ペット先進国・ドイツを視察して ~Vol.1動物病院編~

5月24日から27日までドイツのフランクフルトとニュルンベルクを訪問してきた。今回の目的は、ドイツ最大の二次診療の動物病院、ユニークなペット専門店および2年に1回開催される世界最大のペットのトレードショー「Interzoo」の視察であったが、日本の動物病院関係者、ペット専門店並びに業界関係者を含め、ペットと暮らす方々にもご参考になる訪問ができたと考えている。

ドイツは人口が8094万人、面積は35万7000k㎡で日本の約94%である。外務省のデータによると、国民は、キリスト教(カトリック2546万人、プロテスタント2483万人)、イスラム教(400万人)、ユダヤ教(11万人)となっている。そして、「ペット先進国」であることをご存じの方も多いだろう。

国際市場調査会社ユーロモニターの調査によると、犬の数は706万7000頭で、猫の数は1201万5000頭となっている。飼育率に関しては、犬が14%で、猫が19%となっている。犬の飼育率は日本と同じであるが、猫は日本の約2倍になっている。

ドイツといえば犬のイメージが強い方も多いかもしれないが、じつは猫好きの国民と言える。また、日本からドイツに移住しフランクフルトで動物病院を開業した獣医師によると、ウサギやモルモット、ハムスターなどのげっ歯類、鳥や観賞魚を飼う人も多いそうだ。そして、ドイツ国内には、5つの獣医科大学があり、そのすべては国立大学となっている。毎年卒業する学生は約1000人で、動物病院で働く獣医師は男女半々だという。

日本からドイツに移住し、フランクフルトで動物病院を開業した獣医師のDr.Kiyomi Kressさんの情報をもとに、ドイツの動物病院を2つに分類すると、下記のようになる。

まず、今回はフランクフルトのTierklinik Hofheim動物病院(二次診療中心の動物病院としてはドイツ最大)についてご紹介することにしよう。

Tierklinik Hofheim動物病院の創業は1997年で3名の獣医師によりスタートした。現在のクリニックは1400㎡あり、スタッフは140名(獣医師45名、内17名は研修生;動物看護士95名)で各専門(内科、外科、皮膚科、放射線科、耳鼻咽喉科、整形外科、理学療法等)に分かれている。CTはもちろんのこと、プールによるリハビリ施設も備えている。

病院の外観

受付前には獣医の写真が掲載されている

創業から約3年で二次診療に移行したが、もっとも多い病気は「腫瘍」で、その後「整形外科疾患」「内科疾患」と続く。腫瘍は6人の専門医がおり、ドイツ国内はもちろんのこと、近隣諸国を含め約3500病院から動物たちが送られてくる。3分の2は紹介だが、残りの3分の1は直接来院するそうだ。1日当たり150~180の動物が来院するTierklinik Hofheim動物病院だが、治療に関しては、ワクチン接種やお腹をこわした等の簡単な病気は受けない方針となっている。

治療中の獣医師たち

CTスキャン

病院内に入ってみると、受付にはカルテがいっさい置いてなく、すっきりした印象だったので聞いてみると、カルテはすべて電子化されているそうだ。二次診療で快復した動物は、紹介してくれた動物病院に必ず戻すそうで、紹介する病院からの評判がとてもよく、病院間でもしっかりと信頼関係が構築されている。写真のように診察室には、獣医師と対面して、座って話せるように工夫がされている。日本の一次診療の動物病院では、診察室の中に獣医師と患者の飼い主が座って話せるようなスペースは少ないが、飼い主とのコミュニケーションをもっとも大切にしている。また、犬は一日平均4~5回散歩に連れ出すことになっており、動物福祉の点もしっかり考慮されている。

診察室には獣医師と飼い主が座って話せるようになっている

院内の様子

獣医師やスタッフの採用および研修生の受け入れに関しては、「やる気」「コミュニケーション」「チームワーク」の点を留意し、採用に際しては、筆記と面接があり、採用後4年間で専門医の取得を目指す。専門医を育てるという観点から、毎朝セミナーがあり、スタッフ全員の啓発を行っているそうだ。また、ドイツの大学では、学生は4カ月の研修義務があり、研修期間は無給である。この病院では、学生のみを研修生として受け入れているが、2018年まで研修生の受け入れはすでに予約済みとのことで、いかに人気が高いかがうかがえる。

ドイツと日本の動物医療では大きな違いがある。ドイツの場合は、動物看護士は麻酔や麻酔管理、注射もできるようドイツの法律で定められているのだ。そして、入院動物のケージの大きさも規定されている。

レントゲン機器

入院動物用のケージ

スタッフルームおよび研修室。スタッフのランチも用意される

建設中の新しい病院は診察室が7室から21室へ拡大予定

2次診療を中心にしていると、重篤な動物も多く訪れる。命が助かる見込みがない場合には、安楽死も行う。荼毘にされた動物の約30%が飼い主の自宅に連れ戻されている。最近は、ドイツでも動物のお葬式も増えており、霊安室が用意される場合もあるそうだ。そして、動物たちを失った飼い主に対して、「グリーフケア」のセミナーを行っている。

このTierklinik Hofheim動物病院で誇れることは何かと尋ねてみたところ、次のような答えが返ってきた。

1.人間関係とコミュニケーションが素晴らしい
2.全員が家族のような関係である
3.設備や器具が超一流である

そして、最後に課題とチャレンジは何かと尋ねてみた。

1.労働条件の改善(病院が狭すぎる)
2.眼科の専門医を見つけること
3.専門医の分野を拡大すること

労働条件の改善として、現在1400㎡の病院だが、2倍以上の広さの新しい病院(3500㎡)を建設中で、スライド(写真)で紹介してくれた。設備も素晴らしかったが、病院内の人間関係、コミュニケーションを重要視しており、何と言っても飼い主とのコミュニケーションが診療の基本であるとの考え方には感銘を受けた。

次回は、世界でもここだけと言っていい、ミニ動物園、教育施設と言っても過言ではない、ドイツのペット専門店を紹介する。