賢者の目 Vol.25

日本動物児童文学賞入賞作品を読んで

[2016/09/15 6:00 am | 酒井健夫]

昨年、私は本連載で「地域コミュニティによる家庭動物飼育の推進を」と題するコラムをお届けしました。地域社会の人々の生活に連携した動物飼育環境を整備することは、地域コミュニティの活性化につながり、かつ家庭動物の飼育率の向上に期待できることを提案しました。この動物の飼育率の向上は、動物と人の共生社会の一層の推進や今後さらに拡大する高齢化社会の充実に寄与すると思っています。その飼育率を向上させる方法は、さまざまありますが、児童文学書を介して子どもたちに動物との関わりを身近に感じてもらうことも大切だと思います。

日本獣医師会は、次世代を担う子どもたちが、文学を通して正しい動物愛護の考えを理解し実践できるように、動物の福祉と愛護を推進する文学作品を広く募集しています。平成27年度は、応募された作品93点の中から日本動物児童文学大賞1点、同優秀賞2点、同奨励賞5点が選ばれ、9月に開催された動物愛護週間の中央行事の動物愛護ふれあいフェスティバルで表彰され、Webサイトでも公表されました。さらに、日本獣医師会は、児童文学大賞と同優秀賞の3点について、環境省と文化庁の後援、損害保険ジャパン日本興亜とアニコム損害保険の協賛により、「第27回日本動物児童文学賞受賞作品集」として1万部を出版し、地方獣医師会を通して全国の小学校や児童図書館に無償配布を行っています。

本年度の募集時のポスター

児童文学大賞を受賞した矢代稔さんの「アザラシ物語」は、小学4年生の男の子がゴマフアザラシの子どもを救護し、友人と飼育することを試みましたが、無理であることを知ったため、近くの水族館に持ち込み、そこでの飼育を通してアザラシの成長や野生復帰への道のりを体験しました。アザラシによる漁業被害、その飼育に伴う経費負担等の野生動物を保護する上での課題、さらには自然復帰への必要性を通して、野生動物の本来のあるべき姿を理解してもらうことを目的とした作品です。主人公はこの体験を夏休みの自由研究として取りまとめ、発表を通して野生動物の保護と自然復帰の大切さを、同級生にも理解させたという内容で、主人公の気持ちがよく表されています。

次に児童文学優秀賞を受賞した江馬則子さんの「よわむしくんの決意」は、動物が苦手な小学3年生の男の子が、クラスでミニブタの世話をする当番が回ってきました。心配で授業も身が入らず悩んでいましたが、そのミニブタが飼育小屋から脱走し、捕まった後に男の子が抱きかかえることになり、勇気を持って抱いたところ動物が温かく、しかも少しずつおとなしくなり、無事に小屋に戻すことができました。その後は怖くて近づけなかった犬にも接することができて、動物が苦手な男の子が、少しずつ慣れていく過程や動物を飼育することの責任を上手に表現されています。

同様に児童文学優秀賞を受賞した山岡ヒロミさんの「家族になってくれてありがとう」は、仲間や家族が殺され孤児となったアフリカゾウの子どもが、その生い立ちや日常生活、さらにはゾウの子ども同士の接触など、ゾウ本来の気性や生態を紹介しています。特にゾウの生態や厳しい生息環境を子どもたちにわかりやすく紹介された作品で、孤児になったゾウの運命を通して、野生動物の母子関係、その後に移送された動物園での飼育環境や飼育者との出会い、妊娠や出産、子育てを通してのゾウの生態が詳細に描かれています。また、ゾウの子どもが母親になり、親子の絆や人間の優しさを知って安心な生活を送る喜びを読者に伝えている物語です。

これらの受賞作品集は、日本獣医師会が関係機関の協力を得て毎年発行しているもので、次世代を担う子供たちが、動物を飼育することの喜びとその責任、さらに命の尊さや動物への愛情を学び、その結果、家庭動物の飼育率向上に繋がることが期待されます。みなさまもぜひ機会を設けて、受賞作品集をご覧になってください。

[酒井健夫]