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犬の腸内フローラの構成が攻撃性につながる!?

[2021/06/01 6:01 am | 獣医学博士 川野浩志]

世界中の多くの研究者が腸内細菌にターゲットを絞りさまざまな仮説を立て、検証を繰り返し、裏付けをとった腸内フローラに関する論文が毎日のように発表されています。そんな状況のなか、米オレゴン州立大学の研究チームが「犬の腸内フローラと攻撃的な行動が関連する」という衝撃的な研究結果を発表しました。

闘犬場からレスキューされてシェルターに保護されている21頭の攻撃性のある犬(aggressive dogs)と、10頭の攻撃性のない犬(non-aggressive dogs)の合計31頭の犬(ピットブルタイプ) の腸内フローラを解析しました。攻撃性のある犬とは「唸る」「歯を剥く」「噛み付く」「突進する」などの攻撃行動が見られましたが、攻撃性のない犬はこれらの行動が見られませんでした。

すべての犬たちの便サンプルから検出された腸内細菌は、「ファーミキューテス門」「フソバクテリア門」「バクテロイデス門」「プロテオバクテリア門」が大勢を占めていました。しかし、これらの分布が攻撃性のある犬と攻撃性のない犬ではっきりと異なっていました。攻撃性のある犬ではファーミキューテス門が豊富で、攻撃性のない犬ではフソバクテリア門とプロテオバクテリア門がより豊富でした。

具体的には、攻撃性のある犬ではファーミキューテス門のなかの「乳酸桿菌科(Lactobacillaceae)」が豊富で、攻撃性のない犬のグループではフソバクテリウム科が豊富でした。この研究で、攻撃性のある犬とそうでない犬の腸内フローラの分布にはっきりした違いが見られ、「攻撃性」と「腸内フローラの分布」に統計的な関連があることが示されました。

つまり、犬の腸内に生息する細菌の組成が攻撃的な行動に影響を与える可能性があるということです。腸内細菌によって行動がコントロールされるとのはイメージがつきにくいですが、脳の活動と腸内環境の関連を示す「脳腸相関」という言葉があります。脳内で 活躍する「ドーパミン」「セロトニン」「ノルアドレナリン」、「GABA」などの神経伝達物質は脳内ホルモンとも呼ばれますが、じつは50%~90%は腸内細菌でつくられていることが2012年のアイルランド国立大学の研究でわかっています。

うつ病時に問題となる「セロトニン」は「トリプトファン」からつくられますが、この「トリプトファン」は腸内細菌がつくっているんです。さらに、「GABA」は乳酸菌やビフィズス菌たちがつくっているんです。例えばストレスがあると、ストレスに対抗するように神経伝達物質である「セロトニン」などが多量に分泌されてストレスを減らすように働いています。ところが、腸内細菌が乱れているとストレスと戦う”武器”をつくることができず、ストレスに打ち勝つパワーが足りなくなてしまうのです。

蛇足ですが、脳と腸がお話ししているという「脳腸相関」以外にも、皮膚と腸がお話ししている「腸皮膚相関」という言葉もあります。皮膚のコンディションが腸内環境に影響を与えていることを意味します。つまり、「ストレス→肌荒れ」という方程式は、腸皮膚相関が関連した腸内細菌の乱れが原因であると考えると理解できます。

[獣医学博士 川野浩志]