Class_44

24時間365日勤務で有給休暇なしの株式会社「免疫」は超優良企業!?

[2022/03/08 6:01 am | 獣医学博士 川野浩志]

カラダをひとつの国に置き換えると、いろいろな会社が存在していてそれぞれ国(カラダ)を維持するためにいろいろな業務をこなしています。今回は、そのなかの株式会社「免疫」について考えてみましょう。

株式会社免疫の業種は、総合警備セキュリティということになります。本社所在地は腸管(小腸パイエル板)。事業内容は「攻撃事業」と「撤収事業」。攻撃事業は、不審者(ウィルスや細菌)が体内に侵入すると速攻で対応します(炎症)。撤収事業は、不審者を排除し終えると、攻撃をストップさせます(抗炎症)。

攻撃(炎症)と撤収(抗炎症)のバランスが崩れると免疫暴走(サイトカインストーム)が起こり、正常な細胞まで破壊してしまうのです。ボクシングで例えると、ボクサーが対戦相手だけでなくレフリーも殴り倒しちゃう状態。

会社の人事はどうなっているかといえば、従業員はすべて免疫細胞(生まれ故郷の骨髄から生まれた白血球)。専務取締役が司令塔である「T細胞」、部長が実行部隊である「キラーT細胞」と「B細胞」、一般社員がバトロール部隊である「NK細胞」「マクロファージ」「好中球」。監査役に鑑識役である「樹状細胞」といったところでしょうか。

次に実際の業務の流れを見てみましょう。口から肛門までホースのように繋がっている消化器官は、つねに不審者(細菌やウイルス)が侵入するリスクがあって臨戦態勢で警備をする必要があるのです。その役割を「腸」が担っていて、担当する免疫細胞の約60%~70%が集中しているといわれています。

飛行機に乗る際にナイフやカッターなどの危険物を所持していると保安検査を通過できないように、腸での保安検査に当たるのがパイエル板(リンパ組織)。腸内細菌やウイルスなど通過した標的が有害(敵)か有用(味方)かを監査役である「樹状細胞」が判定し、司令塔である「T細胞」に教える。つまり、樹状細胞は「あなたは敵ではないですよ」「あなたを攻撃しますよ」と、敵と味方を判別し、さらに味方には攻撃しないように教育しています。

不審者の情報は免疫の“司令官”であるT細胞に伝えられ、“攻撃隊長”である本部長「キラーT細胞」に武器(抗体)をつくらせて不審者を殲滅。 このように腸の保安検査場であるパイエル版では、免疫システムが今この瞬間も休みなく稼働しているのです。また、免疫機能を司る支社が全身に置かれ、あらゆる免疫システムが複雑に繋がることであなたのカラダを守っています。株式会社免疫は超優良企業なのです。しかし、その勤務体系は、これまた超がつくほど過酷。24時間365日で有給休暇はなし。

つねに私たちのカラダは免疫システムで守られています。全身に配備された免疫システム(正常細菌叢)は日常的にウイルスやバクテリアと出会い実地訓練(免疫応答)を繰り返しているわけです。

昨今は新型コロナウイルスの感染防止で消毒が日常化していますが、99%の細菌やウイルスを殺菌するということは、味方を後ろから武器で攻撃しているようなものなのです。

例えば皮膚には連鎖球菌やブドウ球菌がいますが、すべてが悪いわけではありません。つまり、毒性が強くない細菌(バクテリア)は我々の仲間であり友人であり戦友です。彼らは、毒性の強いバ細菌からあなたを守ってくれているわけです。赤ちゃんが生後3~6カ月の間に日和見感染に弱いのは、援護射撃をしてくれる正常細菌叢が少ないからなのです。このことは、Class_6の記事で詳しく説明していますのでご覧ください。

最後に、株式会社免疫の強みをおさらいしましょう。

・病原菌やアレルゲンの体内侵入を止めて抗体で応戦するパワー
・入り口で殺傷するパワー
・深く侵入したときに免疫細胞がスクラムを組んで沈静化させるパワー
・体内で育つ悪性細胞を発見するパワー
・敵か味方かを見抜くパワー
・戦場となった場所(病巣)の後始末(掃除)をするパワー
・戦場となった場所(傷口)を元通りに修復するパワー
・落ち込んだ体力や気分を元通りに復元するパワー
・テロリスト(ガン細胞)を監視して殺傷するパワー


私たち飼い主も、愛犬・愛猫も免疫力によって守られています。Class_38の記事Class_39の記事で説明したとおり、免疫力をアップするには腸内環境を整え、腸壁を強化することが重要なのです。

[獣医学博士 川野浩志]