愛犬とのドライブ、窓から顔出し・荷台乗車の危険|「喜んでいるから」と見過ごさない
窓から風を切って耳をなびかせ、嬉しそうに外を眺める愛犬。あるいは、軽トラックの荷台で風を感じながらじゃれ合っている姿。「気持ちよさそうだな」「喜んでくれて良かった」と感じる人もいるかもしれません。
しかし、その姿が楽しそうに見えることと、安全であることは別です。愛犬との時間を楽しむために、移動中の安全対策は十分でしょうか。飼い主が良かれと思って許している行動にも、見落としやすい危険が潜んでいます。

「つないであるから大丈夫」という誤解
軽トラックの荷台に犬を乗せ、リードでつないで走る光景を見かけることがあります。「つないでいるから飛び降りる心配はない」と考えるかもしれません。しかし、リードがあるだけで転落やけがを防げるわけではありません。米国獣医師会(AVMA)も、荷台で犬をつなぐ方法について、リードが絡まってけがをしたり、首が絞まったりする危険を指摘しています。
走行中の道路では、何が起こるか分かりません。急ブレーキや路面の窪みによる大きな衝撃。あるいは、荷台の上で犬同士が興奮してじゃれ合っているうちに、バランスを崩して荷台の外へ放り出されることも考えられます。
どんなにしつけられた犬でも、外の動物や音などに反応して、思いがけない動きをする可能性があります。「普段はおとなしく乗っている」というだけでは、突然の動きや衝撃への備えにはなりません。
リードでつながれた犬が荷台から落ちると、待っているのは悲惨な現実です。首輪とリードで宙づりになり、首の骨が折れたり、首が絞まって窒息したりするおそれがあります。転落を防ぐつもりの首輪やリードが、転落した際には犬自身を傷つけ、命を脅かす原因になり得るのです。
リードの長さや転落時の状況によっては、地面にたたきつけられ、そのまま引きずられる危険も考えられます。さらに、後続車などにはねられるおそれもあります。首輪が抜けた場合でも、走行中の車から道路へ転落すれば、衝突によって重傷を負ったり、命を落としたりする危険は残ります。
さらに、開放された荷台では、飛んでくる小石などから体を十分に守れません。小石や砂などが目や顔に当たれば、傷を負うおそれがあります。「小さな石だから大丈夫」とは言えません。
夏場には、日差しで熱くなった金属の荷台に触れて肉球などをやけどしたり、暑さによって体温が上がり、熱中症に陥ったりする危険もあります。風が当たっていても、荷台の熱さや暑さから体が守られるわけではありません。
「今まで大丈夫だったから」は、次も大丈夫である保証にはなりません。開放された荷台にリードでつないで乗せるだけでは、こうした危険への備えとして不十分です。愛犬の命を、これまで事故が起きなかったという経験だけに委ねないでください。
窓から出された顔に迫る危険
乗用車の窓を大きく開け、愛犬に顔や上半身を出させて走ることにも、命に関わる危険があります。飛散物によるけがだけでなく、急ブレーキや急な方向転換によって窓から投げ出されたり、自ら飛び降りたりするおそれがあります。
どんなにしつけられた犬でも、外を歩くほかの犬や猫、鳥などに反応して、思いがけない動きをする可能性があります。興奮して外へ身を乗り出し、そのまま開いた窓から飛び降りてしまう危険もあります。「いつもはおとなしい」「呼べば戻る」というだけでは、走行中の車からの飛び出しを防ぐ備えにはなりません。
走行中の車から飛び降りたり、投げ出されたりすれば、道路に体を強く打ちつけ、重大なけがを負ったり、命を落としたりするおそれがあります。さらに、周囲の車や、犬を捕まえようとする人まで事故に巻き込む危険があります。
仮に飛び出さなかったとしても、リスクは消えません。道路脇の電柱、街路樹の突き出た枝、すれ違う対向車のサイドミラー。車内からは通過できるように見える隙間でも、車外に出た愛犬の頭や体まで安全に通れるとは限りません。自治体の注意喚起でも、窓から顔を出したペットが対向車に接触する事故が想定されています。
また、犬や同乗者が誤ってパワーウィンドウのスイッチを操作し、閉まる窓に頭や首を挟まれる危険もあります。愛犬を喜ばせたいという気持ちで開けた窓が、けがにつながることもあるのです。犬の行動だけでなく、同乗者による窓の操作にも注意が必要です。
「知らなかった」で済ませない飼い主の責任
こうした乗せ方は、愛犬を危険にさらすだけでなく、運転や周囲の交通にも影響する場合があります。犬が運転者の膝から身を乗り出して視界を遮ったり、足元へ移動してペダル操作を妨げたりすれば、大きな事故につながりかねません。
道路交通法第55条第2項では、運転者の視野やハンドルなどの操作を妨げたり、後写鏡の効用を失わせたりするような乗車・積載をした状態での運転を禁じています。ペットの乗せ方によって、こうした状態で運転すれば、違反に問われる可能性があります。
膝に乗せた運転など、愛犬の乗せ方が運転の妨げになる危険については、関連記事「愛犬を膝に乗せての運転は危険です!」でも取り上げています。
ただし、法律違反になるかどうかだけで、安全を判断するべきではありません。「取り締まりを受けないか」ではなく、「急ブレーキや事故のとき、犬と人を守れるか」という視点が必要です。
また、動物への責任を考えるうえでは、必要な世話や保護を怠らないことも重要です。環境省は、必要な世話をしないことや、けが・病気の治療をせずに放置することなどを、ネグレクトに当たる行為として説明しています。
愛犬は、自分で安全装備を選ぶことも、自分でシートベルトを締めることもできません。だからこそ、飼い主や同乗者が危険を予測し、移動環境を整える必要があります。責任を考える目的は、事故の後で誰かを責めることではなく、避けられる事故を未然に減らすことです。
本当の「愛」を形にするために
車で一緒に出かけるとき、愛犬に用意したいのは「無防備な自由」ではなく、体を守れる場所です。開放された軽トラックの荷台にリードでつないで乗せることは避け、人が乗る車内で、適切に体を保護できる移動方法を選びましょう。車内に安全な場所を確保できない場合は、使用する車や移動方法を見直してください。
乗用車で移動する際も、車内で自由に動き回らせるのではなく、体格に合ったクレートやキャリー、車載用ハーネスなどを使います。助手席はエアバッグの作動によってけがをする危険があるため避け、後部座席など、製品の説明書で指定された場所に設置してください。
ただし、頑丈そうなクレートやキャリーバッグをシートベルトで固定すれば、どれでも「最も安全」になるわけではありません。米国のペット用品安全性評価団体によるキャリーの衝突試験では、本体の破損や接続部の外れなど、製品や固定方法による性能の違いが確認されています。
車載用途への適合、対象となる犬の体重・サイズ、指定された固定方法を確認し、説明書に従って設置しましょう。シートベルトを使う製品は、指定された位置に正しく通すことが必要です。見た目の丈夫さだけでなく、衝突試験の条件や結果が公開されているかも、選ぶ際の判断材料になります。
クレート以外の方法を選ぶ場合は、首輪にリードをつないで車内に固定するのではなく、体格に合ったハーネスと、対応する固定具を使用してください。普段の散歩用具を自己流で組み合わせず、車での使用を想定した製品を正しく装着することが大切です。
窓は閉めておくことを基本とし、換気のために開ける場合も、愛犬が顔や体を外へ出せない状態を保ちましょう。「数センチなら安全」と一律に判断せず、適切な固定によって窓から身を乗り出せないようにしてください。パワーウィンドウのロックを使い、窓を操作する前には犬の位置を確認することも必要です。
車内ではエアコンを適切に使い、駐車中の車に愛犬を残さないでください。窓を少し開けていても、車内の危険な温度上昇を防げるわけではありません。
後悔を残さないために
ドライブ中、愛犬が見せる嬉しそうな表情は、飼い主にとってかけがえのないものです。しかし、その表情だけを理由に、安全対策を後回しにしてはいけません。楽しい時間を守るためにも、事故が起きてからでは取り返しのつかいことがあると、出発前に考えておく必要があります。
もし自分の油断や甘い考えのせいで、目の前で愛犬が車から転落し、苦しみながら命を落としたら。そのとき「あのとき荷台に乗せなければ」「窓を閉めておけば」と悔やんでも、失われた命は二度と戻ってきません。残されるのは、自らの落ち度で愛犬を死に追いやったという、深い罪悪感だけです。
そんな後悔を残さないために、今の乗せ方を見直してみてください。荷台にむき出しで乗せない、窓から身を乗り出させない、適切な器具を正しく使う。対策は、日々の選択から始められます。
安全対策をしても、すべての事故を防げるわけではありません。それでも、これまで無事だったという経験だけに頼らず、予測できる危険に備えることはできます。
私たちが車に乗るときにシートベルトを締めるのと同じように、愛犬にも命を守るための備えを用意すること。喜ばせたいという気持ちを、安全な移動環境という形にすることが、言葉を持たない家族の命を預かる飼い主としての愛情です。


