ドッグトレーニングの現場から Vol.3

トイレトレーニングは、しつけの第一歩

[2015/11/17 12:00 pm | 辻村多佳志]

子犬をお迎えししたら、まずは覚えさせたいのがトイレのしかた、いわゆるトイレトレーニングです。ところ構わず用を足さないように教えるという理由もありますが、愛犬の老後や万が一の病気、ケガの際にも重要になってきますので、しっかり覚えてもらいましょう。

監修/訓練士 藤田真志
麻布大学獣医学部卒/動物人間関係学専攻 (社)ジャパンケネルクラブ公認家庭犬訓練士 (社)ジャパンケネルクラブ愛犬飼育管理士 2004年に「HAPPY WAN」を開業

トイレトレーニングはなぜ必要なの?

人とペットが幸せな共生社会を築いていく上で、トイレトレーニングは欠かせません。飼い主の後片付けは当たり前ですが、散歩中の犬がところ構わず用を足したり、お出かけ先で室内や車内を汚してしまったりと、迷惑をかけることも多いからです。これらのトラブルは、犬や猫のトレーニングができていないだけではなく、飼い主が共生社会についてなんの見識も持っていないことの証明でもあります。

また、犬が幸せな生涯を送るためにも、トイレトレーニングは欠かせません。屋外でしかトイレができない犬は、病気やケガ、老後の寝たきり生活などで正しくトイレを済ませることが不可能になりかねません。室内だけでしかトイレができないと、災害の際の避難生活や旅行などで、我慢しすぎて体調を崩すかもしれません。

藤田先生によると、トイレトレーニングができていないことが、犬の身体に重大なトラブルを引き起こす原因にもなるそうです。

「雄犬は電柱などにマーキングをします。その子は柴犬の男の子でしたが、マーキングをしたい場所に全力で走って行っておしっこをする、この行為を繰り返すうちにヘルニアになってしまいました。そこで用を足していい場所に着いたら飼い主さんが声をかけ、おしっこをさせるようしつけたところ、全力で引っ張って走る癖がなくなりました。当時この子は10歳でしたが、大人になってもきちんと教えればトイレトレーニングは可能なのです」

トイレトレーニングに限らず、しつけの開始に「遅すぎる」はないようです。ただし、「その子に合わせた、効果的なトイレトレーニング」は案外難しく、用を足しそうになったらトイレに連れて行く、うまくトイレができたら大げさに褒めてあげる、だけではうまくいかないことも多いのだとか。

「犬はもともと、洞窟の中などで休んでいた動物で、穴を掘ってその中で休み、食事は外でとり、排泄は巣穴から離れた場所で済ませていました。寝床でトイレをしてしまうと不潔ですし、匂いを目印に子どもが襲われる危険もあるからです。もちろん、どこでトイレをすればいいのかは親犬がしっかり教えます。犬はもともとすごいキレイ好きな動物ですから、寝床の中でトイレをしてしまう場合は、しつけ以前に『どこが寝床でどこがトイレなのかがわかりにくい環境』に困っているはずです。さらに、ペットショップで長く展示されていた犬は、寝床、食事場所、トイレを区別するという概念自体が壊れてしまっていることもあります」

なるほど、どこがトイレなのかを理解していなければ、いくらしつけをしても上手にできないですよね。では、トイレと寝床をハッキリ区別してもらうためには、どうすればいいのでしょうか。

「犬は、トイレの場所として地面が柔らかいところ、草や土の上を好みます。舗装された道路上やフローリングの床など、おしっこで足が汚れてしまう場所ではしたがらない傾向にあります。室内にトイレを作る際にはトイレシーツを使用したり、新聞紙を刻んで敷いたりして、ほかの場所との違いを明確にしましょう。飼育環境から布製品を撤去することでトレーニングが成功する場合もあります」

キレイ好きな犬は、汚れたトイレを嫌います。子犬は1時間に1回ぐらいおしっこをしますから、いつもトイレの状態を気にかけ、汚れていたらすぐキレイに掃除しておきましょう。トイレ用のしつけスプレーがありますが、うまくいくかどうかはケースバイケースなのだそうです。

「サークルが狭すぎたり広すぎたりするのも、トイレトレーニングがうまくいかない原因です。狭すぎれば寝床とトイレの区別が曖昧になりますし、広すぎると寝床とトイレとの位置関連がわかりにくいからです。どのくらいの広さがいいのかは一概には言えませんので、うまくできる広さを探しましょう」

犬が身体を隠して休めるハウスやクレートをサークル内に用意することも大切です。犬は洞穴で暮らす動物なので、ハウスやクレートがないといつも気を張った状態になってしまい、ゆっくりと休めないうえに、トイレトレーニングにも悪影響が出ます。

「トイレシーツを敷いていても的を外す、またはわざとシーツとは別の場所で用を足す犬もいます。こういうケースでは、飼い主はつい叱ってしまいがちですが、トイレトレーニングは叱ってはいけません。『犬は用を足したから叱られた』と考え、飼い主がいないところで隠れてするようになってしまいます。また、うまくできたときに大げさに褒め続けたことが失敗につながるケースもあります。用を足したら褒めてもらえると理解して、どこでもするようになってしまうのです」

では、うまくいかなかったときはどうすればいいのでしょうか。

「もしかしたら、トイレが狭すぎるのかもしれません。シートを何枚も広げておき、100%成功する環境を作りましょう。慣れてきたらシートを少しずつ減らしていけば成功するはずです。また、成功しても失敗しても放っておいたほうがいいケースもあります。褒めてしつけるべきなのは、飼い主が声をかけたときだけに用を足すようしつける場合です。本番中におしっこをすると大幅に減点される競技会などに出場させようと考えている人は、一般の人とは異なったしつけが要求されます」

トイレトレーニング成功のコツは『犬が快適に用を足せる環境を整える』ことなのだそうです。トイレ問題で困っている飼い主さんは、まず自分がきちんとしたトイレを与えているのかを見直すべきかもしれません。

[辻村多佳志]