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もし腸内細菌が話せるとしたら、私たちに何を伝えたいのか?

[2022/04/12 6:01 am | 獣医学博士 川野浩志]

特定の細菌が病気に関わっているのではないのかということで、腸内細菌が注目されて世界的に研究がガンガン進んでいます。例えば、胃炎・胃癌の原因は99%がピロリ菌であることは証明されていますし、アトピー性皮膚炎患者の90%以上で黄色ブドウ球菌が皮膚から検出されています。

そのほかにも、関節リウマチはコプリ菌、脳出血はミュータンス菌、大腸癌はフソバクテリウム(口腔内細菌)、肝臓がんはC型肝炎ウイルス(HCV)、子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)といった具合に明らかになっているのです。

一方で、病気の多くは特定の細菌が原因というわけではなく、腸内細菌のバランスの乱れ「ディスバイオシス」も関係しているようです。ただし、「あなたの腸内細菌が悪いから病気になった」というのもおそらく違っていて、むしろ「腸内細菌達がバランスを変えてまであなたのなかの健康を守ろうとしてくれた」と考える方が腑に落ちるのです。

動物病院の診察室で腸内細菌の話をすると、「どの乳酸菌が最強ですか?」とよく質問されます。答えはズバリ、「あなたの腸内にすでに住んでいる細菌たちが最強です!」ということ。

その理由としては、あなたの腸内にもともと住んでいる細菌たちは、体内の保安検査(免疫)をパスして体内に残ることを許された選ばれた細菌であり、さらに腸内のライバルとなる細菌たちとエサの争奪戦に負けず、過酷な生存競争に勝ち抜いて選抜された優秀な細菌だから。

企業と同じで、いわゆる有名大学卒業のエリート社員だけでは会社は成り立ちません。多様性が求められるように、腸内社会においても選抜されたエリート細菌だけを新規採用して外から足しても、周りの腸内細菌とのバランスが悪いとなかなか力を発揮しにくいのです。

外から摂取した乳酸菌サプリメントは、口から入り胃を通過して腸管内を移動し、定住せず短期間だけ宿泊し、腸管の動きに合わせて移動しながら、その一瞬一瞬で任務を全うします。そして、勇敢に戦死して最終的には3〜5日くらい滞在して、あとはうんちになって排出される。

つまり、数日で出ていくから乳酸菌は毎日飲まなきゃ意味がないのです。仮に毎日外から何100億個の菌を摂ったとしても、腸管内に住んでいる細菌の数は100兆個以上存在することがわかっているので、胃酸に殺されなかったとしてもほんの0.0001%と誤差範囲で体勢を崩すほどのインパクトはまずないでしょう。

また、何十年もあなたのお腹に住み続けている腸管内の細菌は、あなたの免疫細胞からも永住許可をもらい、住民票を持った常在菌であり、じつはもっとも安全であなたにとって相性が良いのでしっかりと育てる必要があります。

だから腸内細菌理論でもっとも大切なことは、あなたの常在菌が何を食べたいのかということ。野菜やでんぷんを食べない人の腸に住んでいる常在菌が話せたら、おそらく「俺たちは元気になって増えたいけど、なかなか食べたい食事を摂ってくれねぇなぁ」とイラついて、「俺たちがいるのに何で新卒採用して新しい乳酸菌ばっか飲んでるんだよ!」ってブチギレてちゃぶ台をひっくり返しているかもしれない……。まずは、あなたの常在菌をしっかり“育てる”ことを心がけましょう。

[獣医学博士 川野浩志]