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歯周病菌と腸内フローラのカンケイ

[2021/06/29 6:01 am | 獣医学博士 川野浩志]

歯周病は歯を失う1番の原因で、人間でもペットでも大きな問題となっている口腔内の細菌感染です。 人間の歯科領域では、口腔内の常在細菌を調べまくった結果、歯周病菌のなかでもっとも病原性が強いといわれている3つの主犯格の菌が見つかりました。

プロフィロモナス・ジンジバーリス(Porphyromonas gingivalis)
タネレラ・フォーサイセンシス(Tannerella forsythensis)
トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)

これらの最強3菌種を合わせて「レッドコンプレックス(3菌種)」と呼ばれています。このように、人間ではレッドコンプレックスがいるかどうかが、病原性の高い歯周炎かどうかの分かれ目となりますが、犬の主な歯周病菌は以下になります。特にタネレラ・フォーサイシアとカンピロバクター・レクタスは人間でも検出される歯周菌種です。

ポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas gulae)
タネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia)
カンピロバクター・レクタス(Campylobacter rectus)

細菌叢のなかで存在比率は低くても、免疫を撹乱し、自分に有利な状態へバランスを崩してしまう細菌を「キーストーン病原体」と呼びます。ヒトの歯周病の主犯とされるポルフィロモナス・ジンジバリスがまさにそれです。つまり、ポルフィロモナス・ジンジバリスは健康な人の歯肉組織からは検出されにくく、ひどい歯周炎部位からも少ししか見つからないにも関わらず、悪い歯周炎と関係していることがわかっています。

細菌叢のバランスの乱れは「ディスバイオシス」と呼ばれ、腸内細菌叢のディスバイオシスが多くの全身の病気に密接に関連していることが数多く報告されています。一方で、歯周病はこれまでレッドコンプレックスによって引き起こされると考えられてきましたが、近年では、歯周病は口腔細菌叢のディスバイオシスによって引き起こされる可能性が指摘されています。

歯周病と関連する口腔細菌を多量に継続的に飲み込んでいると腸内細菌が乱れ、それによりさまざまな病気になりやすくなります。実際に、プロフィロモナス・ジンジバリスをマウスに飲ませると腸内細菌叢が変化し、腸のバリア機能が低下するとともに炎症も誘発すると報告されています。

健康な人で1日1.0~1.5リットルの唾液が分泌されるといわれていますが、歯周病があると唾液中にポルフィロモナス・ジンジバリスが含まれており、それを一緒に飲み込んでいることになります。実際に、歯周病菌の検出が報告された人間の組織には、心臓(とくに弁)や肝臓だけではなく、血管(腹部大動脈)や関節(滑液)、さらには胎盤(臍帯・羊水)があります。さらに、最近、口腔内常在菌の一種で、歯周病を悪化させることが知られているフソバクテリウム・ヌクレアタムが大腸癌の発癌過程へ関与しているというセンセーショナルな論文も報告されています。

どうやら「口腔細菌叢の乱れ」→「腸内細菌叢の乱れ」→「不健康」という負の連鎖がありそうです。歯周病治療が口腔内だけではなく、腸内細菌叢の改善を介して健康長寿に貢献します。また、定期的な歯科医による歯垢除去や、デンタルフロスと舌ブラシを用いたデイリーケアも重要です。

[獣医学博士 川野浩志]