ペットフードは環境に悪い? 最新研究が示すプレミアム志向と環境負荷

ペットは家族――。この言葉が定着して久しい現在、私たちは愛犬や愛猫の食事に対して、かつてないほど敏感になっています。「人間が食べられる品質(ヒューマングレード)」や「新鮮な生肉をふんだんに使用」といった謳い文句が並ぶプレミアムフードは、健康志向の飼い主にとって魅力的な選択肢であり、愛情の証とも言えるでしょう。

しかし、その「愛情」が、実は地球環境に対して無視できない負荷をかけているとしたら、私たちはどう向き合うべきでしょうか。

英エディンバラ大学の研究チームによる知見や、欧州ペットフード工業会(FEDIAF)の資料を読み解くと、私たちが「良質な食事」と信じている常識の裏側に、構造的なジレンマが潜んでいることが見えてきます。今回は、ペットフードと環境問題の関係、そして私たち飼い主が持つべき新たな視点について考察します。

最新研究が示す「カーボン・パウ・プリント」の現実

「カーボン フットプリント(Carbon Footprint of Product)」ならぬ「カーボン ポウ プリント(Carbon Paw Prints)」という言葉をご存じでしょうか。ペットの飼育に伴って排出される温室効果ガスの総量を指す概念です。

これまで、ペット産業が環境に与える影響については指摘されてきましたが、近年の研究によってその具体的な規模が明らかになりつつあります。とくに注目されているのが、「どのようなフードを選ぶか」によって、環境負荷に大きな差が生じる可能性があるという点です。

近年のライフサイクルアセスメント研究では、同じペットフードでも原材料や形状の違いによって、温室効果ガス排出量が大きく変動することが定量的に示されています。

ウェットフードとドライフードの決定的な差

エディンバラ大学をはじめとする研究チームの分析によると、条件によっては一般的に市販されているドッグフードの中で、「ウェットフードのほうがドライフードより環境負荷が高くなる傾向」が指摘されています。

とくに、同一カロリーあたりで比較した場合、ウェットフードはドライフードに比べて温室効果ガス排出量が数倍に達するケースも報告されています。

その理由は複合的です。まず、ウェットフードは水分含有量が80%と高く、同じ栄養量でも重量が増えるため、輸送にかかるエネルギーコストがドライフードに比べて高くなります。さらに、金属缶やレトルトパウチといった包装資材も、製造や廃棄の過程で環境負荷を伴います。

しかし、問題の本質は輸送やパッケージだけではありません。より大きな影響を及ぼすのが、その「中身(原材料」にあります。

「ヒューマングレード」の功罪

近年、プレミアムフード市場では「グレインフリー(穀物不使用)」や「高タンパク質」がトレンドとなり、原材料における肉類の比率を高める傾向にあります。そこに、「人間と同じものを食べさせたい」という飼い主の心理、いわゆるペットの擬人化が重なり、「人間と同等の食用肉」を使うことが高品質の証とされるようになりました。

しかしここに、環境面での大きな矛盾が生じます。

家畜産業と温室効果ガス

食肉生産、とくに牛肉や羊肉は、多くの水や土地を必要とし、メタンガスなどの温室効果ガス排出量も多い産業として知られています。人間の食肉需要だけでも環境負荷が問題視される中、ペットフードでも同様の資源を大量に消費することは、負荷をさらに増やす要因となり得ます。

実際にLCA研究では、牛肉など反芻動物由来の原料は、鶏肉や植物性タンパク質と比較して温室効果ガス排出量が著しく高いことが示されています。

ある研究では、犬の食事に由来する温室効果ガス排出量が、年間の自動車利用と比較されるケースも報告されています。もちろん食事内容や地域条件によって数値は大きく変動しますが、愛犬に「良いものを与えたい」という行動が、結果として環境負荷に影響を与えている可能性については、無視できない視点と言えるでしょう。

「副産物」は本当に避けるべきものか

ここで見直すべき重要な視点が、「副産物」という言葉です。

飼い主の間では、「副産物」や「ミートミール」に対し、「廃棄物のような粗悪な肉」「何が入っているかわからない危険なもの」というネガティブなイメージを持つ方が少なくありません。実際に「副産物不使用」を高品質の証としてマーケティングに利用している製品も見られます。

しかし、欧州ペットフード工業会(FEDIAF)のラベリング指針や栄養学の観点から見ると、その評価は一面的である可能性があります。

栄養価の高い内臓

FEDIAFにおける「肉および動物由来の製品」には、肺や肝臓、腎臓といった内臓、血液や骨などが含まれます。これらは、食肉処理された動物に由来し、獣医検査を経たうえで、EUの規制に基づき安全性が確認された原料として管理されています。多くは人間の食品チェーンで利用されなかった部位を有効活用したものです。

栄養学的に見れば、筋肉(正肉)だけを与えるよりも、内臓を含んだ食事のほうが、ビタミンやミネラルなどの必須栄養素をバランスよく摂取できる場合が多くあります。野生の肉食動物が獲物の内臓を真っ先に食べるのは、そこに生命維持に必要な栄養が凝縮されているからです。

資源を無駄にしないという考え方

環境保全の観点では「副産物」の活用は極めて合理的です。人間が利用しない部位をペットフードとして有効活用することは、家畜一頭あたりの資源効率を最大化し、廃棄を減らすこと(廃棄ロス削減)に直結します。

これらをあえて使わず、人間と同じ部位ばかりをペットフードに使用することは、資源効率の観点では非効率と評価される場合もあり、持続可能性の観点からも再考の余地があると言えるでしょう。

「副産物=低品質」という単純な図式は、必ずしも科学的根拠に基づくものではなく、マーケティングによって作られた一面的なイメージに過ぎないと考えれます。私たちは今一度、その言葉の定義と実態を冷静に見つめ直す必要があります。

私たち飼い主ができる「責任ある選択」

もちろん、これは特定のフードを一律に推奨したり、否定するものではありません。水分摂取が重要な猫や、腎臓疾患を持つ犬、高齢で食が細くなったペットにとって、ウェットフードや嗜好性の高い食事は不可欠な選択肢です。個々の健康状態に応じた食事が最優先であることは言うまでもありません。

そのうえで、健康上の必要性とは別に、単に「贅沢」や「なんとなく良さそう」というイメージだけで選択している部分がないか、一度立ち止まって考える余地はあるのではないでしょうか。

・賢明な飼い主の3つの視点
これからの時代の飼い主には、以下の3つの視点が視点が求められます。

一つ目は、「過剰なタンパク質志向を見直すこと」です。犬は雑食に近い食性を持ち、適切に設計されたフードであれば、植物性原料や穀物を含んでいても健康維持は可能とされています。

二つ目は、「ドライフードの再評価」です。主食をドライフードにすることで輸送や包装の負荷を抑えやすくなります。ウェットフードは目的に応じて使い分けるという考え方も有効です。

三つ目は、「サステナブルなタンパク源への注目」です。近年では昆虫由来のタンパク質や、環境負荷の低い原材料を用いたフードの開発も進んでいます。こうした選択肢に目を向けることも一つの方法です。

愛情の形をアップデートする

「愛犬に最高のものを与えたい」ーーその思いは変わることのないものです。しかし、その「最高」の定義の中に、「持続可能性」という視点を加える時代に来ています。

ペットフードのパッケージ裏に書かれた原材料名を見るとき、その背景にある資源や環境への影響にも思いを巡らせてみてください。

業界のトレンドやメーカーの宣伝に踊らされるのではなく、科学的な事実と広い視野を持ってフードを選ぶこと。それは愛犬の健康だけでなく、私たちと彼らが生きる未来の環境を守ることにもつながります。

あなたの選ぶフードが、より良い未来につながる一歩となるかもしれません。