の生活のすべてにわたってアドバイスを実践することが、手間はかかっても最短で最善の方法です。

とはいえ、基本中の基本を知っておいて損はありません。そもそも、なぜガウガウしてしまうのでしょうか?

「恐怖」がガウガウの元になります

「ガウガウしてしまう理由は、大きく2つに分けられます。ひとつは、テンションが高すぎる場合お散歩中にお友達を見つけると、遊びたくて遊びたくて、ついはしゃいでしまうのです。この場合は、年齢を重ねると直ることもありますし、お散歩の回数や長さを増やすなど、おとなしいほかの犬と遊ぶ機会を増やすことで、少しずつ収まっていくこともあります」

「もうひとつは『恐怖』から吠えている場合です。犬は、怖いものに出会ったとき、威嚇して相手を遠ざけようとする、自分が逃げ出そうとする、などの行動をとります。怖いよ~、近寄ってこないで! ということですね。こうした犬を慣れさせようと、自らほかの犬に近寄っていくのは逆効果犬はますます恐怖を感じてしまいます」

ガウガウしている犬をなんとかおとなしくさせようと、大声でしかりつけている飼い主さんもいるようです。ところが、こうやって叱ると、ガウガウ癖はますます悪化することが多いのです。

「そもそも、ガウガウ中の犬は興奮しています。そんなときに飼い主さんが大声を出すと、犬の興奮はますます高まるばかり。吠えるから叱る、叱るからさらに吠える、の悪循環におちいってしまいます」

肝心なのは、「吠えるのを止めさせる」ことではなく、「犬を落ち着かせる」ことです。オスワリやフセ、マテなどのコマンドが上手にできないようなら、しっかり覚えてもらいましょう。お散歩中に向こうからほかの犬が歩いてきたら、こちらは道の端でオスワリはフセをしながら、相手が通りすぎるのを大人しく待っていてもらうのです。

「ガウガウ犬は、ほかの犬が近づいてくるのが嫌だから吠えています。その嫌なことになるべく会わないようにお散歩するとともに、嫌なことを打ち消すほどの『いいこと』をぶつけていきましょう。たとえば、互いの犬が十分な距離を取れるように、広い道をお散歩コースとして選びます。向こうからほかの犬が近づいてきたら、座らせるなどして、おやつを与えます。犬が来たらおとなしくしていればおやつをもらえる、早く次の犬が来ないかな、楽しみだなあ、と思ってもらうのです

犬友達がいるなら、ほかの犬に協力してもらうのも効果的な方法です。

「お散歩コースにあるいつもの公園や、ほかの犬が少ない時間のドッグランなどで待ち合わせ、相手の犬は気になるけどガウガウはしない程度の距離を保ったまま、ノンビリと時を過ごしましょう。ほかの犬が周囲にいる環境に慣れてもらうのです。ただし、相手の犬のテンションが高かったり、積極的に近づいてくる性格だったりすると、うまくいかないことがあります。おとなしく穏やかで、多少吠えられても我関せずの、おっとりした犬がベストですね。こうした環境を何度か体験させ、興奮しないようになってきたら、少しずつ距離を縮めていく、つかず離れずの距離を保ったまま一緒にお散歩する、もっと近付けるようになったらニオイを嗅がせる、など、少しずつステップアップしていきましょう。一気に近づけるのは禁物。焦らず時間をかけてゆっくりと、がコツです」

一気に近づけると、ガウガウが始まってしまいます。これでは逆効果になりかねませんから要注意です。ところで、お散歩中に出会った、相手の犬がガウガウ犬だったら、こちらはどうしたらいいのでしょうか?

「こちらは大丈夫だから、と近づかないほうがいいですね。場合によっては、自分のほうがクルッと向きを変えて立ち去るほうがいいでしょう。臆病な性格の犬は、相手が吠えていると摸倣して自分も吠え出しかねませんし、吠えられることで恐怖がつのってしまう場合もありますから」

君子危うきに近寄らず、ということですね。また、フレンドリーすぎて、距離を一気に縮めてしまう犬も、吠えられやすい犬。さらに、ガウガウされやすい犬種もいるそうです。

「チワワや柴犬は、吠えかかられる機会が多くなるという印象です。また意外ですが、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークも、ガウガウが起こりやすい犬種です。コーギーには尻尾がないため、相手の犬に感情が伝わりにくいようです。また、犬種の特性ではありませんが、モヒカンカットのミニチュア・シュナウザーも吠えられやすいですね。モヒカンカットはかわいいですが、相手の犬からすると、こいつは怒って毛を逆立てているのか、と思われてしまうのでしょう」

カットの状態が違うだけで、ガウガウに巻き込まれやすいかが変わるというのはおもしろいですね。犬同士のコミュニケーションは、本当に奥深いんだなあ、と思わせてくれます。次回は「お散歩中の拾い食い」「自宅での食糞」について、藤田先生に話を聞いていきます。

[辻村多佳志]