動物の言葉はAIで解読できる? 脳デコーディング研究の最前線
近年、人工知能(AI)を活用した脳の活動解析技術が急速に進化しています。そうした中、テキサス大学オースティン校の研究チームは先日、機能的MRI(fMRI)を用いた脳デコーディング技術に関する研究を発表しました。この技術の大きな革新点は、従来長時間のトレーニングが必要だったところを大幅に短縮し、他人の脳活動データを活用することで、より迅速かつ効率的に解読できるようになった点にあります。

これまでの脳波解読技術では、被験者がfMRI装置内で長時間物語を聴きながら訓練を受ける必要があり、デコーダーは特定の個人にしか適用できませんでした。しかし、今回の研究では「機能的アライメント(脳機能の調整)」という技術を活用し、既存のデコーダーを他人の脳に適応させる新しいアルゴリズムが開発されました。
具体的には、参照被験者がラジオの物語を10時間聴いている間に収集したfMRIデータを用いてデコーダーをトレーニングし、その後、別の被験者が70分間ラジオの物語を聴く、または無音のピクサー短編映画を視聴している間に収集したデータを用いて、コンバーターアルゴリズムを調整しました。この方法により、最小限のトレーニング時間で他者の脳活動パターンから言語情報を解読することが可能になったのです。
実験の結果、デコーダーの予測精度は元の基準参加者のほうがやや高いものの、コンバーターを使用した参加者の予測も十分に意味のあるものとなりました。例えば、テストストーリーの一節に「私はアイスクリームパーラーでウェイトレスをしています。だから、ええと、それは……私がどこにいたいのかわからないけど、そうじゃないことはわかっています」という発言がありました。
訓練されたコンバーターアルゴリズムを使用したデコーダーは、「私は退屈だと思った仕事をしていました。注文を受けなければならず、それが好きではなかったので、毎日それに取り組みました」と予測しました。つまり、完全に一致はしないものの、意味の近い内容を読み取ることができたのです。
この技術の進歩は、失語症などのコミュニケーション障害を持つ人々への応用に大きな可能性を秘めています。失語症とは、言語の理解や生成が困難になる脳の障害ですが、従来のデコーダーは長時間のトレーニングが必要であり、実用化には課題がありました。
しかし、新しいアルゴリズムを活用すれば、短時間の脳スキャンで言語情報を解読できるため、コミュニケーション支援の実現が期待されています。さらに、精神疾患を持つ患者や意識不明の患者との意思疎通など、幅広い場面での応用が考えられます。
この技術の可能性は人間にとどまりません。近年の研究では、AIを用いて動物の脳活動や感情を解読する試みも進められています。東北大学の研究では、Transformerモデルを活用することで、マウスの脳波パターンを高精度に推定する研究が発表されており、動物の内面をより深く理解できる可能性が示唆されています。
また、オーストラリアの研究チームは、グラフェンを素材とした新しい非侵襲性センサーを開発し、視覚と脳波を組み合わせてロボット犬をコントロールすることに成功しました。このような研究が進めば、ペットの感情や意図をより正確に把握し、人間とのコミュニケーションの可能性が広がるかもしれません。
さらに、「デジタルバイオアコースティックス」という分野では、AIと高度なセンサー技術を組み合わせ、動物の音声コミュニケーションを解析する研究が進んでいます。この技術を用いれば、動物の鳴き声や音を詳細に記録・分析し、その意味や意図を解読することが可能になります。例えば、犬の吠え方や猫の鳴き声が何を意味しているのかをより正確に理解し、動物の行動や感情を把握することができるかもしれません。
ただし、動物の脳波を解読する際には、人間とは異なる脳の構造や機能を考慮する必要があります。動物種ごとに適したデコーダーの開発や、高精度なデータ収集技術の確立が今後の課題となるでしょう。
それでも、AIを活用した脳デコーディング技術は、コミュニケーションのあり方を根本から変える可能性を秘めています。失語症の患者がスムーズに意思を伝えられるようになったり、ペットの感情をより深く理解できるようになったりする未来が実現すれば、人と人、そして人と動物との関係がさらに豊かになるでしょう。今後の技術の進展に注目が集まります。