行動しなければ命は守れない! ~ペットの飼い主が行うべき災害への備えとは

[2021/05/31 6:01 am | ペットジャーナリスト 阪根美果]

日本は災害が多い国です。甚大な被害をもたらした東日本大震災から早くも10年が経過しました。2016年にも熊本地震が起こり、集中豪雨や台風による自然災害が多発するなど、年々災害のリスクが増しています。災害は突然起こります。

いざというとき、飼い主とペットが安全に避難し、一緒に暮らせるようにするためには、日ごろからの「心構え」と「備え」が大切です。しかし、知識として知っているだけでは命を守ることはできません。災害を想定し、実際に行動することが必要です。飼い主はこうした災害に備えて何をするべきなのでしょうか。

災害が起きたら「迷わずペットと一緒に避難する」

2013年に環境省は、大規模災害時には飼い主の責任でペットと同行避難することを基本とするガイドラインを策定しました。東日本大震災ではペットと一緒に避難することが周知されておらず、ペットを家に置いたまま避難する人が多くいました。その結果、飼い主と離れ離れになり、多くのペットが路頭に迷うことになりました。

10年経った現在でも、飼い主の元に戻れないペットがいるといいます。一度はぐれてしまったら、再会することはとても困難です。飼い主とペットが安全に避難するためには、まず飼い主自身の安全を確保することが大前提となります。そのうえで、避難指示が出たら「迷わずペットと一緒に避難する」ことが大切です。

しかし、過去の災害ではペットと同行避難したものの、「避難所には入れなかった」という声も多くあがっています。現実には人命救助が優先されますし、ペットの受け入れ態勢は自治体ごとにバラツキがあります。避難所には動物が苦手な人や動物アレルギーの人、ニオイや鳴き声を気にする人もいます。そのため、ペットの飼育場所を別に設ける避難所もあれば、一切受け付けない避難所もあります。やっとの思いで避難所に到着しても、「ここではペットの受け入れはできません」と断られてしまう場合もあります。

このような状況から、迷惑をかけたくないと避難しなかったり、ペットにご飯をあげるために家に戻った飼い主が家屋倒壊で命を落としたり、ペットと一緒にいるために車中生活を選びエコノミークラス症候群に繋がったケースもありました。また、SNSでの間違った情報に翻弄され、避難所難民になったケースもありました。「ペットと一緒に入れる避難所の情報を事前に教えてほしい」「避難所の明確なルールを作成してほしい」と考えた飼い主も多かったことでしょう。

今年2月、環境省は大規模災害時に避難所でのペットの受け入れが円滑に進むように、各自治体の避難所のペットの受け入れの可否を公表する方針を決めました。公表されれば、飼い主は迷うことなく、その避難所を目掛けてペットとともに避難できます。より安全な避難経路も事前に確認できますし、避難環境もペットを飼育することを考慮したものになるはずです。これからは「迷わずペットと一緒に避難する」が鉄則となります。

また、自治体によっては民間団体等と協定を結んで、ペットと一緒に避難できる避難所を確保する動きも出てきています。5月26日、熊本県熊本市にある九州動物学院は、災害時に学院内に避難所を設置する協定を熊本市と結びました。既にこの学院は実績があり、熊本地震の際に最大23日間で1500人、1000頭の受け入れを行いました。今回の協定では、1週間程度で1日200人、300頭ほどの犬や猫の避難ができます。人もペットも安心して避難ができる場所があるということは、何より心強いことです。このような動きが全国的に広がることを期待します。

飼い主が自治体に要望をあげることも大事

しかし、環境省の公表があったとしても、ペットの受け入れ可能な避難所がない地域では不安が残ります。実際に大規模災害が起こっていない地域においては、危機管理の意識が低い傾向にあり、ペットの同行避難にまで対策が進んでいないことが多いのです。そのような場合には、飼い主自らが自治体に要望をあげることが大切です。飼い主一人ひとりが危機管理の意識を持ち、その気持ちを伝えることが自治体を動かすことに繋がります。「命」を守ることですから、遠慮はいりません。どんどん伝えていきましょう。

同行避難を想定した準備をする

環境省の公表を待ちつつも、飼い主それぞれが「備え」をしっかりと考え、行動することも大切です。同行避難や避難所でのペットとの生活を想定して、どのような準備をしたらよいのでしょうか。具体的に考えてみましょう。

【フードと水の備蓄】
ペット用支援物資が届くまで5日以上、できれば7日間分を用意する。避難所ではいつものフードはまず手に入らない。決まったフードしか食べないようなら、さらに多めに用意する必要がある。また、人間用の物資である水をペットに転用すると批判があがる可能性もある。ペット用の水が届くまでは、飼い主が用意したいところ。ペットボトルには必ず「ペット用」とマジックで記載しよう。食器も忘れずに用意する。

【療養食や常備薬の準備】
病気療養中のペットには必要不可欠。災害時には手に入りにくいので、普段からゆとりを持って備えておこう。不足した場合のために、療養食や常備薬の銘柄や量などをメモしておくとよい。ペットの飼育記録や飼育手帳、ワクチン証明書、狂犬病予防済のコピーなどを準備しておくと、いざというときに役立つ。

【そのほかのペット用品等の準備】
備蓄品は命に関わるものから優先順位を付けて準備する。予備の首輪・リード(短めで伸びないもの)、ペットシーツ、トイレ用品、タオル、ブラシ、おもちゃ、トイレットペーパー、新聞紙、消臭スプレーなど、持参できる余裕があれば少量ずつ準備する。また、さまざまな用途で役立つのが布製ガムテープ。キャリーバックやクレート等の補修などに使用できるので用意しておきたい。

【キャリーバックやケージ等に慣らす】
避難所ではケージ等の生活になることが多いので、入ることに慣らしておくことが大切。少しでもペットを落ち着かせるために、普段から使用しているキャリーバックやケージ等で避難する。また、犬の場合は「待て」「おすわり」「ふせ」「むやみに吠えない」などの基本的なしつけをしておくことも大切。特に猫の場合は、避難所ではケージ等に入ったままになりがちなので、少しでもケージ等の外で運動ができるようにハーネスに慣らしておくとよい。

【迷子札やマイクロチップの装着】
災害時にはペットが驚いて逃げ出してしまうことがある。首輪に鑑札や狂犬病予防注射済票、迷子札(名前・電話番号を明記)を付けたり、マイクロチップを装着(登録済か確認)しておくなどの所有者明示が大切。首輪が外れることも考えて、マイクロチップとの併用が望ましい。ペットの写真や画像を用意しておくと、迷子のポスターなどを作成するときに役立つ。

【ネットワークを作る】
普段から飼い主同士のネットワークをつくっておくと、いざというときに助け合うことができる。例えば、情報を共有したり、足りないものを譲りあったり、被災地外にいれば一時的に預かってもらうことができる。飼い主に万が一のことがあったときでも、ペットを託せるような協力体制を築いておくことが大切。熊本地震の直後は、携帯電話が繋がらず、LINEが大いに役立った。

【家族で防災会議をしておく】
災害が起こった際の連絡方法や集合場所の確認、留守中の対処方法の確認、緊急時のペットの預け先の確保など家族全員で話し合い、情報の共有をしておこう。避難場所と避難経路の確認、日ごろからペット同伴の避難訓練に参加しておくことも大切だ。また、住まいの耐震強度の確認や家具の固定など、人とペットが生き残れる安全な場所(隙間)を確保する。ペットのケージ等も設置する位置や強度も考えよう。


玄関から靴を履いて出られるとは限らない

熊本地震で筆者が被災した飼い主に取材をした際に、「災害時は玄関から出られるとは限らない。靴やペット用品の備蓄、首輪やリード、キャリーバック等は、同じものを3カ所くらいに用意しておくとよい。できれば1カ所は家の外の物置などが望ましい」と聞きました。これは目から鱗でした。実際に経験した人でないと出てこない言葉です。確かに大地震が起これば、家のどの部分が崩壊するかわかりません。玄関が崩壊すれば、勝手口やほかの部屋の窓などから出ることになります。備蓄していた場所が崩壊すればまったく意味がなくなくなります。 3カ所くらいに用意しておけば、そのいずれかを持ち出せるかもしれません。避難後に可能であれば、不足したものをピンポイントで取りに行くこともできるでしょう。

また、「足に怪我をする可能性があるので、靴は履いて出たほうがよい。ペットが中型犬や大型犬の場合にも靴を履かせた方がよい」とも聞きました。大地震が起これば、道路にも瓦礫が散乱しています。クルマは使用できず、歩いて避難所まで行かなければならないこともあります。素足では歩きにくいし、怪我をしてしまえば、その痛みでなかなか前には進めません。飼い主もペットも、短時間で履ける靴を用意しておくことを勧められました。

家のなかでペットが行方不明になることも

災害発生時、飼い主はまず自分の安全を確保する必要があります。その後、ペットが逃げ出さないように、首輪・リードを装着して、キャリーバッグ等に入れ、速やかに避難をすることが大切です。しかし、地震での大きな揺れはもちろん、物が倒れる、壊れるなどの音に驚き、ペットがパニック状態になって、キャリーバッグ等に入れることができないこともあります。また、怖さのあまり倒れた家具などの隙間に隠れて、どこにいるかわからないこともあるのです。

熊本地震でも、多くのペットが行方不明になっています。もし、ペットを保護できなかったら無理はせず、ペットが逃げ出さないように、家の戸締りをして避難をしましょう。その際には、「家の中にペットがいます」と書かれたペット残留情報カード等を目立つところに貼り、ペットが室内に残っていることを周知しておくことが重要です。飼い主が戻れなくても、その情報を見た誰かがペットを救ってくれるかもしれません。情報さえ残していればペットと再会できる可能性は高くなります。詳細を記載したペット残留情報カード等は、ぜひ用意しておきたいものです。

台風で家が壊れてペットが逃げてしまった

大規模な台風の場合には、窓ガラスやドアなど家の一部が破損してしまい、そこからペットが逃げ出してしまうことがあります。2019年の台風15号の際には、筆者は何度か千葉県安房郡鋸南町に支援物資を持って行きましたが、飼い猫が逃げ出してしまい行方不明になったという話をいくつか耳にしました。そのようなことも想定して、台風の際には窓やドアから遠い位置にケージやクレートを設置して、犬や猫などのペットを一時的に避難させるのもひとつの方法です。普段から災害に備えて、ケージやクレートに入ることを慣らしておくことも大切でしょう。

まとめ

時代の流れとともにペット防災も変化をしています。飼い主はその変化に耳を傾けながら行動し、これからの大規模災害に備える必要があります。まずは、自分のペットは自分で守るという強い意志を持つことだと被災した多くの飼い主は話します。それこそが、災害に直面した時の「根本」なのでしょう。

ペトハピでは、ペットと家族の命を守るための災害対策を飼い主さんと一緒に考えるべく、「ペットも守る防災対策」の連載を開始しています。あわせてご一読ください。


[ペットジャーナリスト 阪根美果]