賢者の目 Vol.23

熊本地震による被災家庭動物の救護に寄せて

[2016/07/28 6:00 am | 酒井健夫]

平成28年4月14日21時26分、熊本地方を震源とするマグニチュード6.5、最大震度7の強い予震が、さらに16日1時25分、マグニチュード7.3、最大震度7の本震が発生しました。

報道によると、この地震で死者は関連死を含めて67名、行方不明1名、重軽傷者1648名、最大避難者18万4000名、さらに熊本城の損壊や阿蘇大橋の崩落をはじめ、多くの家屋倒壊や土砂災害等、大きな被害をもたらしました。電気、ガス、水道等のライフライン、交通網が被害を受けて、多くの人々の生活に甚大な影響が生じ、今なお避難生活を余儀なくされています。一日も早く地震発生前の生活に戻られることを願ってやみません。

この熊本地震の特徴は、これまでに経験したことのないほどの余震が続いていることで、気象庁は被災地域で発生した震度1以上の地震が、5月7日までに1300回を超えたと発表しています。地震発生直後から警察、消防、自衛隊、自治体、医療機関が、住民の救出や救護、避難生活の支援に取り組み、国は現地に非常災害対策本部を設置し、復旧や復興を推進しています。

日本獣医師会では、本震に見舞われた直後に「熊本大震災救援緊急対策本部」を設置し、被災動物の救護や獣医療の提供、被災した動物病院や獣医師の支援を開始しました。

1.被災地の獣医師の安否確認、動物病院の被害状況の把握
2.獣医療提供体制の実態や被災動物の受け入れ頭数と受け入れ可能頭数の把握
3.同行避難した動物の頭数確認
4.連絡体制や連絡網の確立
5.同行避難した動物の診療
6.保護預かり依頼のあった際の受け入れ施設の整備
7.飼い主からの各種相談の対応が、組織的に実施できるように整備
8.全国の地方獣医師会や所属する獣医師に対して義援金の募集
9.被災地調査チームと獣医師の派遣
10.支援に必要な動物用医薬品や医療機器の提供体制の整備
11.被災地から他県に避難する動物の移動体制の整備
12.日本獣医師会の支援窓口は、熊本県獣医師会に設置された現地災害対策本部に一元化し、支援や獣医療提供が円滑かつ効率的、組織的に図れるように調整
13.福岡県獣医師会の獣医師と動物看護師で編成された災害派遣獣医療チーム(VMAT)が、直ちに獣医療が提供できるように、現地の動物病院と協力して活動を開始

地震発生から1週間が経過した4月25日、日本獣医師会は、熊本に派遣した地震調査団の報告に基づいて、現地対策本部の円滑な運営と獣医療提供のための獣医師や支援要員の派遣、動物用医薬品の提供、被災者への動物診療クーポン券の配布を決定。獣医師を含めた支援要員については、4月29日から6月15日まで派遣を続けました。

今回、初めての試みとして被災動物の救護支援のために発行した診療クーポン券は、1枚当たり1000円相当で、1冊が10枚つづりの1万円分を3000冊印刷し、避難生活を送られている飼い主に、本人が所有する動物2頭まで、すなわち一人2冊までを無償で配布し、当面5月1日から7月31日まで有効とし、被災地での被災動物の診療に使用できるように配慮しました。

被災動物の救護支援のために発行した診療クーポン券

また、熊本地震の被災動物を受け入れるため、九州動物福祉協会が以前から大分県・九重に設置することを計画していた九州災害時動物救援センターの開設を前倒しで行うことにしました。本センターは、東日本大震災時の被災動物の救護・救済の経験を生かし、地震等の緊急災害時に地域防災計画に基づいて被災動物の救護・救済に当たる環境を整備するものであり、全国に先駆けて九州地域で初めての恒久的な拠点施設となるものです。

本センターは、日本獣医師会、九州動物福祉協会、九州地区獣医師会連合会、大分県獣医師会が協同して設置・運営を行い、九州地区での地震等の緊急災害時の犬や猫等の家庭動物救護活動を広域的に支援することを目的としています。さらに、動物病院が併設されており、常時、獣医師による受診が可能です。実際に6月5日より被災動物の受け入れを始め、犬9頭、猫7頭が、スタッフと一緒に元気に生活しています(7月22日現在)。今後は、このような災害時動物救援センターが地域ブロック単位で設置され、災害に備えることが重要であると考えます。

Facebookページで犬や猫の情報を公開しています

熊本地震では、以前本コラムでお話をしましたが、環境省の「被災時におけるペットの救済対策ガイドライン」に従い、被災者と被災動物の同行避難、負傷動物の保護・救済、放浪動物の管理、動物救護施設の設置による被災動物の一時預かり等は対応できたと考えています。

環境省の「被災時におけるペットの救済対策ガイドライン」

しかし、避難場所で乳幼児を抱えた母親が、避難施設の廊下やクルマの中で過ごしていることに心を痛めたのと同様に、動物と同行避難した飼い主が周囲の人々に遠慮して、廊下や屋外、またクルマの中で過ごしていることに、今後解決しなければならない課題がそこにありました。すなわち、同行避難先である一時避難場所から、動物と一緒に安心して過ごせる二次避難場所の確保が必要です。

また、万が一に備えて、動物に迷子防止のためマイクロチップの装着、避難先で気兼ねなく過ごせるように、動物にふだんからのしつけ、避難用品や動物の病歴や通院歴、常備薬の確保、感染防止のためのワクチン接種、特に犬には法律に基づいて義務付けられている狂犬病ワクチンの接種を行っておく必要があります。

今後は、まだまだ続く被災状況の下で、人と飼育動物が不便なく過ごすことができ、人と動物の共生社会を現実的なものにするためにも、短期的な救済・救護活動から長期的な活動に切り替える時期が来ています。

熊本地震に関する日本獣医師会の活動は、日本獣医師会雑誌69巻224~227ページ306~309ページ368~369ページに掲載され、また日本獣医師会メールマガジンの会長短信「春夏秋冬」のNo.33に藏内会長のメッセージが掲載されていますので、ご参照ください。

[酒井健夫]