ペット飼育費の高騰が止まらない 愛する家族を守るためにできること

現代社会において、ペットはかけがえのない家族の一員であり、日々の生活に喜びと癒しをもたらします。

しかし、世界的な物価上昇は、私たちの家計だけでなく、愛するペットとの暮らしにも影響を及ぼしています。特に「食」と「医療」にかかる費用が増加傾向にあり、多くの飼い主が「よりよいものを与えたい」という愛情と、「生活費とのバランスをどう取るか」という現実的な課題に直面しています。

米国ペット製品協会(APPA)のデータによると、米国では約9,400万世帯がペットを飼育しており、過去5年間でペットフードとペットサービスの価格は著しく上昇しました。2025年4月時点では、ペットフードの年間インフレ率はほぼゼロに鈍化したものの、2019年と比較すると22%高水準です。一方で、獣医療を含むペットサービスの費用は高騰が続き、同期間で42%も上昇しています。

バンク・オブ・アメリカの支出データ分析によれば、飼い主がより安価なペットフードを選ぶ「トレードダウン」や、食料品店での購入へとシフトしている傾向がうかがえます。また、ペット保険の普及が獣医療費の支出抑制に寄与している可能性も指摘されており、特に低所得層のミレニアル世代ではペット関連支出の引き締めが顕著です。

この傾向は日本でも同様に見られます。総務省の消費者物価指数によると、2025年4月の総合指数は前年同月比で3.6%上昇しており、この物価上昇がペット関連費用にも波及しています。アニコム損保の調査によれば、日本のペット飼育費用は、犬が年間414,159円(前年比122.3%)、猫が年間178,418円(前年比105.4%)で、犬・猫ともに前年を上回りました。

また、総務省の家計調査(2024年、二人以上世帯)では、ペット関連費用の月額平均は30,023円に達し、そのうちペットフードが9,957円、動物病院代が9,572円を占めています。ペットフード協会の調査によると、ペットフード産業の出荷総額は8年連続で増加している一方、出荷量は減少しており、市場規模の拡大が主に価格の上昇によってもたらされていることが示されています。

飼育頭数は減少傾向にあるものの、ペットの家族化や健康志向の高まりにより、一匹あたりの支出は増加しています。その一方で、物価高を受けて飼い主の節約志向も強まり、安価なプライベートブランド(PB)商品の需要が高まっています。高価格帯のプレミアムフードの需要も拡大しており、「二極化」の動きが浮き彫りとなっています。

さらに、犬の飼い主の約4割、猫の飼い主の約3割が、当初の想定よりも毎月の飼育費が上回っていると感じており、これはペット飼育の真のコストが過小評価されていることを示唆しています。

動物病院の費用もまた、飼い主にとって大きな負担となっています。2024年の全国犬猫飼育実態調査によると、犬猫ともに医療費は年々増加傾向にあり、月額平均では犬が4,894円、猫が3,494円と報告されています。手術費用や入院費用が高額になるケースも多く、たとえば小型犬の手術費用は平均192,517円、猫では191,571円に上る可能性があります。

また、飼い主の約7割が「動物病院に行くか迷った経験がある」と答えており、その主な理由として費用面がハードルとなっていることが浮き彫りになっています。同様に、約7割の飼い主がペットの医療費に「負担を感じている」と回答しており、費用が医療アクセスに直接影響を与えている実態が明らかになっています。

このような背景から、ペット保険の必要性が高まっています。日本のペット保険加入率は2023年時点で20%程度と、欧米諸国と比較するとまだ低い水準にとどまっています。日本におけるペット保険の歴史が浅いことや、保険料の高さが飼い主の心理的ハードルとなっていることが考えられます。

しかし、アイペット損保のデータによれば、新規加入者の約60%が1年以内に保険を利用しているという実績が示されており、ペット保険が実際の場面で役立っていることがうかがえます。また、ペットの高齢化に伴って医療費は高額になりやすく、保険の新規加入に年齢制限があることから、加入のタイミングも非常に重要です。

愛するペットとの健康で幸せな共生生活を続けるためには、経済状況とペットへの深い愛情のバランスを取ることが不可欠です。物価高騰は避けられない現実であるものの、飼い主ができる賢い選択肢は存在します。

フード選びにおいては、ブランドや生産国に左右されず、成分表示や栄養バランスをしっかりと確認し、ペットにとって本当に必要なフードを見極めることが大切です。普及価格帯の商品であっても、十分な品質と栄養価を備えたものは多く存在します。

さらに、予防医療の重要性も見逃せません。定期的な健康診断やワクチン接種を行うことで、将来的な高額治療のリスクを抑えることが可能です。そして、もしもの備えとして、ペット保険への加入も検討する価値があります。

ペット保険には、幅広い内容を補償する「フルカバー型」と、手術や入院など高額になりやすい医療に特化した「特化型」があり、後者であれば保険料を抑えつつ必要な備えが可能です。

物価高騰が続き、家計への不安が高まる今こそ、飼い主自身の家計管理とペットの健康維持にかかる支出を見直すことが、持続可能なペットライフへの第一歩となります。知恵と工夫を凝らしながら、経済的な課題と向き合い、愛するペットと豊かな暮らしを続けることは、決して不可能ではありません。