犬と一緒に暮らすための素敵な家を建て、家族みんなで楽しく幸せに。愛犬家なら誰もが夢見る理想の未来ではないでしょうか。今回、お話をうかがった高木さんご一家は、その夢を実現した人です。さらに、愛犬と暮らすために欠かせない「しつけ」「社会化」を見事に成功させた人でもあります。この連載では、しつけで悩んでいたり、困り果てている人の話がよく出てきますが、高木さんのように、しつけに成功された人の話をうかがうと、しつけの重要なヒントが見えてきます。
飼う前からの勉強が、いい子に育てるコツ
高木さんご一家は、夫の秀彰さん、妻の敦子さん、5歳と2歳になるふたりの娘さん、そして、黒ラブの「ヴァルト」くんとダックスフンドの「ロッシ」くんの、4人と2頭のご家族です。ご自宅は開発分譲地内の一戸建て。愛犬と暮らすために設計された間取りが特徴です。
高木さんがヴァルトくんと出会ったのは、築50年は経とうかという古い住宅に住んでいたころ。たまたまインターネットでラブラドール・レトリーバーのブリーダーさんのページを見て、ピンと来るものがあったのでしょうか、お住まいの神奈川県から犬舎がある栃木県まで足を延ばし、その日のうちに連れ帰ってきました。見に行くだけの予定だったため、ヴァルトくんを連れて帰る途中にホームセンターに立ち寄り、ケージなどを買いそろえたのだそうです。
こう聞くと、なんとも計画性がない衝動飼いのように受け取られてしまいそうですが、そうではありません。ヴァルトくんを迎える前からしっかり勉強し、知識や見識を蓄えていた。これが、住宅地で犬を飼う際に求められる、犬の社会性育成としつけの成功に結びつきました。
「実家にいたころにも犬は何頭か飼っていましたし、大型犬を飼いたいなと思い始めてからは、さまざまな犬種について勉強しました。そのなかで、温厚な性格のレトリーバー系がわが家の暮らしに向いていると思ったんですね。レトリーバーを探し始めてからも、もちろん勉強は続けていました」
つまり、こういった勉強の積み重ねがあったからこそ、たまたま訪れたブリーダーさんのもとで、運命の出会いが待っていたわけです。こちらの連載記事でもアドバイスをしていますが、事前の勉強はとても大切なことです。そして、その勉強が「正しいしつけ」にも役立ちました。
「同じときに生まれた兄弟姉妹のなかで、ヴァルトはいちばん大きな子でしたが、元気なぶん大変でもありましたね。甘噛み、飛び付き、マウンティング、要求吠えは当たり前で、床は掘られ壁は掘られ、トイレシーツはすぐビリビリに破かれていました。でも、そういったイタズラに困り果てたということはないですね。子犬のころはそういうことをするものだという知識がありましたし、しつけの方針も決まっていましたから」
そのしつけの方針とは「犬が悪いのではなく、すべての責任は自分たちが勉強したかどうかにある」ということ。犬がいい子になるか困った子になるかを決めるのは、飼い主がきちんと勉強し、しつけのコツを身につけられるかどうかにかかっていると、高木さんは早くから考えていました。そこで門を叩いたのが藤田先生というわけです。
「犬を預けてトレーニングする方法もありますが、トレーナーのいうことだけはよく聞くのに、飼い主さんの言うことは聞かない犬になってしまう可能性もあります。家族全員と、さらには、ほかの犬や人とも心が通うよう育てることが、しつけのゴールなのだと考えてください」と藤田先生。
問題行動があっても、ヒステリックに怒ってはいけません。それでは、いつも飼い主さんに怯えながら生きていく犬になってしまいます。高木さんは、ヴァルトくんが穴を掘ったり入っては行けないと決めた場所に入ったとき、怒るのではなく、そら来た知恵比べだ! と考えて、ヴァルトくんが問題行動を起こさないような環境を整えてあげるよう務めたそうです。つまり、犬と人が一緒に学んでいく「共育」を実践していたわけですね。
多頭飼いすると社会性が養われます
もうひとつ、高木さんの考え方で参考にしたいのは「社会化に対する意識」です。家の中ではやんちゃだったヴァルトくんですが、いざ外に出ると、大きな身体に似合わずとても臆病だったそうです。臆病なままでは、ほかの犬や人と仲よく楽しく暮らしていくことはできない。ならばどうすればいいか。そう考えた結果、たどり着いたのが多頭飼いでした。
臆病な子や社会化ができていない子は珍しくありません。しかし、そこから脱出し、共生社会の一員として幸せな一生を送ってもらいたいなら、自分と犬という狭い関係性だけでなく、社会全体の中でこの子をどうすればいいのか、という広い視野を持つべきでしょう。臆病だからほかの犬や人を避ける、という発想では、ますます状況を悪化させてしまいます。
「ロッシは、埼玉でマンションの前に捨てられていた犬です。いわゆる保護犬ですね。ヴァルトを連れて面接に行き、相性が悪くないことを確認して連れてきました。最初のうちは吠えたりしていましたが、そのうちヴァルトとも仲よくなって、今ではいつも一緒に寝て、一緒に遊んでいます。以前は怖がっていたほかの犬や人とも仲よく積極的に遊べるようになりましたね」
身体のサイズがまったく違うヴァルトくんとロッシくんですが、力関係ではロッシくんのほうが上なのだそうです。しかし、多頭飼いすることでヴァルトくんは臆病なところが薄れ、ロッシくんも保護犬とは思えない穏やかな子に育ちました。
「犬の社交性や社会性は、触れ合いが多ければ多いほど養えます。子犬のころからの多頭飼いはオススメですね。これまで、多頭飼いされている方のトレーニングも数多く手掛けてきましたが、多頭飼いしなければよかったと後悔している方には一度も出会っていません。多頭飼いは敷居が高そうなイメージがありますが、しつけという面ではメリットがたいへん大きいですね」
散歩の手間や飼育費用はたしかに増えますが、それを差し引いても積極的にチャレンジするだけのメリットが、多頭飼いにはあるようです。