ペットサロンで愛犬が亡くなるという悲劇 ~飼い主に伝えたい5つの対応策
昨年5月20日、兵庫県宝塚市のペットサロンで、預けていたトイ・プードルのティファニーちゃんが、トリミング中にハサミで首を食道まで貫通する怪我を負わされ、10日後に亡くなるという悲劇が起こりました。担当したトリマーは「なぜティファニーちゃんが怪我を負うことになったのか」を一切説明せず、入院中も一度も見舞いに来ないなど、長期にわたる誠意のない対応が続いたことから、飼い主は訴訟に踏み切りました。
また、今年1月12日には、福岡県北九州市のペットサロンで、預けていたジャーマンシェパードのアダム君がシャンプー中に亡くなるという悲劇が起こりました。従業員からの内部告発によると、経営者の女性が「しつけ」と称してアダム君に狭いシンクで伏せを強要。それに抵抗したアダム君の首輪を手すりに繋いだまま、約2時間もシャワーをかけ続けたいといいます。アダム君はその後、病院で亡くなりました。飼い主の男性は、「行き過ぎたしつけによる虐待死」であるとメディアやネット上などで訴えています。
ペットサロンの経営者は、メディアに出演し「虐待ではなくしつけだった」と反論しています。しかし、事実関係を調査していた一般社団法人全日本動物専門教育協会は、経営者が運営する動物専門学校の認定校取り消しと、経営者の認定教師ライセンスの取り消しをホームページで公表しました。
実際のところ、このような悲劇は特異なケースではありません。表面化していないだけで、誰にでも起こる可能性があり、被害者になってしまうかもしれないのです。
愛犬を守れるのは飼い主しかいない
筆者も10年ほど前に、ペットサロンに預けていた3歳の愛犬を亡くしました。預けて約3時間経ったころ、様子がおかしいと、ペットサロン経営者の男性から連絡がきました。私は急いでペットサロンに向かいましたが、そこにはすでに息をしていない愛犬の姿がありました。「一体何があったのですか?」「なぜ、病院へ連れて行かなかったのですか?」と経営者に尋ねましたが、ただ首を横に振るだけでした。
しばらくすると、経営者は従業員に指示をして、棺桶を造り始めたのです。私はその的外れな経営者の行動に怒りを感じ、「なぜ棺桶? まず、何があったのかを説明するべきですよね?」と詰め寄りました。しかし、経営者は逃げるばかり。従業員に聞いても経営者に口止めされているのか「わからない」といいます。やっと従業員のひとりから「熱中症かと思って冷やしているうちに容態が急変したらしい」と聞くことができました。しかし、愛犬のお腹はかなり腫れていて、それは熱中症の症状ではないと思いました。経営者は何を隠しているのか? 誠意のない対応に疑念が増すばかりでした。結局、経営者の口から真相を聞くことはできませんでした。
なぜ、このペットサロンに愛犬を預けたのか、後悔ばかりが頭をよぎりました。そして、「愛犬を守れるのは、飼い主しかいない」と実感したのです。
飼い主に伝えたい5つの対応策とは?
取材を受けてくれた福岡県北九州市のペットサロンの元従業員Aさんの話や筆者の体験などから、いくつかの対応策が見えてきました。前述したような悲劇の被害者にならないためには、飼い主はどう行動したらよいのか考えてみましょう。
①経営者やトリマーの資質を見抜く
ペットサロンは、経営者や従業員であるトリマーの考え方、取得資格、経験値により、サービスの質や安全性が大きく変わります。評判を聞くことはもちろん、実際にペットサロンに出向き、経営者やトリマーと何度か話をするとわかることがあります。動物に対して愛情を持ち、何かあったときに誠意ある対応をしてくれる信頼できる人であるかどうかを、飼い主としてしっかりと見極めることが大切です。例えば、経営者がワンマンでパワハラ気質であると、何かあったときに従業員は口を閉ざしてしまいがちです。また、トリマーの資格を取るための認定校に指定されているペットサロンであれば、経営者と学生は「先生と生徒」という関係になります。経営者の行動や言動が間違っていても、それを間違いだと指摘することは難しいと考えます。ペットサロンではではさまざまなペット用品も販売されていますので、それを購入しに行きがてら、経営者と従業員の関係性も注視するとよいでしょう。少しでも疑問に感じる点があれば、ほかのペットサロンを選ぶことをオススメします。
また、トリマーが持つ資格をチェックすることも大切です。トリマーは国家資格ではなく、各団体等による認定資格を得てトリミング業務を行っています。通信教育等などで短期間に簡単に取得できるものもあります。その資格により難易度が異なり、同じ「トリマー」であってもトリミングの知識や技術等に大きな差が生じます。その差は、トリミング中の安全にも関わってきます。その後の経験値もあるので一概にはいえませんが、難易度が高い資格を持っていることは、トリマーとして質が高いという証にもなります。資格の詳細は簡単にインターネットで検索ができますので、積極的に調べてみましょう。
②店内がガラス張り、防犯カメラの有無を確認する
シャンプーやトリミングをする場所が店の奥にある場合には、飼い主がその様子を見ることができません。ほかの従業員からも見えない位置にあれば、そこは閉鎖的な空間といえます。防犯カメラもない場合には、万が一、虐待が行われていたとしても誰も気が付かないということになります。
シャンプーやトリミングをする場所がガラス張りである、防犯カメラが設置されているなどのメリットは、
高い安全性が確保されるということです。なぜなら、それが「監視の目」となり、虐待などの抑止力となる
とともに、録画された映像は何かあったときの証拠にもなるからです。ペットサロンの信頼性を高めるものとも
いえるでしょう。
※ガラス張りであることが、愛犬にとって「落ち着かない場所」なる可能性もあります。愛犬の性格などを考慮しましょう。
③安易にカットモデルにはならない
ペットサロンによっては、カットモデルを募集しています。新米トリマーや資格取得中の学生などの技術レベルを向上させるための募集で、通常よりも安価です。「安いから助かる」と依頼する飼い主も多いのですが、そこにはリスクが伴います。犬は「動物」ですから、もちろん動きます。熟練したトリマーであっても100%怪我の心配がないとは言い切れません。まして、新米トリマーや学生が不慣れな状態でハサミなどを扱うのですから、怪我をさせてしまう可能性は高いのです。安価なぶんだけリスクが伴うということを、飼い主は認識しておく必要があるでしょう。
じつは筆者も愛猫をカットモデルに出して、苦い経験をしたことがありました。15年ほど前、近くのペットサロンでカットモデルを募集していたので、愛猫(チンチラシルバー)を預けました。しかし、カットが終り迎えに行くと、ざっくりとお腹の皮膚が切られていました。担当したのは新米トリマーで、「猫のカットは初めてで、猫の皮膚が犬より伸びることを知らなかった」と顛末を説明。謝罪を受けましたが、安価であることのリスクの大きさを痛感しました。愛猫には、本当にかわいそうなことをしてしまいました。
④「しつけ」依頼は詳細を確認してからにする
トリミングサロンで「しつけ」のサービスを提供していても、トレーナーの有資格者が担当をするとは限りません。無資格者が自己流で「しつけ」をしていることも多々あります。大切な愛犬の「しつけ」ですから、間違った知識や技術でなされては困ります。まずは、資格の有無やその詳細を確認することが大切です。
また、どのような「しつけ」を行うのかを確認することも大切です。古くから、犬と飼い主には主従関係が必要といわれ、体罰を用いた「しつけ」も多々行われてきました。そのため、現在でもそれが正しい方法として、行き過ぎた「しつけ」をするトレーナーもいます。しかし、近年は犬と飼い主の関係に「主従」や「服従」はないということが、さまざまな研究者よって明らかになっています。体罰を中心とした「しつけ」は犬の福祉を損ない、犬と飼い主の信頼関係を崩すこともわかってきました。まして、飼い主に見せることができないようなしつけは、誰もが「虐待」だと判断するものでしょう。古い情報や誤った方法を用いず、愛犬の個性にあった「しつけ」をしてくれるのかどうか、依頼をする前にしっかりと確認することが大切です。
しかし、アダム君の場合は、シャンプー中に勝手に行われた体罰による「しつけ」です。トリミングの依頼であっても、万が一を考え、経営者や従業員が「しつけ」に対してどのような考えを持っているのか、愛犬を守るために事前に確認する必要があるでしょう。
⑤愛犬のSOSを見逃さない
もし、ペットサロンで嫌なことがあれば、愛犬は必ずSOSを発します。飼い主は、それを見逃さないことが大切です。まず、ペットサロンに行く際の愛犬の様子を観察します。入口で震える、Uターンして行きたがらないなどの様子があれば、そこは愛犬にとって嫌な場所。トリミングそのものが嫌なのか、それとも痛い目に合っているのか、何らかの理由があるはずです。
また、愛犬の帰宅後には全身をチェックします。傷はないか、腫れはないか、アザはないかなど念のため確認します。怯えている様子などがないかも注意深く観察します。もし、愛犬にSOSを感じたら、ペットサロンを変えることをオススメします。愛犬を守れるのは、飼い主しかいません。じっくり観察することで、その理由を早期に見つけてあげましょう。
信頼に応えるペットサロンであってほしい
環境省の「動物取扱業の登録状況(平成28年4月1日現在)」によると、全国にあるペットサロンの登録数は2万5000件を超えています。その中から飼い主はひとつのペットサロンを選び、信頼して家族の一員である愛犬を預けているのです。ペットサロンの経営者や従業員(トリマー)は、そのことを心に刻み、つねに愛情と責任を持ってサービスを提供する必要があるのではないでしょうか。そのためには経営者も含め、しっかりとした知識と技術を学んだ、質の高い人材を備えることが必須だと考えます。もちろん、すでにそうした人材を揃え、素晴らしいサービスを提供しているペットサロンもたくさんあります。しかし、前述したような好ましくないペットサロンが存在していることも事実なのです。
ペットサロンは、飼い主が愛犬を連れてきてくれなければ経営は成り立ちません。継続して利用をしてもらうためには、初心を忘れず、努力を怠らず、サービス精神を持ちながら、日々向上していくことが大切なのではないでしょうか。客である飼い主に「愛犬を守れるのは飼い主しかいない」といわせないような、信頼に応える素晴らしいペットサロンが増えていくことを心から願っています。
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