私の目指す北極星2021 〜アトピーという強敵を倒すマルチモーダルアプローチ戦略〜

今年の春からスタートした「うんち先生・菌活のすすめ」、今回が今年最後のコラムとなります。編集部から「今年一年を振り返ってどんな年でしたか?」と聞かれたこともあって、自分になりに総括してみようと思います。

動物病院の診察室で痒みに悩む動物に向き合い、「どうしたらできるだけ薬に頼ることなく痒みを止めることができるだろうか?」という命題を解決するために繰り返す自問自答。そんな日々のなか、健康なわんちゃんのうんちをアトピーのわんちゃんに食べさせるというマッドサイエンスとも言うべくチャレンジングな治療介入を行ったところ、想像以上に良い結果が得られました。まさに、頭部をハンマーで殴られたような衝撃を経験するとともに、「犬のアトピーの神様のシッポを掴んだ!」と興奮して眠れなかったです。

つまり、腸壁に住む細菌たちが、「痒み」という問題を解決するためのキープレイヤーである可能性が極めて高いということ。さらに、腸壁には免疫細胞の70~80%が配備されており、脅威となる病原体との主戦場となります。そして、腸壁は「栄養」という “天使” と「病原体」という “悪魔” を完璧に区別するゲートキーバー(門番)の役割も担っているのです。

従って、腸内環境を整えるには、まず有効な菌=戦士(プロバイオティクス)を与えること。その戦士たちこそ「ビフィズス菌」や「乳酸菌」。彼らは口から入り、胃を通過して腸管内を移動し、定住せず短期間だけ “宿泊” し、腸管の動きに合わせて移動しながら、その一瞬一瞬で任務を全うして勇敢に戦死していくわけです。

そして、次に戦士を育てるアイテム(プレバイオティクス)を摂取することで、腸壁に住む細菌のアンバランス(ディスバイオシス)を制御し、最後に育てた戦士をいかに邪魔しないかということ。邪魔する存在になるのは、「抗生物質」と「口腔内細菌」です。抗生物質を極力減らし、口腔内細菌をすべて殺菌してしまうのではなく、「糖アルコール」を使って口腔内細菌が過剰に増えすぎないように静菌制御するのです。

腸内細菌に関しては、まだ絶対的正解はありませんが、決定打となり裏打ちとなる研究結果が続々と報告されています。腸内に住む細菌だけではなく、皮膚の上で脅威となる「ブドウ球菌」や口腔内の「グラエ菌」に対して殺菌という空爆で有用菌まで爆撃することのないように静菌制御して、一生懸命育てた菌の邪魔をしない世界を目指したいのです。

アトピー性皮膚炎の痒みに対してステロイドを中心とした免疫抑制剤は、治療のゴールドスタンダードであることはもちろん否定しません。強烈なパワーが炸裂した瞬間に痒みをチャラにしてくれる免疫抑制剤。それはまさに人類を救うサンダーバード(国際救助隊)か、はたまたウルトラマン(地球防衛軍)のような存在で、アトピーで苦しむ動物たちにとってはありがたい存でしょう。しかし、その一方でできるだけ薬物を使いたくないという気持ちは誰しも持っているはずです。

「アトピー性皮膚炎という強敵をできるだけ薬に頼らず倒す」という無謀な挑戦に対して、腸管(腸内細菌)と口腔(口腔内細菌)と皮膚(皮膚細菌)からのマルチモーダルアプローチによって制圧することを夢見ながら、年越し蕎麦を食べて2022年という希望に満ち溢れた新年を迎えたいです。今年一年ご愛読ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。