10万頭の犬が行き場を失う?手放される”繁殖引退犬”

10万頭の犬が行き場を失う?手放される”繁殖引退犬”

NHK NEWS WEB | 2024/2/5

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このコーナーでは、注目ニュースに対する編集部や識者のコメントを紹介します。

このテーマは、クローズアップ現代でも「さまよう繁殖引退犬 ペット業界の“異変”を追う」として放送されました。ご覧になった人も多いと思います。

改正動物愛護法に関する環境省令の数値規制は、「悪質な事業者を排除するために、事業者に対してレッドカードを出しやすい明確な基準とする」というポイントに添って進められました。関心の高い事案であり、一カ月間で約17万件ものパブリックコメントが寄せられました。

2021年6月に施行予定だった数値規制案に対しては、基準の厳格化を求める声がある一方で、事業者からの反対意見や要望があり、現実を考慮して経過措置がとられました。

翌2022年6月から1人当たりの飼育頭数の上限が段階的に削減され、今年の6月からは犬20頭(うち繁殖犬は15頭)、猫30頭(うち繁殖猫は25頭)と完全施行されます。

この飼育頭数の上限については、当初から大規模繁殖業者や、ペットオークション、ペットショップチェーンが反対していました。施行すれば、行き場を失くして路頭に迷う犬や猫が13万匹になると発言していました。

今回の記事は、その予測が現実に起こりつつあることを示しています。それは結果的に、数値規制の目的であった「悪質な事業者を排除する」ことに繋がっているのでしょうか。

確かに、ひとりで数十頭や百数十頭を飼育するというのには違和感があります。健全なブリーダーは、一頭一頭の健康状態や様子を毎日確認しています。当然、ひとりで見られる頭数は限られますので、犬20頭、猫30頭は妥当な数字だと思います。むしろ、大型犬だとしたら20頭は多すぎて、飼育は大変だとさえ思えます。

終生飼養についての議論もありますが、これはブリーダーが最後まで面倒をみなくてはいけないということではありません。引退した犬や猫が、安全に安心して暮らせる環境を用意して命をつなげることが目的なので、新しい飼い主さんに託すことも可能です。

私がお付き合いしているブリーダーさんたちの引退した犬や猫は、ずっと一緒に暮らすか、すでに彼らの犬や猫を飼育している(飼育していた)信頼できる飼い主さんに託すようです。決して、保護団体やシェルターなどに持ち込むことなどしません。それは、ブリーダーとしての責任からだけでなく、家族である犬や猫の将来も考えた深い愛情からだと思います。

このような事態になることは、動物愛護法が改正された際にすでに予想されていたことで、だからこそ経過措置がとられたわけです。なのに、なぜ計画的に頭数を管理してこなかったのか。この記事でコメントしている帝京科学大学の佐伯潤教授が指摘しているとおり「ペット業界の努力不足が、今の状況をつくってしまった」のです。

数値規制が議論されてから今年で4年たちます。13万頭が路頭に迷うと声高に主張していたペットオークションやペットショップチェーンなどの流通業者は、なにか手立てを講じたのでしょうか。取引するブリーダーに対して何らかの助言などを行ったのでしょうか。

記事では、繁殖引退犬の譲渡が広がっていることを紹介しつつ、その陰でトラブルも多いということを指摘しています。

ひとつは、多くの繁殖引退犬が、病気など疾患を抱えているということです。これは、劣悪な環境で飼育されているというということだけでなく、そもそも遺伝的な疾患を抱えているケースもあります。

もうひとつが、繁殖引退ペットの譲渡がビジネスになっているということです。以前、ペットジャーナリストの阪根美果さんが「本当に「保護犬・猫」?ペット業界の知られざる裏側」で指摘していましたが、少し前までは売れ残った犬や猫を「保護犬・保護猫」として譲渡するビジネスが横行していました。

表向きは「社会貢献をしている優良な業者」とアピールしながら、実際は店頭で販売できない犬や猫をと偽って譲渡し、譲渡条件にさまざまな商品の契約を付けて必要以上の収益を得るなど、本来の保護活動に水を差すような活動が多く見られ、問題となりました。

それと同じ構図が、いまの繁殖引退ペットの譲渡にもみられます。ペットショップでは、取引のあるブリーダーから繁殖引退犬や猫を引き取り展示しています。また、最近ではイベントなどでも繁殖引退犬・猫の譲渡会が開かれています。

その多くは、ペット保険の加入が譲渡条件になっていたり、ペットブードの契約が必須となっています。結局のところは、保護ビジネスと同じような構図になっているように思えます。

法律で規制を強化しても抜け道はあり、悪質なブリーダーは排除されないままです。ブリーダーは、単なる生産者ではなく、命を扱うという「愛情」と「責任」を持つことが求められます。それが欠落している事業者は退場すべきだと、私は思います。