ペットフードのPFAS、犬猫への影響は? 最新研究を読み解く

愛犬や愛猫に毎日与えるフードについて、原材料や品質を気にかけている飼い主さんは多いと思います。しかし、そのフードに含まれる物質が体内にどう取り込まれ、どのような影響を及ぼし得るのかまで考える機会は、意外と少ないのではないでしょうか。

2026年、日本で流通するペットフードを対象にPFAS(有機フッ素化合物)を調べた研究が発表されました。さらに、犬猫の血清と実際に食べていたフードを組み合わせた調査も行われています。

研究では何が明らかになり、何がまだわかっていないのでしょうか。「検出された」という言葉だけでは判断できない部分を、一つずつ整理しながら読み解いていきます。

PFASの基礎知識
なぜ犬猫で注目される?

PFAS(有機フッ素化合物)とは、水や油をはじく性質や、熱・化学変化への強さを持つ物質群の総称です。この特性から、防水・防油加工や食品包装材など、幅広い用途に長年使われてきました。

ただし、PFASは単一の物質ではありません。PFOSやPFOAをはじめ、多数の化合物が含まれ、環境中でのふるまいや体内での代謝のされ方は一様ではありません。なかには自然界で分解されにくく、長期間残留する性質を持つものもあり、水や食品、生物などから検出される例が各国で報告されています。

犬猫のPFAS曝露が注目される理由の一つは、人と同じ家庭環境で飲み水や室内空間を共有していることです。犬猫は床に近い場所で過ごす時間が長く、猫は毛づくろいによって被毛に付着したダストを口にすることもあります。加えて、多くの犬猫は限られた種類の市販フードを継続して食べるため、食事と体内濃度との関係を考えるうえでも重要な研究対象です。

こうした研究は、犬猫自身の健康を考えるためだけのものではありません。人と動物、環境の健康を一体的にとらえる「ワンヘルス(One Health)」という考え方とも結びついています。

2026年の国内研究
フードと血清から見えた事実

2026年に発表された研究では、愛媛大学の研究グループが、日本国内で流通する犬用48製品、猫用52製品の計100製品を対象に、34種類のPFASを分析しています。

多くの製品からPFASが検出され、ドライフードでは重量あたりの濃度が高い傾向がみられました。一方、ウェットフードでは、実際に与える量を踏まえた推定曝露量が高くなる場合がありました。

これは「1gあたりの濃度」と「1日に食べる量から推定した曝露量」という異なる指標を比較した結果です。ドライとウェットのどちらが安全かという単純な比較には置き換えられません。

魚を主原料とする製品では、総PFAS濃度が高い傾向がみられ、PFOSや炭素鎖の長いPFASが目立ちました。研究チームは、この背景として海洋の食物網を通じた蓄積の可能性を指摘しています。

海洋環境では、分解されにくい化学物質が食物連鎖を通して蓄積することがあり、こうした生物濃縮は、水銀など、ほかの環境汚染物質を考えるうえでも重要な視点です。ただし、今回の結果だけで魚由来フード全体が危険だと判断することはできません。

同研究では、飼育されている犬23匹、猫30匹の血清も分析しています。そのうち犬10組、猫12組については、血清と実際に食べていたドライフードを組み合わせたペア解析を行いました。

猫では、炭素鎖の長いPFASの一群であるPFCA類について、血清中濃度が犬より高い傾向がみられました。ペア解析でも、一部のPFASについて、フードと血清中濃度の関係が犬より明確でした。

この結果は、ペットフードが猫にとって長鎖PFASの曝露源の一つになり得ることを示唆しています。ただし、フードが唯一の曝露源であることや、検出されたPFASが病気を引き起こしたことを証明したものではありません。

犬猫の差には、食事内容だけでなく、吸収や代謝、排出のされ方といった動物種ごとの違いも関係している可能性があります。研究対象数も限られるため、「猫のほうが危険」「犬なら問題ない」と一般化することはできません。

研究結果の読み方
「検出」と「危険」は同じではない

研究結果を正しく受け止めるには、「検出」「曝露との関連」「疾患との関連」という三つの段階を分けて考える必要があります。

検出とは、フードや血清からPFASが測定されたことです。曝露との関連とは、食べていたフードと血清中濃度に統計的な関係がみられたことを指します。疾患との関連とは、血清中濃度と特定の疾患の有無などに統計的な関係があるかを調べることです。

愛媛大学の研究が主に前進させたのは、検出と曝露との関連の二段階です。犬猫に適用できる毒性データや長期的な疫学研究は、現時点では十分に整っていません。

100製品の研究では、欧州食品安全機関(EFSA)が人を対象に設定した耐容摂取量を用いて評価した結果、一部の製品でハザード指数(HQ)が1を超えたと報告されています。

ただし、この耐容摂取量は、人の健康影響に関する知見から設定された評価値です。犬猫の体重に換算しても、それだけで犬猫専用の安全基準になるわけではありません。指数が1を超えたことは、潜在的な懸念を把握するための目安と捉える必要があります。

重金属などの報道でも同様ですが、検出されたことと健康リスクは同じではありません。濃度や摂取量、摂取期間、動物種ごとの感受性などを含めて評価する必要があります。
疾患との関連については、2026年に発表された別の研究が参考になります。犬179匹、猫84匹を対象に、血清中PFASと複数の内分泌疾患との関係が調べられました。

単純な群間比較では一部に差がみられましたが、年齢を考慮した解析では、PFASと調査対象の内分泌疾患との独立した関連は確認されませんでした。健康な犬猫と疾患のある犬猫の年齢差が、単純比較に影響した可能性があります。

この結果は、「PFASが病気を引き起こす」という根拠にはなりません。一方で、「PFASは犬猫の健康に影響しない」と証明したものでもありません。統計的な関連が報告された場合でも、それだけで因果関係が確認されたことにはならず、今後も長期的な研究が必要です。

飼い主ができること
食事と生活環境をどう見直す?

犬猫のPFAS曝露源は、ペットフードだけとは限りません。飲み水やハウスダスト、家庭用品、屋外環境など、複数の経路が考えられます。

猫は毛づくろいの際に、床や家具に付着したダストを間接的に取り込む可能性があります。スウェーデンで行われた研究では、ハウスダスト46試料と猫の血清27試料を分析し、一部のPFASについて有意な相関が報告されました。

これは室内ダストが猫の曝露経路の一つになり得ることを示す結果ですが、相関がみられたすべてのPFASについて、ハウスダストが唯一の曝露源だと証明したものではありません。ただし、室内環境を見直すことは、犬猫が接触する床まわりの環境を整える基本的な取り組みの一つです。

包装材については、米国食品医薬品局(FDA)が2024年、ペットフード袋などの紙・板紙製包装に使われていたPFAS含有耐油剤について、メーカーによる米国市場での自主的な販売終了を発表しました。

これは米国市場における措置であり、日本の100製品調査で検出されたPFASの由来を示すものではありません。この調査自体も、包装材からフードへの移行を調べたものではありません。

日本では、「ペットフード安全法」に基づく成分規格には、現時点でPFASの個別上限値は示されていません。一方で、有害な物質を含む、またはその疑いがある原材料を使用してはならないという一般的な製造基準が設けられています。

飼い主が現時点で取れる行動には、以下のようなものがあります。

【療法食や現在のフードを自己判断で中止しない】
魚由来原料を使っているという理由だけで、フードを急に中止する必要はありません。療法食やアレルギー対応食を変更する場合は、獣医師に相談してください。

【地域の水質情報を確認する】
2026年4月から、水道水のPFOS・PFOAに水質基準が適用されています。自治体などの検査結果を確認し、問題がなければ過度に心配する必要はありません。

【湿式清掃などでハウスダストを減らす】 
水拭きを取り入れ、犬猫の寝具やマットを定期的に洗います。これによってPFASの健康リスクがどの程度下がるかは明らかではありませんが、家庭内のダストやアレルゲンへの接触を減らす基本的な環境管理になります。

【メーカーの品質管理情報を確認する】
PFASの有無だけを二択で尋ねるのではなく、原材料の調達基準や検査方針などを、公開情報や問い合わせ窓口で確認しましょう。情報が公開されていないことだけで、その製品に問題があるとは判断できません。

【体調不良をPFASと自己診断しない】
食欲低下や嘔吐、体重の変化は、さまざまな病気でみられる症状です。症状だけからPFAS曝露を疑わず、まずは通常の診察を受けてください。

不安を理由にしたフードの安易なローテーションや、デトックスをうたう製品の使用は勧められません。犬猫を対象とするPFAS血液検査についても、日常診療で結果を判断するための基準が確立されていないため、一般の飼い主が自己判断で受けることは推奨できません。

今回の研究で見えてきたのは、「危険なペットフードの答え」ではなく、犬猫のPFAS曝露を食事と生活環境の両面から調べる必要性です。魚を使ったフードという理由だけで現在の食事を中止せず、飲み水や室内環境も含めて、確認できることから見直すのが現実的でしょう。

検出という言葉だけに反応せず、研究で確認されたことと、まだわかっていないことを分けて受け止める姿勢が求められます。