春到来! 猫と虫のトラブル予防策 ~狩猟本能と安全対策を知ろう
春から夏にかけて虫が活発になる季節になると、猫が虫に夢中になる様子を目にすることが増えます。猫が虫を追いかけたり、じっと観察したりするのは、単なる遊びではなく、本能的な行動の一部です。
しかし、一部の虫には毒性があったり、寄生虫を持っていたりするため、猫の健康に悪影響を及ぼす可能性もあります。今回は、猫と虫の関係について掘り下げ、猫の安全を守るための対策について考えます。

猫の狩猟本能と虫への興味
猫が虫に強い興味を示すのは、彼らが生まれながらに持つ狩猟本能によるものです。およそ1万年前に家畜化された猫ですが、その捕食本能は現代のイエネコにおいても色濃く残っています。たとえお腹がいっぱいの室内猫であっても、目の前を動き回る小さな生き物を見ると、それを追いかけ、捕まえたいという衝動に駆られるのです。
猫が本来狩りの対象とする小動物が虫です。例えば、ネズミや鳥といくつかの共通点を持っており、小さくて動きが素早く、ときには高い音を発します。特に、ハエやガのように空を飛ぶ虫は、猫の注意を引きつけ、狩猟本能を強く刺激します。猫は、空腹を満たすためだけでなく、純粋な楽しみのために狩りをすることが知られています。狩猟行動は、幸福感や興奮に関わる神経伝達物質であるドーパミンを放出するため、猫にとって快感を伴うものなのです。
興味深いことに、「食べる本能」と「獲物を捕まえたい本能」は必ずしも結びついていません。飼い猫の場合、捕まえた虫でさんざん遊んで、食べるのはキャットフードということも珍しくありません。これは、狩猟という行為そのものが猫にとって重要な意味を持つことを示唆しています。
室内で飼われている猫は、自分で食べ物を探す必要がないため、狩猟本能を満たす機会が限られています。そのため、動くおもちゃを使った遊びは、彼らの狩猟本能を満たし、運動不足やストレスの解消に非常に大切です。おもちゃを獲物に見立て、追いかけさせ、捕まえさせるという一連の流れを意識して遊ぶことが、猫の満足感につながります。
また、飼い主の何気ない動きや身につけているものが、猫の狩猟本能を刺激することもあります。揺れるアクセサリーやひらひらするスカート、ポニーテールなどが、猫にとっては獲物のように見えることがあるため注意が必要です。
猫が虫に夢中になる理由
猫が虫に夢中になるのは、視覚や聴覚、嗅覚といったさまざまな感覚が刺激されるためです。単なる狩猟本能だけではなく、虫を追いかけることで運動不足を解消し、ストレス発散にもなります。
また、猫は好奇心が旺盛な動物であり、新しいものに興味を持つ習性があります。普段見慣れない虫が室内に現れると、「これは何だろう?」と近づいて観察したり、前足でちょんちょんと触ったりするのです。こうした行動は猫にとって自然なものであり、健康的な遊びの一環ともいえます。
猫は、静止しているものよりも動いているものに対して非常に高い反応を示します。人間の約4倍ともいわれる優れた動体視力を持っています。素早く予測不能な動きをする虫は、まさに猫の狩猟本能を刺激する格好のターゲットとなります。猫の視力自体は人間よりも劣りますが、動くものに対しては非常に敏感です。
また、猫は暗い場所でも比較的よく見えるため、薄暗い場所で活動する虫も容易に捉えることができます。猫の色覚は人間ほど豊かではありませんが、青や緑といった色を認識できると考えられており、これらの色を持つ虫も視覚的に捉えている可能性があります。
聴覚も猫が虫に惹かれる大きな理由のひとつです。猫の聴覚は非常に優れており、人間や犬よりも広い可聴域を持っています。高音域を聞き取る能力が特に高く、虫の羽音といった微かな音も敏感に察知し、注意を向けるのです。
嗅覚も猫が虫に興味を持つ要因のひとつです。人間の数万倍ともいわれ、虫が発するフェロモンなどの特有のニオイが狩猟本能を刺激する可能性があります。
これらの視覚や聴覚、嗅覚からの刺激が組み合わさることで、猫は虫に対して強い興味を持つと考えられます。動き、音、ニオイが彼らの狩猟本能を呼び覚まし、夢中にさせるのです。

猫が虫を食べることのリスク
猫が虫を狩るだけなら問題は少ないですが、ときにはそのまま食べてしまうこともあります。多くの一般的な昆虫は猫にとって無害ですが、なかには有毒なものや、怪我の原因となるものも存在します。
虫はさまざまな寄生虫や細菌を媒介する可能性があります。例えば、ノミは瓜実条虫という寄生虫を保有しており、猫がグルーミングの際にノミを飲み込むことで感染する恐れがあります。また、ハエやゴキブリなどの衛生害虫は、サルモネラ菌などの病原性細菌を持っている可能性があり、胃腸炎などを引き起こすリスクがあります。
まれに、大きな昆虫や硬い外骨格を持つ昆虫は、猫の口腔内を傷つけたり、消化器系の不調を引き起こしたりするだけでなく、適切に噛み砕かれなかった場合に窒息の危険をもたらす可能性もあります。
特に注意すべきは、昆虫駆除に使用される殺虫剤です。殺虫剤が付着した虫を猫が食べると中毒症状を引き起こす可能性があるため、駆除剤の使用には十分な注意が必要です。
猫はもともと狩りをして生活していた動物であり、野生時代には虫も食料としていました。しかし、現代の室内猫は、栄養バランスの取れた食事を与えられており、必ずしも虫を食べる必要はありません。そのため、食べ慣れない虫を食べることで、消化不良を起こしやすいと考えられます。
注意すべき虫とその危険性
猫にとって特に注意すべき危険な虫がいくつか存在します。これらの虫は、毒を持っていたり、強い刺激性を持っていたり、病気や寄生虫を媒介したりする可能性があります。
ゴキブリ
ゴキブリ自体に毒性はありませんが、不衛生な環境に生息するため、病原菌やウイルス、さらには寄生虫の卵を運ぶことがあります。猫がゴキブリを捕獲後に口にしてしまうと、これらの病原体が猫の体内に侵入し、食中毒や寄生虫感染を引き起こす危険があります。ゴキブリは、殺虫スプレーをかけられていたり、置き型駆除薬を食べていたりする場合が多く、その成分が中毒原因となることもあります。
ハチ、アブ
スズメバチやアシナガバチなどの攻撃的なハチは、猫が誤って手を出すと刺される危険があります。ハチ毒は、まれにアナフィラキシーショックを引き起こすことがあります。一般的なのは、刺された部位を猫が舐めてしまい、さらに炎症を起こすことです。
クモ
多くのクモは無害ですが、セアカゴケグモとハイイロゴケグモなど一部の毒を持つクモは猫にとって危険です。咬まれると腫れや痛みが生じ、場合によっては神経症状を引き起こすこともあります。
ムカデ
小型のイエユウレイヒメムカデは一般的に猫にとって無害ですが、大型のオオムカデに咬まれると強い痛みや腫れが発生します。毒が体内に入ると発熱や嘔吐などの症状が出ることもあるため、注意が必要です。
ヒアリ
日本には2025年現在で定着はしていないと考えられているものの、たびたび確認されています。ヒアリは非常に攻撃的で、咬まれると強い痛みを伴い、その毒によって腫れや炎症を引き起こします。
上記以外にも、猫に有害な虫は存在します。愛猫が普段と違う様子を見せたり、体調が悪そうにしていたりする場合は、速やかに獣医師の診察を受けるようにしてください。
猫が虫を食べたときの対処法
もし猫が虫を食べてしまった場合、まずは落ち着いて猫の様子を観察しましょう。以下のような症状が見られた場合は、すぐに動物病院で診察を受けてください。
嘔吐や下痢
口の中の腫れや多量のよだれ
呼吸困難やぐったりしている
特に、ハチなどの有毒昆虫を食べた場合は、様子を見ずに直ちに対応が必要です。口の周りや顔の腫れ、呼吸が苦しそうな様子が見られる場合は、アナフィラキシーショックの可能性があるため、すぐに治療を受けましょう。
また、殺虫剤が付着している可能性のある虫を食べた場合は、速やかに獣医師に連絡し指示を仰いでください。殺虫剤の種類によっては、わずかな量でも猫にとって有害となることがあります。
受診時には、可能な限り食べた虫の種類や量、現在の症状を詳しく伝えましょう。もし、虫の一部でも残っていれば、持参すると診断の助けになります。
猫と虫のトラブル予防策
春から夏にかけては虫の活動が活発になる季節で、必然的にトラブルの発生が増えます。猫の安全を守るため、以下の予防策を講じることが重要です。
室内に虫を侵入させない
窓やドアの隙間を塞ぎ、換気扇や排水口からの侵入を防ぐためにフィルターやネットを取り付けましょう。ゴミは密閉できる容器に入れ、こまめに処理することで虫の誘引を減らすことができます。
室内を清潔に保つ
定期的に掃除や換気を行い、虫が繁殖しにくい環境を維持しましょう。猫の寝床やケージなども清潔に保ち、定期的に洗濯や清掃を行いましょう。
室内環境を充実させる
猫の狩猟本能を満たすために、おもちゃを使った遊びを積極的に行いましょう。羽根つきの棒やボールなど、さまざまな種類のおもちゃを用意し、猫が飽きないように工夫することが大切です。
寄生虫予防
ノミやマダニなどの寄生虫は、猫の健康を脅かすだけでなく、さまざまな病気を媒介する可能性があります。適切な時期に適切な駆除薬や予防薬を使用しましょう。完全室内飼いの猫でも、人間やほかのペットを介して寄生虫に感染するリスクがあるため、油断は禁物です。
猫の体に異常がないか確認する
日ごろから猫の体を触ったり、ブラッシングをしたりする際に、ノミやマダニが寄生していないか、皮膚に異常がないかなどを確認する習慣をつけましょう。
家周辺の手入れ
庭がある場合は、雑草を刈り、落ち葉などを片付けることで、虫の隠れ家を減らすことができます。除草剤や殺虫剤を使用する場合は、ペットに安全なものを選び、使用方法をよく守りましょう。
まとめ
猫が虫に興味を持つのは、彼らが持つ生来の狩猟本能と、虫が持つ視覚的、聴覚的、嗅覚的な魅力によるものです。この行動は猫にとって自然なものですが、ときには健康リスクを伴うこともあります。
愛猫を虫によるトラブルから守るためには、室内に虫を侵入させない工夫や、屋外への行動を制限することが重要です。万が一、愛猫が虫を食べてしまった場合は、落ち着いて状況を把握し、必要に応じて獣医師の診察を受けるようにしましょう。
猫と安全に暮らすためには、彼らの本能的な行動を理解し、適切な対策を講じることが大切です。春の虫の活動期を迎えるにあたり、今一度、愛猫の生活環境を見直し、安全で快適な毎日を送れるように努めましょう。