台湾で猫の飼育数が犬を逆転 登録義務化から日本が学ぶべきこと

台湾で、家庭で飼育される猫の数が犬を上回りました。

台湾農業部が2026年4月に公表した2025年の推計調査によると、猫の飼育数は174万2,033匹で、前回の2023年調査から32.8%増加しました。一方、犬は146万2,528匹で、同1.2%減少しています。これは、台湾農業部が飼い主への電話調査をもとに、全国の飼育数を推計した結果です。

ただし、これは単純な「犬派から猫派への逆転」ではありません。総数では猫が上回りましたが、犬を飼っている家庭の割合は、猫を飼っている家庭より依然としてわずかに高いからです。猫の総数を押し上げた背景には、2匹以上の猫を飼う家庭の増加があります。

猫の飼育数が増えるほど、飼い主がそれぞれの猫を適切に管理し、迷子や遺棄、災害などに備えるための仕組みも重要になります。台湾では猫の増加に対応し、マイクロチップの装着とペット登録を飼い主に義務づけました。こうした動きは、日本でも猫の飼育や管理のあり方を考えるうえで、参考になる事例といえます。

複数頭飼育で問われるのは「仲よし」ではなく「安心」

猫は犬と比べて散歩を必要とせず、室内で暮らしやすいと考えられることが多い動物です。しかし、「迎えやすい」ことと「手間がかからない」ことは同じではありません。

猫には、安心して休める場所、身を隠せる場所、上下に移動できる空間、清潔なトイレ、落ち着いて食事や飲水ができる場所が必要です。複数の猫が同じ家で暮らす場合は、それぞれの猫が必要なものを無理なく利用できるよう、生活環境を整える必要があります。

米国猫臨床獣医師会が公表した「2024 AAFP Intercat Tension Guidelines」は、家庭内における猫同士の緊張は珍しくなく、その兆候が見過ごされやすいと指摘しています。2匹だけの家庭でも緊張は起こり、新しい猫を迎えたときに生じやすいとされています。

猫同士の問題は、けんかだけではありません。一方の猫が通路やトイレへの動線を塞いでいる、特定の猫だけが隠れて過ごしている、相手がいると食事や飲水ができないといった状態もあります。

飼い主は、猫同士が寄り添って眠る姿を理想としがちです。しかし、すべての猫が密接な関係を好むわけではありません。無理に仲よくさせるのではなく、それぞれが相手との距離を選べる環境をつくることが大切です。

食器、水飲み場、トイレ、休息場所、爪とぎ、隠れ場所などは、一か所に集中させず、複数の場所に分けて用意します。トイレは「猫の頭数プラス1個」がひとつの目安ですが、個数だけでなく、ほかの猫に邪魔されずに出入りできる場所にあるかも確認する必要があります。

食欲の低下、排泄場所の変化、過剰な毛づくろい、攻撃行動などが見られた場合も、すぐに猫同士のストレスと決めつけてはいけません。痛みや病気が原因の場合もあるため、変化が続くときは獣医師に相談する必要があります。

多頭飼育の成功は、何匹まで飼えるかという数字だけでは決まりません。1匹ずつの食事や排泄、健康状態を把握し、それぞれが安心して休める環境を維持できるかどうかで決まります。

台湾が踏み込んだ猫の登録義務化

台湾では、猫の飼育数が増えるなかで、個体管理の制度も強化されました。

台湾農業部は2025年1月1日から猫をペット登録の対象に追加しました。1年間の猶予期間を経て、2026年1月1日から本格的な取り締まりが始まっています。

飼い主が猫にマイクロチップを装着し、ペット登録を行わなかった場合は、3,000~1万5,000台湾ドルの罰金対象になります。期限内に改善しなければ、繰り返し処分される可能性もあります。

2025年の調査では、猫の登録率は66.48%でした。2023年の58.45%から8.03ポイント上昇しています。一方、登録義務を十分に認識していない飼い主もいるため、制度のさらなる周知が課題とされています。

マイクロチップにはGPSのような機能はありません。迷子になった猫の現在位置を追跡するものではなく、保護された猫の識別番号を専用リーダーで読み取り、登録情報と照合して飼い主を確認する仕組みです。

そのため、マイクロチップを装着するだけでは役割を果たせません。飼い主の氏名や住所、電話番号などを登録し、転居や連絡先の変更、飼い主の変更があったときには情報を更新する必要があります。

台湾の制度で注目したいのは、猫の登録を飼い主の善意だけに任せなかった点です。猫を家族として迎えるのであれば、その猫が誰に飼われているのかを社会的に明らかにすることも、飼い主の責任に含まれるという考え方がうかがえます。

登録は、行政が飼育数を数えるためだけの制度ではありません。迷子や逸走、災害、遺棄などが起きたときに、猫と飼い主を結びつける基盤になります。飼い主の責任を明確にし、命を社会のなかで見失わないための仕組みです。

日本の飼い主と制度が学べること

日本でも2022年6月から、ブリーダーやペットショップなどが販売する犬や猫について、マイクロチップの装着と登録が義務化されています。マイクロチップを装着した犬や猫を購入したり譲り受けたりした飼い主には、自分の情報への変更登録が義務づけられています。

一方、家庭ですでに飼われている犬や猫や、販売業者以外から迎えた犬猫への装着は努力義務です。マイクロチップを新たに装着した場合には登録が義務となりますが、日本ではすべての飼い猫に一律の装着・登録義務が課されているわけではありません。ここが、台湾との大きな違いです。

日本でも猫の推計飼育数は犬を上回っています。ペットフード協会の2025年「全国犬猫飼育実態調査」では、猫は約884万7,000匹、犬は約682万匹と推計されています。日本の犬猫の推計飼育頭数を見ると、これだけ多くの猫が家庭で暮らしているにもかかわらず、どの猫が誰に飼われているのかを把握する制度は十分とはいえません。

屋外へ出ない猫にも、マイクロチップは必要です。玄関や窓からの逸走、動物病院への移動中の脱走、地震や水害による避難など、飼い主と離れる可能性はあります。とくに複数頭飼育では、災害時の混乱のなかで全頭を確実に管理することが難しくなります。

台湾のように飼い猫の登録を原則として義務化することは、日本でも検討する価値があります。罰則だけを導入すればよいという話ではありません。装着費用への助成、登録手続きの簡素化、動物病院や保護団体との連携、制度の継続的な周知も必要です。登録するかどうかを個人の判断だけに委ねる現在の仕組みのままでよいのか、社会全体で議論していく余地はあるはずです。

制度が変わるのを待たず、日本の飼い主が始められることもあります。愛犬や愛猫にマイクロチップが装着されているかを確認し、装着されている場合は登録名義と住所、電話番号が最新の情報になっているかを確認することです。未装着の場合は、装着について獣医師に相談できます。

災害への備えも欠かせません。すべての猫を運べる数のキャリーがあるか、一人で全頭を運べるか、誰がどの猫を担当するかを確認しておく必要があります。フード、水、薬、猫砂、健康情報なども頭数に応じて準備します。

台湾の調査から読み取るべきなのは、犬と猫のどちらが多いかという数字の大小ではありません。増えた猫の命を、家庭と社会がどのように把握し、守っていくかという課題です。

猫を迎えることは、かわいがることだけではありません。その存在を登録し、情報を更新し、迷子や災害に備え、最期まで責任を持つことです。台湾が飼い猫の登録義務化に踏み込んだ姿勢は、日本の飼い主にとっても、行政にとっても、参考になる部分は多いはずです。

飼育頭数の増加を喜ぶだけでなく、1匹ごとの命が見失われない仕組みを整えることが必要です。それこそが、猫を家族として迎える社会に求められる責任ではないでしょうか。