ペットと人に迫る「SFTS」の脅威とは? マダニ感染症から大切な家族を守るためにできること
このコーナーでは、注目ニュースに対する編集部や識者のコメントを紹介します。
人の血を吸い、ぶくぶく太るマダニに要警戒…最悪の場合、死に至る「マダニ感染症」から命を守る方法
PRESIDENT Online | 2025/7/2
「ネコ→ヒト」「イヌ→ヒト」だけでなく「ヒト→ヒト」も

私たちの大切な家族であるペットと過ごす時間が増える一方で、身近な自然に潜むマダニによる感染症の脅威が見過ごされがちです。特に近年、致死率の高い「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」というマダニ媒介性の感染症が注目され、ペットと人間の双方にとって深刻な問題となっています。
マダニは春から秋にかけて活動が活発になることで知られていますが、地域や気候によっては冬でも活動する種類も存在するため、年間を通して警戒が必要です。この恐ろしい感染症から大切な家族を守るために、今知っておくべきこと、そして飼い主としてできることをお伝えします。
PRESIDENT Onlineの記事によると、SFTSは2011年に中国で初めて報告され、日本では2013年に初の感染例が確認された比較的新しい感染症です。主に、ウイルスを保有するマダニに刺されることで感染します。
ヒトでの致死率が最大3割、猫では6~7割、犬でも40%以上と非常に高く、その危険性が強く警告されている病気です。主な症状は発熱、倦怠感、白血球や血小板の減少、嘔吐、下痢、腹痛などで、特に猫では黄疸が顕著に現れることがあります。
さらに、マダニに刺されることによる感染だけでなく、SFTSに感染した動物の体液(血液や唾液など)との直接接触を通じて、猫から人へ、犬から人へ、さらには人から人への感染も確認されているウイルスです。猫からの感染にも十分な警戒が必要です。
地球温暖化の影響により、マダニの活動期間が長期化し、生息域も北日本へと拡大しています。そのため、以前よりも広範囲での注意が求められます。マダニは草むらや藪、民家の裏山、裏庭、畑、あぜ道など、私たちの生活圏のすぐそばに潜んでいます。シカなどの野生動物がマダニを媒介するケースもあります。
マダニはSFTSウイルスの媒介にとどまらず、犬や猫にさまざまな病気を引き起こすことがあります。
犬では、赤血球を破壊して貧血や黄疸を招く「バベシア症」、発熱や関節炎を伴う「ライム病」、神経毒によって麻痺が起こる「ダニ麻痺症」などが知られています。一方、猫では赤血球に寄生して貧血を引き起こす「猫ヘモプラズマ感染症」などが見られます。
これらの病気は、重症化すれば命に関わることがあり、なかには人に感染する可能性のある人獣共通感染症も含まれています。
では、飼い主として愛するペットをマダニから守るには、具体的に何をすればよいのでしょうか。
もっとも効果的なのは、獣医師の指導のもとで適切なマダニ予防薬を使用することです。予防薬には、首の後ろに垂らす「スポットオンタイプ」、おやつ感覚で与えられる「チュアブルタイプ」、そして一度の注射で長期間効果が持続する「注射タイプ」があります。
これらの予防薬には、マダニを寄せつけない忌避効果を持つものや、マダニが吸血した際に駆除する効果を持つものなど、種類によって異なる特性があります。獣医師は、ペットの年齢、体重、健康状態、生活環境などを総合的に判断し、最適なものを提案してくれます。
マダニは年間を通じて活動するため、予防薬の通年使用が推奨されています。定期的な予防こそが、ペットと家族を守る第一歩となります。
日常生活におけるマダニ対策も重要です。散歩から帰宅した際には、必ずペットの体をチェックする習慣をつけましょう。特に、耳の裏、首、脇の下、股の内側、指の間など、皮膚が薄くマダニが潜みやすい場所を重点的に確認してください。小さな黒い点や、皮膚に食い込んでいる米粒のようなものを見つけた場合、それはマダニかもしれません。
もしマダニを発見しても、決して無理に引き抜こうとしてはいけません。マダニの口器が皮膚内に残ってしまったり、体液を逆流させて病原体を注入してしまうおそれがあります。もっとも安全で確実なのは、すぐに動物病院を受診することです。
また、ペットの生活環境の整備も欠かせません。庭がある場合は定期的に雑草を刈り、草むらや藪をつくらないよう心がけましょう。マダニは乾燥に弱く、日当たりと風通しのよい環境を嫌います。落ち葉の除去も効果的です。
自宅周辺では、天然由来の虫よけ剤を使ったり、網戸を目の細かいものに交換するなどの工夫も推奨されています。屋外での活動時には、肌の露出を避け、明るい色の服を着用し、虫よけ剤を使用することも有効な対策です。
万が一、ペットにSFTSなどのマダニ媒介性疾患が疑われる症状(発熱、食欲不振、元気がない、下痢、嘔吐など)が見られた場合は、ためらわずに動物病院を受診しましょう。
その際には、獣医師やほかの飼い主への感染リスクを考慮し、マスクや手袋を着用するなど、十分な感染予防対策をとることが大切です。SFTSに感染したペットの体液にはウイルスが大量に含まれており、血液や唾液との直接接触が人への感染経路となる可能性があるためです。
マダニ感染症は非常に恐ろしい病気ですが、正しい知識と早期の対応、そして日常的な予防策の積み重ねによって、そのリスクは大きく軽減できます。
ペットの異変に気づいたときは迷わず獣医師に相談し、マダニの活動が活発な季節に限らず、年間を通じて油断なく対策を続けましょう。
そうした日々の心がけが、大切なペットとご自身の健康、そしてかけがえのない幸せな暮らしを守ることにつながります。