子猫のかたわらに「おねがいします」の一言と3万円――置き去り主の責任はどうなる?相次ぐ猫や犬の遺棄と《法的リスク》
東洋経済オンライン | 2025/4/18
この記事によると、動物保護施設の前にキャリーバッグが置かれており、そのなかには子猫が1匹、そして「お願いします」と書かれたメモと現金3万円が添えられていたという出来事がありました。一見すると善意にも見えるこの行動ですが、これはれっきとした「動物の遺棄」という犯罪に該当します。記事では、近年増加している犬や猫の遺棄の実態と、そうした行為に対する法的リスクについても紹介されています。

動物愛護法では、愛護動物の遺棄は1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される犯罪と定められています。しかし、実際には遺棄の証拠をつかむことが難しく、刑事罰に至るケースはごく限られているのが現状です。飼い主が姿を見せず施設の外に置いていっただけでは、誰が行為者なのかを特定することが困難であり、法の網をかいくぐるような遺棄が後を絶ちません。
ペットの遺棄がなぜ起こるのかを考えると、そこにはさまざまな事情があることが見えてきます。経済的に困窮してしまったり、飼い主自身が高齢になって介護が必要になったり、急な転居や入院といった生活環境の変化に直面したりと、「どうしても飼い続けるのが難しくなった」という声があるのも事実です。
最初から軽い気持ちで動物を迎えたわけではなくても、いざ困難な状況になったときに「どこに相談すればよいのか」「どうすれば手放す以外の選択肢があるのか」がわからず、結果的に遺棄という行動に出てしまうケースも少なくありません。
しかし、事情があるからといって命を置き去りにすることが許されるわけではありません。私たちがまず意識しなければならないのは、動物を迎える前に「この命と最後まで付き合う覚悟があるかどうか」を自問することです。
犬や猫の寿命は15年を超えることも珍しくなく、その間には病気や老化、介護などの大変さもついてまわります。かわいいという感情だけでなく、命と向き合う責任を引き受ける覚悟が必要です。
そして、どうしても飼えなくなったときには、「遺棄以外の選択肢がある」ということを知っておくことが大切です。多くの自治体では動物愛護センターや保健所で相談窓口を設けており、保護団体やボランティアによって運営されている譲渡支援のネットワークも各地に存在しています。
最近では、インターネットやSNSを活用して新たな飼い主を探すしくみも広まりつつあり、飼い主自身の努力次第で命をつなぐ手段は十分にあります。
また、社会全体としても、飼い主が孤立しないようなサポート体制を整えていく必要があります。とくに高齢化社会では、高齢者がペットを飼う場合に備えた「ペット後見人制度」や「終生飼養支援」といったしくみがより充実することが望まれます。
一時的に飼えない状況にある人に対して、一時預かりや支援金を活用できる制度などがあれば、遺棄に至る前の段階で支援の手が差し伸べられるかもしれません。
動物を遺棄することが法に触れる行為であるという認識は、まだまだ社会全体に浸透しているとはいえません。「誰かが面倒を見てくれるだろう」「現金を添えれば責任を果たしたことになる」といった考え方が、命を軽視する行為につながっているのです。
法的な罰則があることを周知し、命を預かることの重みを教育でも伝えていくことが、長い目で見て命を守る社会をつくる基盤になります。
3万円とともに子猫を置いていった人は、「これでなんとかなるだろう」と思ったのかもしれません。しかし、その行為は「命をお金で解決できる」と考えていることの表れであり、もっとも避けるべき責任の放棄です。
命に値段をつけることはできません。事情があるからこそ、捨てる前にできることがきっとあるはずです。私たち一人ひとりがそのことに気づき、行動を起こしていくことで、命が軽んじられない社会を築いていくことができるのではないでしょうか。