ドッグトレーニングの現場から Vol.16

基本的「コマンド」トレーニングのコツ

まずはさまざまな場面で役立つ「スワレ」から

[2016/6/7 06:00 | 辻村多佳志]

「オスワリ」「マテ」「フセ」などのコマンドは、犬とともに暮らすためのポピュラーなしつけです。吠え癖や噛み癖などの問題行動を直すしつけに比べれば、さほど苦労せずに覚えてくれるはずですが、より早く確実に覚えてもらうためにはコツがあります。藤田先生に教えてもらいましょう。

監修/訓練士 藤田真志
麻布大学獣医学部卒/動物人間関係学専攻 (社)ジャパンケネルクラブ公認家庭犬訓練士 (社)ジャパンケネルクラブ愛犬飼育管理士 2004年に「HAPPY WAN」を開業

前回の記事で、愛犬にコマンドを覚えてもらうと、共生生活が豊かで楽しいものになることをお伝えしました。オスワリやフセができる犬は、まわりの人もつい「お利口さんね~」と声をかけてかわいがりたくなりますし、ショッピングセンターなど多くの人が集まる場所にも安心して出かけられますから、社会性がより育まれていくと言えます。競技会やアジリティに挑戦する犬や、狩りなど特別な仕事に携わる犬など、特殊なコマンドが必要になる場合もありますが、一般の家庭犬でしたら、以下のコマンドを覚えてもらいましょう。ひとつずつ順を追ってご紹介します。

家の中でもお出かけ中でも便利な「スワレ」

「スワレは、教えておくといろいろと役に立つコマンドです。人に飛び付いてしまう癖の予防につながりますし、立っているよりもラクなので、散歩中の信号待ちや飼い主さん同志の立ち話、病院の順番待ちなど、さまざまな場面でおとなしく待っていてもらうことができます。自宅でブラッシングするときや、ごはんの時間などにマテをさせる前に座らせるなど、さまざまな場面で活用できます。なので、スワレはほかのコマンドよりも前に教えたほうがいいでしょう」

スワレだけでなく、マテやフセ、コイ(おいで)などのコマンドも一緒に教えたほうが早く覚えてくれそうな気もしますが、なぜスワレを最初に教えるべきなのでしょうか?

「コマンドを教えるときには『シェーピング』という概念が大切になります。終着点を考えて少しずつ覚えていってもらうという考え方です。まずは、簡単ですぐ覚えられるコマンドから教え、そのコマンドが確実にできるようになったら、少しずつ複雑なコマンドを教えていくのです。私たち人間も、小学生なのに小学生の勉強と高校生の勉強を同時に教えても理解できないのと同じですね」

たしかにそうです。いろいろなことに手を出して、“結局どれも中途半端”はよくある話ですね。教える側がシェーピングを考えてきちんと順番に教えていかないと、知識のない先生が思いつきで教えているようになってしまいます。

「座ることは、犬にとってごく自然な行動ですから覚えやすいのです。教えるコツは、まず『モチベーター』を考えることにあります。モチベーターとは、犬が何かをするときの動機のことで、おやつがほしい、褒めてほしい、体をポンポンと叩いてほしい、撫でてほしいなど、犬によって異なります。どんなことをすると犬が喜んでくれるのかを、日ごろからよく観察しましょう。ちなみにシェーピングとモチベーターの概念は、どのコマンドを教える際にも大切です」

そのモチベーターを活かした教え方が、おやつを使う方法です。犬の鼻の前におやつをかざして注目させ、そのまま犬の頭の上のほうにおやつを動かしていくと、犬はおやつを見上げます。もっと頭の後ろのほうまで動かすと、犬は自然に腰を下ろします。その際に「スワレ」などのコマンドを話しかけて、コマンドと行動を結びつけます。もし、おやつで誘導してもうまくいかなければ、お尻を軽く押して座らせ、座ったらおやつをあげる方法が覚えやすいのだそうです。

「ただし、おやつを与えたり褒めたりするのは、犬が座った姿勢にいるときに行いましょう。立ち上がらせてからご褒美を与えると、犬はいったん座ってもすぐ立ち上がるようになってしまいます。また、褒めようとした瞬間に立ち上がってしまう場合は、飼い主さんのテンションが高すぎることが原因かもしれません。褒めることがご褒美ではなく、逃げ出したくなる嫌なことになっている可能性があります」

大げさに褒めてしつける方法はよく知られていますが、犬の性格によっては逆効果になってしまうこともあるようです。これも、日ごろから犬の様子をよく観察していると気付くことができます。

スワレができたら、マテ、フセの順に教えましょう

スワレができるようになったら、次は「フセ」を教えましょう。おやつを使う方法がいちばん確実です。座った状態でおやつに注目させながら、フセ、とコマンドを与えながら犬の肩をグーッと押して伏せさせます。おやつをあげるのは、犬が完全に伏せた状態で。慌てるとコマンドの意味が明確に伝わりにくくなりますし、落ち着きがない犬になってしまいます。

フセができたら、次は「マテ」です。マテ、もおやつやごはんをモチベーターとして教えると覚えやすいそうです。

「マテを教える際には、待つことを止める『ヨシ』も同時に教えなくてはなりません。マテで動きを止め、『ヨシ』で動き出す、このサイクルができないと、マテができたことにはならないのです。『ヨシ』を忘れている飼い主さんが多いので注意しましょう。また、『ヨシ』の意味を理解してもらうためには、必ず飼い主さんが『ヨシ』とコマンドを与えてから動き出すようにしなくてはいけません。長く待たせておいて、犬が動いてしまうとダメダメと制止する飼い主さんも多いのですが、これではトレーニングになりません」

最初のうちは、5秒くらい待てればOK。無理に長く待たせる必要はありません。5秒間確実に待っていられるようになったら、10秒、20秒と段階的に待ち時間を延ばしていきましょう。30秒くらい待てるようになったら、おやつなしでのマテ、お散歩中のマテ、ドッグランなどでのマテ、といった具合に、犬が気が散る場面でもしっかり待っていられるように、段階を追って上達していってもらいましょう。

さて、ここまでの連載で、しつけに関する基本的なテクニックと考え方については、ほぼご紹介しました。次回からは「拾い食いを直すには」「呼んだら来る犬にするには」など、ポイントを絞ったしつけのコツを、藤田先生にうかがっていきます。

[辻村多佳志]