ドッグトレーニングの現場から Vol.30

その叱り方、愛犬に伝わっていますか?(後編)

愛犬との日常 ワンポイントアドバイス(その3)

[2017/1/31 06:01 | 辻村多佳志]

藤田先生に聞く、しつけについてのワンポイントアドバイス、今回も前回と同様「叱り方」についてのアドバイスです。自分ではきちんと叱っているつもりでも、犬にはまったく通じていなかったら困りますよね。さらに怖いのは、叱り方がヘタなばかりに犬の社会化を、心の育成を妨げるかもしれないこと。さて、あなたは叱り上手な飼い主さんですか?

監修/訓練士 藤田真志
麻布大学獣医学部卒/動物人間関係学専攻 (社)ジャパンケネルクラブ公認家庭犬訓練士 (社)ジャパンケネルクラブ愛犬飼育管理士 2004年に「HAPPY WAN」を開業

優しすぎる飼い主さんは、しつけに失敗します

前回の記事で、叱り下手の飼い主さんはこんな人、というお話をうかがいました。ひとしきり怒ったことで自分だけ満足してしまう飼い主さんが多い、とのことでしたが、叱り下手な飼い主さんは、ほかにもたくさんいるようです。

「問題行動に困り果ててご相談にお見えになる飼い主さんの中には、まったく叱らない方もいます。犬を溺愛している、性格がとことん優しいなど、ご自身の性格によるものもあるかと思うのですが、叱ることは悪いことだ、と考えている飼い主さんも見受けられます」

叱らないと犬が増長するじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、そうではありません。犬は純粋ですから、この飼い主は甘いから、わざと悪いことをして困らせてやろう、などとは思わないのです。犬は叱られないと、何がいけないことなのかを理解できません。つまり、叱らないということは、しつけを放棄しているのと同じことです。

言葉に頼った叱り方では、何も伝わりません

「まったく叱らないというパターンの中には、自分は叱っているつもりでも、犬から見ると、叱られているとは感じていない場合も含まれます。たとえば、ふだんと同じ口調で、あらあら○○ちゃん、そんなことしちゃダメですよ~(笑顔)、などと叱っている飼い主さん。犬は人間の言葉の意味を理解できませんから、これでは叱っていることになりません。ふだんは赤ちゃん言葉で話しかけてもいいのですが、叱る際は『ダメ!』『いけない!』など、短くて強い口調で叱るべきです」

犬は人間の言葉の意味が分からない。この原則を忘れてしまっている飼い主さんは多いようです。もちろんそれでは、しつけや叱り方が上手な飼い主さんとは言えません。

「叱られた理由や、何かをしたことでどのような結果が起こるのかを、一生懸命に説明しようとする理屈っぽい人も、しつけ下手な飼い主さんです。叱り方に限らず、すべてのしつけに当てはまることですが、人間の言葉に頼ってしまうと、しつけはうまくいきません」

言葉に頼れないとすれば、どう叱るのがいいのでしょうか?

「もっとも大事なのは表現力ですね。犬と真剣に向き合い、自分が犬になったつもりで、何かを止めさせたいときには声質、身体の動き、視線などあらゆる物を使い、言葉ではなく気持ちを伝えるように叱りましょう。もちろん、褒めるときにも心の底から喜んで褒めてください。まわりの人に見られたら大げさだと思われるかなと、恥ずかしがってはいけません。少々大げさなくらいが、犬との付き合いにとっては適度な表現です」

叱るときに名前を呼んではいけない、と聞いたことがありますが、これは正しいですか?

「そんなことはないですね。言葉に頼らないしつけができていれば、犬はきちんと理解してくれます。名前を呼んで注目させることは、しつけの効果を高めるために役立ちますので、杓子定規に考えなくてもいいでしょう」

叱ることで何が生まれるのかを考えましょう

表現力たっぷりに叱っていても、なぜかうまくいかないなら、飼い主さん自身が、しつけの意味や、望むべき結果を理解していないのかもしれません。

「前回の記事で、叱るとはどういうことかについてご説明しました。簡単にまとめると、止めさせたい行動をしている→叱って止めさせる→犬に考えてもらう→困った行動がなくなるという流れで、いわば起承転結のようなものですね。しかし、叱ることで行動を止めたら一件落着にしてしまう飼い主さんが多いのです。叱って終わり、はもっともよくないしつけ方ですね」

「たとえば、自宅のチャイムが鳴ったときに犬が激しく吠え、叱ったら鳴き止んだとします。ここまででは、起承転結の前半部分ですね。後半部分は、吠えるのを止めて大人しくしている犬をしっかり褒めて、吠えるより大人しくしている方がいいな、と考えてもらうこと。そしてその選択を強固にしていくこと。こうして初めて、叱ったことに意味が出てきます」

となると、犬が行動を止めるまでは叱り続けたほうがいいのでしょうか?

「基本的な考え方としては、行動が収まるまで叱るべきです。叱ることを途中で止めてしまったら、どのような行動をとれば叱られなくなるのかを伝えることはできません。逆に、行動が収まった後にくどくどと叱り続けるのもいけません。犬は、行動を止めたのになぜ叱られているの? と混乱してしまいます」

犬を混乱させてしまう、ダメな叱り方はまだまだあります。

「同じ行動をしても、叱られるときと叱られないときがあったら、犬はどう思うでしょう。この行動をすると叱られるという確信が持てないですよね? また、お母さんは叱るけれどお父さんは叱らないなど、家族内で叱り方が異なる場合も混乱を引き起こします。家族全員が同じように叱れるよう、話し合いを重ねましょう。家に誰もいなくなってしまう時間は、問題となる行動を起こさせないようにしましょう。たとえば、窓の外を通る人に吠えるならカーテンを閉めておく、ゴミ箱を漁るなら片付けておくなどです」

何かが起きたら即座に対応して叱れるよう、真剣に犬と向き合い続ける人が、叱り上手な飼い主さんと言えるでしょう。

「よくない叱り方についてお伝えしてきましたが、じつは、これでも不十分です。なぜかというと、叱り方がその犬に適しているかは、犬の性格や家族の環境によって変わってきますし、ご自身に表現力があるか、犬の目にはどう映っているかは、誰かに見てもらわないと分からないからです。しつけを2週間続けても改善が見られない場合は、やり方を変えましょう。それでも直らない場合は、方法が根本的に間違っています」

 うまく行かないなと感じたら、やはりプロのアドバイスを受けるべきですね。次回も、犬との日常生活に役立つコツをお伝えしていきます。

[辻村多佳志]