腸内細菌を封鎖せよ!〜腸内細菌と病気の関係〜 

腸内に住んでいる細菌が、たくさんの病気の病態や感染防御に重要な役割を担うことが明らかになっていて、それは腸内細菌の乱れ「ディスバイオシス」が深く関わっていることも明らかになってきています。

例えば、胃潰瘍の原因はピロリ菌だということが1983年に報告されて、さらに胃がんもピロリ菌が原因であるとわかってきました。当時はかなりの研究者たちが否定的であったように、病気の病態と腸内細菌叢が関係していることはなかなかイメージがつかないのは無理もありません。さらに、関節リウマチ患者の一部では、腸内に「コプリ菌」が多く存在することがわかっています。また、虫歯菌「ミュータンス菌」は血管に乗って脳へ行くことで脳出血や脳卒中の原因になると疑われています。

クラブが若い男女が出会う場所になっているように、腸は病原体(敵)と免疫細胞(戦闘部隊)が出会う場所になっているのです。健康であれば腸管内にはマクロファージ(特殊部隊)、T細胞(陸軍)、B細胞(海軍)、樹状細胞(空軍)など強烈な免疫細胞(軍隊)が配備されているわけです。

これらの免疫細胞は、ほかの免疫細胞と連携して多数のサイトカイン(警報)を鳴らして腸管の警備にあたります。実際には侵入した病原体に反応して免疫細胞を動員し、総攻撃を仕掛けるアクセル(炎症誘発性反応)とブレーキ(抗炎症性反応)のトリッキーなバランスで成り立っています。このバランスが崩れると、無害な敵に対して暴動を起こしたり、逆に敵を制圧しきれずに戦いに敗れる結果となるわけですね。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やインフルエンザウイルス感染時には、警戒レベル(炎症誘発性サイトカインのレベル)が上昇し、免疫細胞が動員されて肺などの組織が戦場(間質性肺炎)となり、壮絶な戦いが繰り広げられます。ウイルスが免疫細胞によって制圧されると、警戒レベルは低下し“撤収”となる。ところが免疫ブレーキが故障して“やり過ぎ”の状態がサイトカインストーム。つまり、警報が鳴り続け、嵐(ストーム)のように全身に炎症反応が起こったヤバイ状態です。

映画『踊る大捜査線』の織田裕二さん演じる青島刑事の名セリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」風に言わせていただくと、まさに「事件は腸管で起きてるんだ!」です。