賢者の目 Vol.9

Adoption(アダプション)制度の必要性

[2016/01/21 1:15 pm | 太田光明]

新年明けましておめでとうございます。年初めに際して、「動物」や「ペット」をキーワードとする事柄の中で、「もしかしたら間違っているのではないか」と感じることについて述べてみたい。

はじめに、「終生飼養」について述べていこう。2013年に施行された改正「動物の愛護及び管理に関する法律」では、飼い主の義務として「終生飼養」の徹底が明記されている(第七条)。これにより、ペットの問題行動や高齢を理由とするなど、終生飼養の原則に反している場合には、都道府県は引き取りを拒否できるようになっている(第三十五条)。

やむを得ずペットが飼えなくなった場合には、自分で信頼できる譲渡先を見つけることも飼い主としての責任になる。この法律の「基本原則」には、『動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。』とある。さらに、『何人も、動物を取り扱う場合には、その飼養又は保管の目的の達成に支障を及ぼさない範囲で、適切な給餌及び給水、必要な健康の管理並びにその動物の種類、習性等を考慮した飼養又は保管を行うための環境の確保を行わなければならない。』(第二条)とも記されている。

つまり、この法律を遵守するためには、飼養するペットの生態、習性および生理を理解し、適正に取り扱わなければならない。ペットの生態とは、その動物特有の生息場所の選び方、栄養の取り方、有害な自然現象や外敵から身を守る方法などの生活形態全般を指す。ペットの習性とは、マーキング行動、攻撃性、縄張り、順位付けなどによってつくられた特性、それぞれの動物に一般的に認められる行動様式のことである。

また、ペットの生理とは、体温、成熟齢、発情、出産、寿命などそれぞれの種の生活原理を指している。動物への責任を果たすためには、ただ単に餌と水を与えるだけでなく、ペットの生態や生理に合った、しかもその習性が十分に発揮できる環境を整える必要がある。今、ペットと暮らしている人の何人がそうした知識を持ち、正しく実践しているであろうか!?

2007から2009年にかけて行った調査・研究がある。それらの結果によれば、一般家庭で犬を飼育する飼い主の79.6%が、自分の飼い犬に何らかの問題があることを訴えている。また、76.4%の飼い主が犬との関係が良好でない、とのオキシトシンのデータがある(オキシトシンについてはこちらで紹介しているので参考にしてほしい)。つまり、大半の犬の飼い主は、我慢して犬と暮らしているのである。少しぐらい嫌なことがあっても容易に手放せないし、飼い続けざるを得ないのである。そのことを法律も厳しく求めていることになる。

上記は調査・研究の結果の一部。問題行動の有無:飼い主に対して、「飼育しているイヌで現在困っている、あるいは治したいと感じる行動」があるかどうか尋ねたところ、494人中393人(79.6%)の飼い主が「ある」と答えている

前回の記事でも取り上げたが、ペットと暮らすことは、飼い主、特に高齢の方の健康に大きなプラス効果が期待できる。しかし、ペットとの関係が良好であってこその効果であり、良好な関係でない場合は、マイナスになってしまうことが容易に考えられる。

日本人の離婚の理由ナンバーワンは「性格の不一致」と言われている。犬と飼い主の「良好でない関係」の主因に「性格の不一致」(ミスマッチ)がある。たとえペットの生態、習性および生理を理解していたとしても、このミスマッチは努力しても越えられるものではない。そうした関係を「終生」つづけることは飼い主に大きな負担になっている。それが8割近い飼い主に「問題あり」、あるいは「良好な関係でない」と言わせているのである。

欧米諸国、とりわけアメリカでは、そうした「ミスマッチ」を解決する制度として、adoption(アダプション)がある。「アダプション」は、「養子縁組」と和訳されるが、「再スタート」と言い換えた方がよいかもしれない。ペットを飼い始めるとき、ある種の「保険」として、「アダプション」が制度化されている。有償の保険であり、一つのビジネスとして成立している。約8割の飼い主の「問題あり」、あるいは「良好な関係でない」という現状を解決する有力な制度であり、考えるに値する。しかし、そのとき、動物愛護管理法の「終生飼養」が大きな壁になっている。

アメリカでは、アダプションを通じてこれまでに数多くのペットたちが新しい家族に迎えられている。さまざまな動物愛護団体などがアダプションを実施しているが、こちらはPet Plus Naturalという企業で、Adoption Success Storiesでは、日々新たな出会いを紹介している
[太田光明]