猫はセラピー動物として適しているのか? 犬とが何が違う? 猫の癒し効果

動物介在療法(AAT)は、医療や福祉の分野でその効果が認識されつつあります。従来、セラピー動物といえば犬が主流でしたが、近年では、猫がセラピーの現場で果たす可能性に関心が高まっています。

猫と人間との絆に関する理解が深まるにつれて、その潜在的な利点も注目されるようになりました。今回は、猫がセラピー動物として適しているかどうかを総合的に考えます。

セラピー動物の役割:犬と猫の比較

セラピー動物とは、人間の身体的・精神的健康の向上を目的として、医療・福祉・教育現場などで活動する動物のことを指します。

特定の訓練を受け、ふれあいや交流を通じてストレスの緩和、情緒の安定、社会性の向上など、さまざまな心理的・生理的効果をもたらすことが期待されています。

動物介在療法(AAT)や動物介在活動(AAA)など、目的や活動内容に応じた分類がなされることもあります。動物の健康や福祉、衛生管理、適性などの条件が求められるため、すべての動物がセラピー活動に適しているわけではありません。

セラピー動物としてもっとも広く利用されているのは犬です。犬は人の指示に従う訓練がしやすく、他者への接近やふれあいにも積極的な性格を持つことが多いため、グループ活動や多人数との接触を伴う環境に適しています。

一方、猫は一般的に独立心が強く、環境の変化や過剰な接触を好まない傾向がありますが、信頼関係を築いた相手には深い情緒的なつながりを示す動物でもあります。静かな環境や個別対応が求められるケースにおいては、猫の存在がむしろ安心感や癒しを提供する可能性もあります。

このように、両者には性格や行動特性に基づく適性の違いがあり、セラピー活動の場や目的によって適切な動物種の選択が求められます。

猫がセラピー動物に適していると考えられる理由

猫がセラピー動物として潜在的に持つ利点については、これまでもいろいろな研究で明らかになっています。科学的根拠に基づいた理由は次のとおりです。

穏やかな存在とストレス軽減

猫の穏やかな性格は、ストレスや不安を抱える人に安らぎを与える可能性があります。猫との触れ合いは、心拍数や血圧を下げ、リラックスした状態を促すことが知られています。

撫でるという触覚刺激は、副交感神経系を活性化させる可能性があります。これは「休息と消化」の反応を司り、ストレスホルモンや心拍数の低下につながります。セラピーの現場においても、猫の存在は不安を軽減し、信頼感を高める効果が報告されています。

生理的な利点

研究によると、猫を撫でることで血圧が低下し、心臓病のリスクが軽減される可能性があります。猫を飼うことは、長期的な心血管の健康に寄与する可能性が示唆されています。

猫の飼育は、安静時の心拍数と血圧の低下に関連しているという研究があります。これは、ストレス軽減、穏やかな遊びなどの身体活動の増加、猫がもたらす伴侶関係による複合的な効果かもしれません。

さらに、猫との交流は幸福感や喜びに関連する神経伝達物質であるセロトニンとドーパミンのレベルを上昇させることが示されています。これらの神経化学的な変化は、気分によい影響を与え、うつ病の症状を軽減する可能性もあります。猫とのふれあいは、エンドルフィンなどの快感物質の分泌を促し、気分の改善に寄与することがあります。

猫の喉のゴロゴロ音の治癒効果

猫の喉のゴロゴロという音は、25〜150㎐の治療的周波数範囲であることが研究で示されています。これらの周波数は、骨の治癒や痛みの緩和など、医療分野で利用される治療用周波数と一致しています。猫のゴロゴロ音は、近くにいる人間に直接的な生理的治癒効果をもたらす可能性があります。

猫のゴロゴロ音の特定の周波数は、組織の再生と痛みの緩和を促進することが知られている範囲内です。これらの振動にさらされることは、細胞修復メカニズムを刺激し、炎症を軽減する可能性があります。

人との独特なつながり

猫は、犬を好まない人や、体が小さく膝の上に乗ったり抱きしめたりすることを好むため、移動が困難な人にとって魅力的な存在となり得ます。猫は気まぐれであるという認識があり、その愛情は特に意味深く感じられるため、真の人間関係を築くきっかけとなる可能性があります。

猫の愛情表現は、犬のように普遍的に熱心ではないため、より特別なものとして解釈され、受け取った人に強い繋がりと価値観を与えることがあります。また、猫は穏やかな態度や直接的なアイコンタクトをあまりしないことから、自閉症の人々にとって特に助けになる例も報告されています。

研究と実践からの証拠

猫の飼い主は、ペットを飼っていない人と比較して自己肯定力が高く、より幸福で、全体的に心理的に健康であると報告されています。別の研究では、セラピーキャットの存在が、飼い主の精神活動に大きなプラスへの影響が示唆されています。

猫をセラピー動物として活用する上での課題と注意点

猫がセラピー動物として適していると考えられる理由は、科学的にも実証されていますが、猫をセラピー動物として導入する際に考慮すべき課題と潜在的なリスクもあります。

アレルギーと人獣共通感染症

猫アレルギーは一般的な問題であり、呼吸器系の問題や皮膚反応を引き起こす可能性があります。アレルギーの懸念は、特定の環境や既知のアレルギーを持つ個人にとって、猫の適合性を制限する可能性があります。アレルギー反応は、軽度の不快感から重度の呼吸困難まで様々であり、セラピーキャットプログラムを実施する際には、患者とスタッフの両方のアレルギー歴を考慮することが不可欠です。

また、トキソプラズマ症やバルトネラ菌による猫ひっかき病、猫から人間に伝染する可能性のある人獣共通感染症のリスクについても議論する必要があります。これらのリスクを軽減するためには、適切な衛生管理と定期的な獣医によるケアが不可欠です。動物の健康診断、ワクチン接種、衛生管理に関する厳格なプロトコルを実施することは、患者とセラピーキャットの両方の安全を確保するために必要です。

猫の気質と訓練のばらつき

すべての猫がセラピー活動に適しているわけではなく、個々の性格や、不慣れな環境でのストレスや攻撃性の可能性が理由として挙げられます。穏やかで友好的、そして適応性のある気質を持つ猫を選ぶことが、セラピー活動を成功させるために不可欠です。

セラピーキャットは、新しい人々や騒音、取り扱いに慣れている必要があり、そのためには特定の気質と多くの場合、早期の社会化が必要です。犬は一般的に指示によく従う傾向がありますが、猫の訓練はより難しい場合があることも指摘されています。猫は伝統的な服従訓練には向きませんが、正の強化(ご褒美)を活用することで、ある程度の行動訓練は可能です。

猫の福祉の重要性

セラピーキャットの幸福を確保する必要性ですが、安全で快適な環境の提供、一貫した日常の確立、そしてストレスの徴候の認識が含まれます。セラピー活動は猫にとって充実したものであり、過度のストレスや不安を引き起こすべきではありません。セラピー中の猫の行動やボディランゲージを観察し、休息や退避の機会を確保することが不可欠です。また、適切な健康診断やワクチン接種、グルーミングの重要性にも言及しています。

実践的な考慮事項

過度に活動的な猫は、意図せずに患者を傷つける可能性があることを認識する必要があります。患者からの穏やかな接し方も、猫に不快感や怪我をさせないために重要です。

猫と人間の絆に関する研究結果と影響

猫と人間が形成する独特な絆に焦点を当て、その絆が人間の健康にどのような影響を与えるかを、最新の研究結果を基に、猫がもたらす多岐にわたる恩恵を見てみます。

猫と人間の絆の性質

研究によると、猫は犬と同じくらい人間との社会的絆を形成することができます。猫と人間の関係は、社会的サポートや愛着という観点から理解することができます。猫は、飼い主にとって重要な社会的ニーズを満たす、伴侶と安心感を提供することができます。愛着は、人間との間に感情的な絆を形成することを示唆しており、ペットはしばしば同様の役割を果たし、安心感と所属感を提供します。

精神的および感情的健康への影響

猫の存在は、人間の気分によい影響を与える研究結果があります。猫と暮らすことは、目的意識と充実感を与え、孤独感や孤立感を軽減する可能性があります。

猫の世話をすることは、特に精神的な問題を抱える人々にとって有益な構造とルーチンを提供することができます。猫に食事を与えたり、手入れをしたり、遊んだりする責任は、目的意識を生み出し、無気力感や無価値感を打ち消す、ポジティブな焦点を提供することができます。

猫の飼い主を含むペットの飼い主は、ペットを飼っていない人と比較して、うつ病と孤独感のスコアが低く、社会的交流のスコアが高いという研究も報告されています。

感情的なサポートと安定性

セラピーキャットは、一貫した感情的なサポートを提供し、個人がより安定し、安心感を得るのを助けることができます。穏やかな存在感とグラウンディングの手法を通じて、不安やパニック発作を軽減する役割も議論されています。

社会的促進

猫を飼うことは、特に社会不安を持つ個人にとって、打ち解けるきっかけとなり、社会的交流を促す可能性があります。猫の存在は、会話のきっかけとなる中立的な話題を提供し、社会的な交流を容易にすることができます。人々は自分のペットについて話すことを快適に感じることが多く、セラピーキャットは、ハンドラーや猫、患者の間の交流の焦点となることができます。

セラピーキャットの事例

PetPartnersをはじめ、欧米には多くのセラピー動物組織が存在しています。セラピーキャットは病院や老人ホーム、ホスピスに介護施設、学校、図書館などを訪問し、自閉症、ADHD、ADDの子供たちのコミュニケーション、集中力、全体的な幸福度を向上させています。また、孤独や認知症、アルツハイマー病に苦しむ高齢者の注意力、コミュニケーション、共感力を高めるなど、さまざまな設定と人々に対して恩恵をもたらしています。

例えば、クリーブランドの病院システムで最初のセラピーキャットとなったパール、ホスピスの患者や子ども病院への訪問、パンデミック中のZoom訪問に移行したトレーシーと彼女のセラピーキャットロジャー、ミネアポリス・セントポール空港のセラピーキャットなど、多くの事例がセラピーキャットのポジティブな影響を示しており、不安障害、うつ病、PTSDのメンタルヘルス環境での利用も報告されています。

対象者/環境報告された利点
ストレスや不安を抱える人ストレス軽減、安心感
心臓病リスクのある人血圧低下、心臓病リスク軽減
うつ病や気分の落ち込みのある人セロトニンとドーパミンの増加、気分の改善
骨折や創傷のある人骨の成長と治癒の促進
犬を好まないまたは移動が困難な人快適な伴侶、抱きしめられる
自閉症・ADHD・ADDの子供コミュニケーション、集中力、幸福度の改善
孤独な高齢者孤独感の軽減、コミュニケーションの促進
認知症やアルツハイマー病の高齢者注意力、コミュニケーション、共感力の向上

まとめ

猫は、穏やかな性質や生理的な利点や人との深い絆により、セラピー動物として大きな可能性を秘めています。特に犬を好まない人や移動が困難な人にとって、猫は貴重な存在となり得ます。

ただし、アレルギーや猫の気質、福祉への配慮は重要であり、適切な選定と訓練が不可欠です。今後の研究により、猫と人との絆がさらに解明され、セラピーにおける猫の可能性が広がるでしょう。