2024年ペット業界の振り返り〜数値規制完全施行の影響と課題
みなさんは家族であるペットとどのような一年を過ごしましたか?この記事では、2024年のペット業界を振り返り、そのなかで注目すべき出来事と課題を整理し、動物福祉の未来について考えていきます。
2024年にペット業界でもっとも注目された出来事のひとつは、改正動物愛護管理法の数値規制が完全施行されたことです。動物福祉の向上を目的とし、飼育環境や飼育頭数に関する具体的な基準を設けるもので、多くの人々に歓迎されました。
この規制により、悪質な繁殖業者や販売業者が市場から排除され、動物たちがより豊かな生活を送れることが期待されています。その一方で、実際の運用においては課題も浮き彫りになっています。
飼育頭数の上限規制に潜む課題
法改正によって飼育頭数の上限が定められていますが、そこには抜け穴があると指摘されています。例えば、繁殖犬の場合、1人あたりの飼育頭数は15頭までと規定されていますが、週に40時間以上の勤務をする従業員を1人増やすごとに、さらに15頭の飼育が可能となります。
そのため、実際の勤務時間を虚偽申告したり、実際には動物の世話をしていない従業員を含めたり、家族を名目上の従業員として登録したりする事例が見られます。
例えば、家族3人が繁殖に携わると申告しながら、実際には1人で45頭の犬を管理しているケースが確認されています。また、大規模な繁殖場ではアルバイトの雇用を活用することで合法性を保っているものの、従業員の多くは知識や経験に乏しく、命に対する責任感が欠如している場合があります。その結果、管理不足が深刻化し、動物愛護管理法が掲げる「動物の権利や命の保護」という目的が形骸化している状況が見受けられます。
自治体の運用体制の課題
さらに、浮き彫りになった課題としては、自治体の運用体制の問題があります。6月に数値規制が完全施行されたものの、多くの自治体で適切な運用体制が整っていない実情が明らかになりました。
動物取扱業者への立ち入り検査が実施されたのはほんの一部に過ぎず、ほとんどの自治体では、「次回更新時に確認する」といった消極的な対応がなされているのが現実です。このため、最長5年間も実質的に監視が行われない業者が存在する状況が続いています。これでは、規制が形骸化し、動物福祉の向上に繋がらない可能性があるのです。
課題解決のための提言
動物福祉を向上させ、問題を解決するためには、以下の対策を講じることが求められます。
家族やアルバイトでも動物取扱責任者の資格取得を義務化
家族やアルバイトが関与している場合でも、法定数以上の動物を飼育する場合には、動物取扱責任者の資格取得を義務付け最低限の知識や経験を持たせるべきです。また、その資格取得に際しては、動物に関する基礎的な知識を学ぶ講習や試験を必須とし、さらに、動物福祉を深く理解するための研修を定期的に受けることを推奨します。
講習内容では、まず最初に動物を「物」ではなく「命ある存在」として尊重するモラルを身につけることが重要です。そのうえで、飼育する動物の習性や行動、飼育環境など、動物が快適に生活するために必要な最小限の知識を得ることはもちろん、動物の行動観察やストレスの兆候の読み取り方、緊急時の対応方法についても実践的なスキルを学ぶことが求められます。さらに、繁殖に関する知識も講習に盛り込まれるべきです。
飼育頭数の上限規制の見直し
現在の飼育頭数の上限については、動物の種類や飼育環境を総合的に評価し、より厳格な基準を設ける必要があります。その際、獣医師や動物行動学者だけでなく、長年経験を積んだ健全なブリーダーの意見も積極的に取り入れることが大切です。
特に、特定の犬種や猫種に長く接しているブリーダーは、それぞれの品種が持つ特性や、健康に飼育するために必要な情報や具体的なノウハウを提供できます。これを基に犬種や猫種ごとに適正な飼育頭数を設定し、飼育環境の広さや衛生状態、動物の福祉に配慮した上で、飼育頭数の上限を決めることが可能となります。
全国共通の講習制度導入
第1種動物取扱業者・動物取扱責任者 に対する講習も、全国的に共通のカリキュラムを設定し、知識だけでなく実技を含む実践的な内容を提供することが必要です。この講習でも、動物への愛情と尊重を持つことが中核となります。
講習を通じて、動物取扱業者が動物福祉を最優先に考え、業界全体が動物に対して責任と愛情を持って飼育・繁殖ができるようになることを目指します。また、講習修了後のフォローアップ体制を整え、受講者が常に最新の知識を習得できるようにすることも重要です。
まとめ
動物福祉の向上は、法的な側面と道徳的な側面の両輪で推進していくべきです。感情的な思い込みでなく、科学的な知見に基づいた法制度の整備を行うべきです。さらに、社会全体の意識改革も不可欠です。学校教育や社会教育を通じて、動物に対する共感心を育み、動物の命の尊さを教えることで、より良い社会を実現することができます。
動物福祉の向上には、私たち一人ひとりの行動も重要です。ペットを迎える際は、信頼できる健全なブリーダーや動物保護団体から選ぶことをおすすめします。
健全なブリーダーは動物の健康状態や血統を適切に管理し、愛情を持って動物を育てています。動物保護団体では、新しい家族を待つ動物と出会えるだけでなく、ボランティア活動を通じて動物と触れ合う機会も得られます。
ペットは、私たちにとってかけがえのない家族です。しかし、ペットを取り巻く環境には、依然として多くの課題が存在します。動物福祉の向上には、法律の整備だけでなく、社会全体の意識改革が不可欠です。
来年が、動物たちと私たちがより幸せに暮らせる一年になるよう願っています。動物たちの命の尊さに気付き、行動を起こすことで、私たちはより良い未来を築くことができるのです。