賢者の目 Vol.15

「動物介在療法」が日本で遅れている理由

[2016/03/17 6:00 am | 太田光明]

犬や猫をはじめとする動物が、「人の健康」によい影響を与えることを否定する人は、今や、ほとんどいない。私がこの分野に取り組み始めた2000年ごろにも、同じような雰囲気はあった。しかし、当時はまだ“信じる者は救われる”の域を出ず、「宗教」と同等の位置づけであった。それゆえ、「動物介在療法」も科学の最前線をいく「医学」からは相手にされず、科学の対象にならなかった。あれから15年余経ち、科学として認知されつつあるが、それでもわが国の実情は、欧米諸国に到底及ばない。言わば、「後進国」なのである。もっと残念なことは、国民はその事実さえ知らないことであろう。その要因について考えたい。

前回述べた動物に対する国民の態度を示す法律「動物の愛護及び管理に関する法律」(2012年)の内容は、イギリスのペット動物保護法である「Pet Animals Act 1951」(1951年)より劣る。もちろん、犬に関して、若い年齢での売買も禁止され、母親と引き離される子犬は、「8週齢以上」となっている。日本では、生後6.5週齢であり、イギリスよりも60年以上遅れていることになる。この事実を何人の国民が知っているのであろうか?

2010年7月にストックホルムで開催された「人と動物に関する国際組織」の第12回国際大会で、ドイツから注目すべき報告が発表された。それは、一般診療として治療に動物を介在させる、いわゆるアニマルアシステッドセラピー(動物介在療法)を、229の病院のうち38の病院で行っているというものであった。さらに、90%以上の医療従事者が動物介在療法の効果を認めているという報告もあった。

現在では、一時的に取り入れている病院も含めると、ほとんどの病院で動物介在療法が実施されている。また、アメリカやイギリスなど、動物介在療法の先進国では、その治療行為が公的に認められている。例えば、体調がすぐれず病院を訪れた場合、日本ではカウンセリングを受け、薬を処方されるのが一般的であるが、アメリカでは「犬や猫を飼いなさい」という処方が認められている。

動物介在療法は、病気の治療を目的としたものであり、医師をはじめ、医療に関わる国家資格を有する者しか実施できない。そのため、日本では“アニマルセラピー”と呼んで、無意識に区別している。つまり、欧米諸国とは異なった解釈がなされている。本来の「動物介在療法」の実績は、日本では皆無と言ってもよい。

なぜ、日本では欧米諸国のように「動物介在療法」が普及しないのだろうか? さまざまな理由が考えられるが、大きな理由のひとつは科学的な検証が不十分であることが挙げられる。また、厚生労働省などに認められていないことも普及の妨げになっている。現在の医療制度では、保険点数として加算されないと診療費として申請できない。すなわち、医療従事者が積極的に動物を取り入れようとしても、個人負担で治療を行わなければならず、実施に踏み出すには難しい現状がある。

さらに、私は日本人の慎重な国民性も理由のひとつだと考えている。欧米諸国の人々のように「効果を期待できるのであれば、何でもやってみよう」といった積極的なスタンスが、日本人には不足しているようにも感じる。

動物介在療法の対象は幅広く、自閉症・ダウン症・脳性麻痺・うつ病・統合失調症・心的外傷ストレス障害・アルツハイマー症などが挙げられ、難病とされる病気が多い。特に、現代医学では治療が難しいとされる病気に対しては、カウンセリングや薬を飲むよりも、動物を介在させた方が効果あるという多くの報告がある。わが国でも、難病に苦しむ人々のなかには、藁にもすがる思いで、動物介在療法の普及を願う人がいる。

わが国民は、欧米諸国の国民に比べて、少なくとも動物に関して、得るべき多くのことを得ていないのが現状なのだ。

[太田光明]