「ペットフードからサルモネラ菌」に見る衛生管理の甘さとは

[2019/10/11 6:01 am | 阪根美果]

2019年9月3日、「サルモネラ菌に汚染されたペットフードで飼い犬15匹が死に至る」という疑いがあったノースペットが、ホームページにお詫びと報告を掲載しました。「商品が原因で健康被害が起きたとは断定できないが、引き金になったのではないか」との見解でお詫びをするに至ったのです。しかし、それと同時に他の商品もサルモネラ菌に汚染されている疑いがあると公表。現在、商品の出荷を停止し、第三者機関に検査の依頼をしているということです。ペットフードの安全はどのように守られているのでしょうか。今回の事案を見ながら、解説をしていきます。

汚染ペットフードによる健康被害状況

最初の異変は2019年1⽉に「変なにおいがする」とノースペットが製造した「⽝・猫⽤ササミ姿⼲し無塩」にクレームが⼊ったことでした。サンプル検査をしたところ異常は見つからず、「偶然による異常」だと判断しました。しかし、その2〜3週間後に異臭を訴えるクレームが3件届いたため、外部検査機関による本格的な調査を始めました。

検査の結果、汚染された⾷品の製造⽇が判明。商品からサルモネラ菌07群が検出されました。原料の鶏⾁や⼯場、従業員 から菌は検出されませんでした。しかし、このペットフードを⾷べた計68匹に嘔吐や下痢、⾎便の症状がでて、そのうち15匹が死亡したことから、事態を重く⾒た販売元が商品撤去・販売中止と共に公表したのでした。

そして、ノースペットは2019年9⽉3⽇に15匹が死亡するに⾄った件の「お詫び」をホームページで公表。汚染原因は未だ不明としながらも、関連の可能性があるのではとの⾒解から謝罪するに⾄ったのです。

発覚後の対応策は適切だったのか?

「お詫び」の文章内では、本件発覚以降、サルモネラ菌汚染の疑いのある製品の販売中止、流通在庫の回収・廃棄処分はもちろんのこと、下記の再発防止に向けた対応策を実施してきたといいます。

①原材料の保管:微生物の増殖を防止するよう温度管理を徹底
②機械・器具の洗浄、保守点検:適切に行われていることを確認
③加熱・乾燥工程管理:中心部まで十分に加熱されていることを確認
④工場設備の衛生管理(二次汚染対策:洗浄・除菌の強化および衛生意識レベルの向上
⑤従業員の衛生管理(二次汚染対策):社員向け研修および一段の衛生教育の徹底 また、製品の抜き取り菌検査および二次汚染対策として工場設備や床などの拭き取り検査を実施

しかし、上記のような再発防止策を実施するなかで、製造された「牛干し商品」からもサルモネラ菌の陽性反応が出たことを公表しました。商品の出荷前の抜き取り検査の段階で見つかったため、幸いにも被害は免れたということですが、汚染原因は未だ不明。現在、清掃方法など外部専門家や行政の意見も仰ぎながら、もう1段の向上に向け見直し中であるとしています。対応策は決して適切とはいえないものであったことが伺えます。

なぜこのようなことが起こったのか?

ノースペットは「約32年前から同じ方法で製品を製造しており、今まで問題が起きていなかったので安心してしまっていた部分があり大いに反省したい(フジテレビ「バイキング」の取材より)」と回答していますが、衛生管理はどの程度行われていたのでしょうか。再発防止策を実施したにも関わらず「サルモネラ菌の陽性反応」「汚染原因は未だ不明」ということは、そもそも衛生管理に対する考え方やそのレベルが低いのではないかと考えられます。

2009年に環境省と農林水産省共管のもと「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」(ペットフード安全法)が施行されました。2007年に海外において有害物質メラニンが混入した輸入材料で製造されたペットフードを食べた犬猫が死亡する健康被害があり、日本においても同じようなペットフードが輸入販売されていることが発覚。ペットフードの安全性を確保するために設けられたのがこの法律です。①安全性に係る知識・技術の習得 ②原材料の安全性の確保 ③ペットの健康被害防止のために必要な措置(たとえば製品の回収等)の実施に努めるのが事業者の責務(第3条)と定めています。規制の対象は総合栄養食、一般食、おやつ、スナック、ガム、生肉、サプリメント、ミネラルウォーターとされています。

ペットフードは人間の食品衛生法の規制対象ではなく、通常は「食品」の扱いではありません。「生活用品」としての「モノ」という扱いであるため、その製造過程における細菌基準もありません。
※食品衛生法とは、公衆衛生の見地から、食品に関して必要な規制、その他の措置を規定している法律。食品の安全性確保のため、 飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止することを目的としています。

ペットフード安全法には「ペットフードはこのような基準・規格で作らなければならない」という規制があり、成分規格においては農薬・汚染物質・添加物それぞれの上限値というものが設けられています。しかし、製造方法基準における有害微生物においては「加熱し、又は乾燥する場合は、原材料等に由来し、かつ、発育し得る微生物を除去するのに十分な効力を有する方法で行うこと」という記載のみで、どんな方法で、どれくらいの温度でどれくらいの加熱時間を設けるのかは記載されていないのです。
※食品衛生法では、例えば「乾燥食肉製品」はこうして製造しなければならないという細かい基準・規格があります。

2014年には農林水産省から「ペットフードの適性製造マニュアル」(PDF)が出されていますが、「本資料を参考にしながら衛生管理に努めること」という曖昧なもの。これらを見る限り、ペットフードの衛生管理は、製造する事業者の裁量に任されているものであり、ペットフードの「国産=安全」は徹底されていないことがうかがえます。

今回の事案は、事業者の衛生管理に対する考えの甘さはもちろんですが、記録を帳簿等に残していないトレーサビリティーの欠如、また法律の甘さや曖昧さが重なって起きたことと言えるでしょう。
※トレーサビリティーとは、食品の安全を確保するために、栽培や飼育から加工・製造・流通などの経路を追跡が可能にしくみのこと。

飼い主は人間の食品と同じように考えている

多くの飼い主は、市販されているペットフードは安全であると考えています。人間の食品と同じように衛生管理もしっかりとなされていると思っています。ノースペットのホームページにも「安心・安全」と書かれていました(編集部注:すでに当該ページは削除されている)。飼い主はそれを信じて購入し、被害にあったのです。

今回、亡くなった15匹の多くは高齢や病気がちであったため、ペットフードとの因果関係はわからないとしていますが、基本的にどの年齢であっても、どんな状態であっても、おいしくて安全に食べられることがペットフードのあるべき姿だと考えます。飼い主はペットの食欲が落ちていたりすると、必死に食べてくれるものを探します。どんな味がするのか、食感はどうなのかと自分で食べてから与える飼い主もいるほどです。

ペット=家族と考える時代、事業者はそんな飼い主の愛情を裏切るようなことをしてはならないのです。ペットフードも「ヒューマングレード」と考えるべきです。しかし、その「ヒューマングレード」は日本のペットフードにおいては良質な原材料を使うことばかりに目がいっているように感じます。前述したように法律の曖昧さが影響しているのかもしれませんが、今回の事案のように衛生管理への注目度が低いと思うのです。

最近「HACCP(ハサップ)認証がある工場で作られたペットフード」というのをホームページで公表している事業者を見かけるようになりました。HACCPとは安全で衛生的な食品を製造するための管理方法のひとつです。1960年代に米国の宇宙食の安全性を確保するために開発されたHazard Analysis Critical Control Pointの頭文字からとったもので、「危害分析重要管理点」と訳されます。食品製造行程中に危害防止につながる重要管理点をリアルタイムで監視・記録していく「HACCPシステム」の考え方が国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機構(WHO)の合同機関である食品規格(Codex)委員会から発表され、各国にその導入を推奨している国際的に認められたものです。

アメリカやヨーロッパではすでに導入が義務化されているため、食品はもちろんペットフードを製造する事業者にも浸透しています。日本においては任意であるため、導入している食品工場は3割程度と少なく、現状では包装を終えた段階で「抜き取り検査」をして安全を確保している状況です。

しかし日本においても、昨年の6月に改正食品衛生法が可決され、HACCPの義務化が決定しました。来年の6月には施行されます。食品の国際化により原材料、製品などが国際的規模で流通し、また環境汚染、微生物による汚染等々のなかで、従来行っていた最終食品を検査する方式では被害を十分に防止することは困難になってきたことが背景にあります。

この義務化で、食品の安全性は格段に上がることでしょう。ペットフードも食品を製造する事業者が別事業で製造しているところも多いので、この義務化は期待できると考えています。飼い主は食品もペットフードも同じレベルでと考えています。その「ヒューマングレード」を求めるニーズに応えるためには、すべての事業者がこのHACCPを導入するべきだと考えます。そして、正しい運用で今回のような事案を未然に防ぎ、万が一起きたとしてもそのトレーサビリティーで原因を解明し、早期に改善することが大切でしょう。

飼い主ができることは?

現状では、ペットフードの安全の確保は飼い主にゆだねられています。では、飼い主ができることはどんなことでしょうか?

・ホームページでHACCP等のしっかりとした衛生管理システムを取り入れた工場でつくられているかどうか確認してみる。表示がなければお問い合わせから確認してみる。
・ペットフード等に異変があるときは、速やかに事業者に連絡し、改善や的確な対応を求める。
・ペットフード等を食べたとで具合が悪くなった場合には、自己判断せず速やかに動物病院へ行き、獣医師に状況を説明し診察してもらう。
・飼い主もペットフードについて勉強する。現状ではペットを守れるのは飼い主だけである。
・環境省の「飼い主のためのペットフードガイドライン」を見てみる。

家族の一員であるペットの体は、人間と同じように毎日食べているものでできています。原材料も衛生管理も「ヒューマングレード」の考えを事業者は持つべきだと考えます。「ペットフード安全法」の改正はもちろんですが、事業者がそう認識することで、安全性はすぐに高まっていくことでしょう。そして、飼い主もペットの健康を守るために、知識を高め、正しい情報を収集することが大切でしょう。

[阪根美果]