【熊本地震】シェルターに預けられた犬は、なぜ飼育放棄されたのか

[2019/05/21 6:01 am | ペットジャーナリスト 阪根美果]

2016年4月14日に発生した熊本地震から3年が過ぎました。現在もなお、約4万人の人が避難生活を続けています。そこにはさまざまな理由があるのですが、そのひとつには「住宅再建の遅れ」が指摘されています。人手不足で復興が遅れ、全壊または半壊した人が新たに家を建てようとしても工事ができないという課題に直面しているのです。

また、被災した方が高齢の場合は資金の調達も難しく、新たに家を建てることを諦めざるを得ないという状況もあります。そのため、避難生活を強いられる人や、これまで住んでいた家を捨て、新たな環境で生きていくことを選択するしかない人も多いのです。それが、地域や家族の「離散」へと繋がっています。

しかし、この「離散」は人だけでなく、地震後に「阿蘇くまもとシェルター」に預けられた被災犬たちにも影響を与えることになりました。新たな環境で生きることを強いられたのです。今回は、里親募集をすることになった2頭の犬のお話です。

「阿蘇くまもとシェルター」とは?

熊本地震直後から行政は、大分県九重町に被災した犬や猫を受け入れるためのシェルターを設置しました。集まった熊本地震の義援金で受け入れるための整備を行い、「熊本地震ペット救済センター」として犬50頭、猫20頭の被災ペットの支援を行ったのです。

2017年10月末に熊本地震ペット救済センターの閉所が決まりましたが、まだ多くの被災ペットが飼い主のもとに戻れずに残っていました。行政の支援は終わりますが、被災ペットを路頭に迷わすわけにはいかないとの思いで、有志が力を合わせて開いたのが「阿蘇くまもとシェルター」でした。

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トイ・プードルのアイルくん

アイルくんは現在4歳(去勢済)になる男の子です。熊本地震で飼い主の自宅が半壊し、「阿蘇くまもとシェルター」に預けられました。健康状態は良好ですが、一般家庭で暮らした時期が短いため、しつけがいまひとつ入りきらず、要求吠えやトイレの粗相があり、またほかの犬に対する執拗な態度で、ほかの犬に嫌がられることもある子です。自分の欲求を満たす行動を害されるとキレることもあり、なかなかのやんちゃぶり。それでも、同じように被災したシェルターの犬たちとともに、飼い主のもとに帰れることを願いながら頑張ってきたのです。

しかし、震災後に徐々に飼い主の仕事の状況、アイルくんに対する気持ちが大きく変化します。出張が多くなり、転勤も伴い、現在は県外のペット不可の賃貸住宅に住んでいるといいます。地域性もあり、ペット可の物件はかなり少なく、また家賃や借りるときの資金もかなり高額になります。そこには金銭的な事情もあり、半壊した自宅は今もそのままのようです。アイルくんがシェルターに来てから、飼い主が会いに来ることはありませんでした。また、徐々に連絡も取れなくなり、預かり金の支払いも滞るようになってきたのです。当初は状況が整えばアイルくんを迎えに来るつもりでいたのだと思いますが、長く続く被災生活のなかでの変化は、アイルくんを再び迎えることを拒んでしまいました。

詳しい事情はわからないなか、阿蘇くまもとシェルターのスタッフは、何とか飼い主のもとで再び生活をしてもらいたいという一心で、何度も飼い主に連絡を取り続けたそうです。しかし、飼い主の放棄が決まったことで、里親募集をすることになりました。幸い募集を開始してすぐにアイルくんの新しい家族が見つかりました。今度こそ、飼い主とともに幸せな日々を過ごしてもらいたいという思いでいっぱいです。

ヨークシャーテリアのドルくん

ドルくんは現在14歳(未去勢)になる男の子です。血液検査やエコー検査も問題はなく、健康状態は良好です(背中とお尻にしこりがあるため手術を予定)。しかし、14歳という高齢であるため、シニア特有の動きがあります。吠えることはなく、1日のほとんどを寝て過ごし、散歩に出たときにトイレを済ましています。ドルくんもまた、長い時間をともに過ごした飼い主のもとに帰れることを願いながら頑張ってきたのです。

しかし、ドルくんの飼い主は迎えに来ることができない状況に陥ります。もともと、高齢のひとり暮らしの飼い主と生活していたドルくんでしたが、震災により自宅が半壊してしまいました。ドルくんはそのまま半壊の家に置かれ、数日おきに世話に行っていたようですが、電気の通らない半壊の家ではエアコンも使えず、飼い主が体調を崩し入院したことをきっかけに、シェルターに預けられることになったのです。

その後、飼い主は退院したのですが、半壊の自宅を建て直すこともできず、息子家族と暮らすことになりました。ドルくんと暮らせる環境ではなくなりました。預かり金は数カ月分だけ支払いがありましたが、その後は途絶えてしまいました。

シェルターのスタッフは何度もいろいろな方法で連絡を試みましたが、音信不通が続きました。ある日、電話で話すことができたので「迎えにきてください」と伝えたのですが、その後、連絡もなく……。その結果、飼い主の放棄となりました。里親募集をしているドルくんですが、高齢ということもあり、なかなか新しい家族が見つからないという現実があります。長い時間を一緒に過ごした飼い主と離れることは、ドルくんにとって、とても辛く寂しいことだったと思います。ドルくんの余生が幸せな時間となるよう願わずにいられません。

里親募集:ドルくんの里親募集に関しては「阿蘇くまもとシェルター」までお問い合わせください。
インスタグラム:https://www.instagram.com/doruairu
電話:080-3370-2232

まとめ

自然災害は予知なく起こります。日ごろから「もしものとき」のために、さまざまな準備をしておくに越したことはありません。しかし、被災すればその準備も空しく、想像以上の苦しい生活を強いられることもあります。それは人間だけでなく、愛犬や愛猫などのペットにも波及していきます。被災後、人間の生活がしっかりと送れるようにならなければ、再びペットを飼うことは難しいという選択になるかもしれません。しかし、ペットも家族の一員です。被災する前はそう考えてともに暮らしてきたはずです。

「阿蘇くまもとシェルター」の犬たちは、飼い主が迎えに来てくれる日を楽しみにしながら頑張っています。そして、シェルターのスタッフたちも、そんな犬たちの気持ちを大切に感じながら日々奮闘しています。さまざまな形でこのシェルターを支援している人たちも同じ気持ちでしょう。

今回の2件のお話は最終的に飼い主と音信不通が続いたことなどで飼育放棄となり、里親募集をすることになりました。飼うことは難しいという結果は、それぞれの被災後の事情があり、誰にも責めることはできないかもしれません。しかし、飼い主の責任として考えれば、愛犬が幸せに過ごしていけるように、シェルターのスタッフの力を借りて、ともに里親を探し、しっかりと次の飼い主に託す努力は必要であると思うのです。

「命」のバトンを繋ぐのも、飼い主の大切な役目です。

[ペットジャーナリスト 阪根美果]