吠える、咬む、トイレができない、オスワリやマテ、フセができない……しつけに関するお悩みは人それぞれ。今回から数回にわたり、藤田先生の元に寄せられる相談のうち、多くの人が困っているの問題について、しつけがうまく行かない理由と対応策を紹介していきましょう。最初のお悩みは「散歩がうまくできない」です。
散歩は、足りなくても激しすぎてもダメ
犬との暮らしで、欠かせないのは「散歩」です。多くの犬は散歩が大好きで、雨が降ろうが風が吹こうが外に出たがります。ならば、散歩は誰にでもできるのか? といえば、必ずしもそうではありません。散歩のさせ方が悪いために、しつけに悪影響がおよぶばかりでなく、ときには愛犬の命を危険にさらしてしまうこともあるのです。まずは、基本中の基本となる「なぜ散歩が必要なのか」から解説していただきましょう。
「散歩中にリードを引っ張る、散歩に行きたがらないなど、さまざまなお悩みの相談を受けてきましたが、なかには、自宅に迎えてから1度も散歩に行ったことがない、という飼い主さんもいらっしゃいます。チワワは散歩しなくていい、などという話を聞くこともありますね。しかし、これは大きな間違いです。身体のサイズや犬種の違いにかかわらず、犬には散歩が必要です。さらに、犬が満足する十分な量の散歩をしないといけません」
ペットショップの店頭でひと目ぼれし、超小型犬をお迎えした飼い主さんの中には、購入時に「この犬種は超小型だから散歩はしなくてもいい」などと説明された人もいるそうです。相手はプロですから、飼い主さんはその話を信じてしまいます。藤田先生によれば、「とんでもない話」だそうです。売りたいがためのセールストークでしょうが、そのようなペットショップは避けておくべきでしょう。
「なぜなら、散歩は単なる運動ではないからです。散歩の目的は大きくふたつに分けられます。まずは運動。犬はもともと運動量が豊富な動物で、運動欲求を持っています。運動が足りていないとストレスがたまり、吠えたり家具を破壊したりの原因になります。そして、もうひとつ大切なのが『家の外に出る』ことです。家の中に閉じ込めて飼っていると、屋外は犬にとって怖い場所、馴染みのない場所になってしまいます。もちろん、ほかの人や犬と触れ合う機会も極端に減りますから、『社会化』に悪影響をおよぼすことにもなります」
犬のしつけにとって「人慣れ、犬慣れ」が大切であることは、この連載でもご紹介してきました。人慣れや犬慣れができていないと、お客さんが玄関のチャイムを鳴らすたびに吠えたり、ほかの犬に出会うと攻撃や威嚇をする犬に育ってしまう可能性があるのです。超小型犬は散歩に行かなくてもいい、などという話は間違っていることがよくわかります。毎日の散歩は、しつけの基本中の基本というわけです。
「何かが欲しい、または何かをしてほしくて吠える『要求吠え』は比較的簡単に直せます。しかし、『威嚇吠え』の癖がついてしまうと、飼い主さんが直すのは難しいのです」
では、毎日どのくらい散歩すればいいのでしょうか。犬種や年齢によって異なりますが、超小型犬のチワワでさえ、20分程度は散歩したほうがいいそうです。ワクチンプログラムが完了しておらず、散歩に連れ出せない子犬でも、抱っこしながらこまめに外出するべきでしょう。
「ただし、散歩は時間の長さや短しさとともに『運動の量と強度』が重要になります。毎日1時間散歩していても、その間ずっとのんびり歩いていては運動量は足りません。かといって、必要以上に激しい運動をさせるのもよくありません。運動量が足りているかどうかを見極めるのはなかなか難しいですが、判断材料のひとつとして『犬の歩き方』を観察するといいでしょう。走り出す速度よりやや遅めの『トロット』と呼ばれる歩様を保つのが効果的です」
犬が歩いたり走ったりする姿を観察すると、速度によって足の運びが異なっていることがわかります。ゆっくり歩いているときの歩様は「ウォーク」と呼び、足を1本ずつ運んでいます。ここから歩く速度が少し速くなると、犬の身体を上から見たときに対角線に当たる、右前脚と左後脚、左前脚と右後脚を同時に動かしながら軽快に歩きます。これが「トロット」です。さらに速度を上げていくと、どれか1本の脚だけしか地面に着いていない「キャンター」、そして、空中を飛ぶように疾走する「ギャロップ」になります。
散歩中ずっと、トロット以上の歩様を保つのはなかなかしんどいですが、身体の小さいチワワですら、トロットで散歩するためには、人の早足程度のスピードが必要なのだそうです。そんなに早く歩いたら疲れてしまう、などと横着せずに、自分の身体を鍛えるつもりで散歩を楽しみましょう。
次回は、散歩中に遭遇するさまざまなトラブルや問題行動を採り上げつつ、上手な散歩を続けるコツを紹介していきましょう。