子犬・子猫の出生日偽装だけじゃない! 悪徳ブリーダーによる「数値規制」偽装の手口とは

[2024/06/27 6:01 am | ペットジャーナリスト 阪根美果]

今年2月、環境省はペットオークションで犬猫の出生日偽装が横行している疑いがあるとしてブリーダーへの一斉調査を進め、その結果を発表しました。

動物愛護管理法では、生後8週齢以下での犬猫の販売を規制していますが、約1,400事業所のうち50事業所で規制違反を確認したとしています。

幼い犬猫の販売は衝動買いを招きやすい、親から早くに離すと社会性が身に付いていないなど、結果的に飼い主の飼育放棄に繋がることから「56日規制」が定められたのです。

昨秋に環境省がマイクロチップの登録情報を確認したところ、犬の出生日の曜日に偏りがあるブリーダーが一定数いることが判明。オークションの開催日に合わせて販売可能な生後56日を超えるように、出生日を偽造している疑いが浮上したのです。

要請を受けた各自治体が調査を実施し、偽装が発覚しました。また、調査した事業所のうち約700事業所で帳簿の不備などの法令違反が確認されました。各自治体はこれらのブリーダーに対し、勧告や口頭・文書指導をしたとしています。

環境省動物愛護管理室は「ブリーダーなどの関係団体に法令順守を要請するとともに、必要な制度の改善も検討していく」としています。

しかし、出生日偽装などの法令違反は、数値規制案の段階からある程度予想されていて、「数値で規制するだけでは何も変わらない」「悪徳ブリーダーはさまざまな法の抜け道を考えるにちがいない」との意見も多くありました。

そもそも「数値規制」とは?

2019年に成立した改正動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)は、動物虐待に関する罰則化、動物取扱業者に対するマイクロチップ装着の義務化、生後56日以下の犬猫の販売禁止(8週齢規制)、動物取扱業者に対する数値規制などが主な改正ポイントとなっています。

この法律は、多頭飼育により犬や猫を虐待する悪徳業者の存在や動物愛護の意識の高まりを背景に、動物の権利や命を保護するために変更されました。

それに伴い、2021年6月に施行された基準省令の数値規制は、劣悪な環境での繁殖・販売を防ぐために法律で具体的な数値を定め、動物取扱業者にその内容を順守させることを目的としています。例えば、以下のような規制です。

寝床や休息場所になるケージの広さ(運動スペース分離型)
犬:タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の2倍
猫:タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の3倍
猫は1つ以上の棚を設けて2段以上の構造にする

【従業員(週40時間勤務)1人当たりの飼育頭数】
犬:20頭(うち繁殖犬15頭)が上限
猫:30頭(うち繁殖猫25頭)が上限

【繁殖回数・年齢】
犬:メスの生涯出産回数は6回まで。メスの交配時の年齢は6歳まで(満7歳未満)
満7歳時点で出産が6回未満の場合、交配は7歳まで
猫:メスの交配時の年齢は6歳まで(満7歳未満)
※満7歳時点で出産が10回未満の場合、交配は7歳まで


そのほか、ケージや運動スペースの構造、従業員の就業時間に従った頭数の算出方法など、さらに細かい決まりがあります。

「1人当たりの飼育頭数」など一部の数値規制については経過措置がとられていましたが、第1種動物取扱業者に対する規制は今年6月から完全施行されました。

悪徳ブリーダーによる偽装の手口

しかし、実際には一部の繁殖現場において、前述した偽装だけでなく「数値規制」に関わるさまざまな法令違反が行われていることを筆者は耳にしています。

その偽装は多岐にわたり、まさに法と悪徳ブリーダーの「いたちごっこ」になっているのです。

ケース1:山の中に無登録の犬の繁殖場を増設

山梨県で第1種動物取扱業を営むAさんによると「知人ブリーダーが1人当たりの飼育頭数をごまかすために、人里離れた山の中に無登録の繁殖場をつくり、何種類かの小型犬をそこに移して繁殖させている。産まれた子犬は、登録してある繁殖場で同じ時期に産まれた子犬の兄弟姉妹と偽って販売されている」ということです。Aさんが今年6月からは1人当たり繁殖犬は15頭しか飼育できないと知人ブリーダーに伝えると「また余剰ぶんは移動させればいいだけ」と無責任なことを言っていたそうです。

ケース2:無登録のブリーダーから子犬を仕入れ

神奈川県で第1種動物取扱業を営むIさんによると「無登録で犬を繁殖している人から安価で子犬を仕入れて、自分が繁殖した子犬に混ぜて販売しているブリーダーがいる。数値規制で母犬の生涯出産回数が6回と限られたため、1回の出産でより多くの利益を上げるためにやっている」ということです。

ケース3:動物取扱業の登録更新時には余剰の犬を移動

東京都で第1種動物取扱業を営むHさんによると「自治体が繁殖場を見るのは動物取扱業の更新時だけなので、頭数制限など守る必要がないと知人ブリーダーが言っている。普段は30匹近い親犬で繁殖をしているが、更新時には余剰な犬を別の場所に移動させ、いかにも数値規制を守っているように見せかけていた。自治体の職員が施設を見に来たが、頭数制限内の匹数なので問題なく更新できていた」ということです。

ケース4:他の動物の世話をするスタッフも従業員としてカウント

千葉県で第1種動物取扱業を営むSさんによると「鳥や小動物、猫と幅広く繁殖をしているブリーダーがいて、実際に猫の飼育に関わっているスタッフは3人なのに、約150匹の猫を飼育している。3人の場合は75匹までしか飼育できないが、鳥や小動物の世話をするスタッフも猫の世話をする従業員としてカウントしているため飼育が可能になっている。これは法の抜け道。当然、手が足りていないので、猫の飼育環境は荒れ放題。病気の子もたくさんいる」ということです。

これらのケースは氷山の一角です。悪徳ブリーダーたちはさまざまな法の抜け道を考え、のうのうと営業を続けています。

前述のようなケースがあることを同業者が知っていても「仲間を売るようで言いづらい」と名前を公表したり、自治体などに通報することは稀です。この隠ぺい体質が、より悪徳ブリーダーがのさばる要因になっているのです。

格差が激しい各自治体の法の運用

岡山県で第1種動物取扱業を営むTさんは、譲った猫の飼い主が多頭飼育崩壊に陥っているのではないかと心配し、飼い主の住む香川県まで見に行きました。

玄関で何度呼びかけても応答がなく、家の周りも荒れ放題。埃にまみれた窓のガラス越しに見える猫も目やにだらけで、何らかの疾患にかかっていることが容易に想像できました。

飼い主は第1種動物取扱業を登録したブリーダーで、繁殖・販売も続けているため、「このような飼育環境では、猫たちが心配なのでなんとかしてほしい」と昨年9月から管轄の自治体に対応を要請しています。

しかし、自治体の担当者はいつも「まだブリーダーに会えていない」という返答をするばかり。その後も何度も自治体にメールを送っていますが、現状は返答すらない状態が続いているそうです。

「勇気を出して同業者を通報しても後手後手の対応では、助けられる猫の命も救えない。このようなブリーダーを野放しにするなら、法改正しても意味がない」と悔しそうに話します。

確かに「数値規制」が始まって以降、各自治体における法の運用には大きな格差があると筆者は感じています。

例えば、450匹余りの犬を劣悪な環境で飼育したほか、妊娠した犬5匹の腹部を獣医師の資格なしに麻酔をせずに切開したとして動物愛護法違反の罪に問われた事件のあった長野県松本市では、第1種動物取扱業を営むブリーダーに対し、かなり厳しい監視(立ち入り検査等)や指導が行われていると聞いています。

また、熊本県熊本市では、第1種動物取扱業の更新時(5年ごと)に寝床や休息場所になるケージの広さを1匹ずつの体長・体高を測った上で、メジャーを使って細かい数値まで読み取り、ケージの広さを確認。さらに、更新時以外にも抜き打ちの訪問が多々あり、違反があればそれが改善できるまで一時業務停止になると聞いています。

しかし、多くの自治体は更新時の立ち入り検査で対応をすればよいと安易に考えているようで、厳しい対応をしているのは大きな事件があって注目された自治体などごくわずかです。

そのため、香川県のケースのような劣悪な環境で過ごす犬や猫、前述のような数値規制の偽装をする悪徳ブリーダーがまだまだ多く存在しているのが現状です。

動物愛護管理法では、都道府県などは第1種動物取扱業者に対し、勧告、措置命令、業務停止、登録取り消しを命令することが可能とされています。

多くは、複数回指導して改善されない場合には勧告を行い、さらに改善されない場合には措置命令、続いて業務停止や登録取り消しを行うという手順です。

これらの際に立ち入り検査等を拒否された場合には、警察と連動して立ち入る場合もあります。しかし、自治体によっては具体的な手順や・条件等について定めていないところもあり、また、業務多忙、職員数・獣医師職員の不足などを理由に法の運用がなされていないところが多いようです。

各自治体により置かれている状況や問題は違いますが、監視体制の確立は急務だと考えます。悪徳ブリーダーをこれ以上のさばらせることのないよう、「監視の目」の強化が必要でしょう。

[ペットジャーナリスト 阪根美果]