近年は飼育環境の変化や獣医療の進化などにより、犬も猫も長生きをするようになりました。人間同様に高齢化が進んでいます。それにより、飼い主が愛犬・愛猫の介護をすることも少なくありません。犬も猫も年齢を重ねてくると、老化や病気などによりこれまでのように思うように体を動かせなくなってきます。歩くときにふらつくようになる、食事を自分で取れなくなる、トイレの失敗が多くなるなど、これまでできていたことができなくなったら介護が必要となります。
介護が始まればそれはいつまで続くのかわかりません。飼い主は終わりが見えない介護の毎日に、精神的にも肉体的にも追い込まれていくかもしれません。そうならないように、自分のできることを気負いすることなくやっていくことが大切です。ひとりで抱え込まず、家族や友人、またホームドクターに相談しながら行うことです。無理はせず、大変なときはさまざまなサービスを利用しながら行うことです。犬や猫の性格やおかれている飼育環境が違うように、介護の方法もそれぞれです。愛犬・愛猫の様子を見ながら、自分に合う介護の方法を見つけていきましょう。決して「無理しない」ことです。
しかし、何の準備もなしに突然に介護の日々を迎えることはとてもたいへんです。愛犬・愛猫がシニア期を迎える前に、飼い主が犬・猫の老化についてしっかりと学んでおく必要があるでしょう。また、すでにシニア期に入っている場合には、すぐに愛犬・愛猫の様子を確認して実践してみましょう。
第1回は「犬・猫の老化の兆候」についてお話しします。
犬・猫の老化の兆候
犬や猫は人間の約4倍の速さで年老いていきます。寿命が延びたことで、シニア期が長くなりました。小・中型犬は10歳(人間の約56歳)がシニア期の始まりで、平均寿命は15歳(人間の約76歳)です。大型犬は7歳(人間の約54歳)がシニア期の始まりで、平均寿命は10歳(人間の約75歳)です。猫は小・中型犬と同じ年齢の重ね方をしていきます。もちろん個体差はありますが、このシニア期から徐々に老化が進んでいくことになります。
犬・猫の老化の要因は加齢と病気です。加齢による心身の老化は、生活習慣などを変えることである程度は緩やかにすることができます。病気は治療をすることで改善できることもあります。しかし、老化そのものを完全に止めることはできません。愛犬・愛猫にシニア期が訪れたら、飼い主はその「老い」をきちんと受け入れて介護に備えることが大切です。それが飼い主にとっても、愛犬・愛猫にとっても、シニア期を穏やかに過ごすために必要な要素となるのです。
老化による身体の変化【犬の場合】 外見の老化に加えて、運動機能の衰えが目立ってきます。五感の衰えも出るので、それを見極めた介護が必要です。
被毛:白髪が増える。乾燥や脱毛、毛玉などのトラブルが増える傾向がある。
耳:聴覚が衰えて音や声の反応が鈍くなる。耳垢が増え汚れやすくなる傾向がある。
目:視覚が衰えて周囲のものにぶつかりやすくなる。白内障や核硬化症などになりやすくなる。涙目などで目の周りが汚れやすくなる。
口内:歯垢が多い場合は口臭が強くなる。歯周病や舌や歯茎の変色にも注意が必要。
肉球:乾燥が進み弾力性がなくなる。ひび割れしやすくなる。
爪:歩行の変化により爪が削れにくくなる。爪が伸びすぎて肉球に食い込むなどのトラブルが増えるので、頻繁に手入れをする必要がある。
歩行:筋力が衰え、よろけたり、ふらつくようになる。関節などに痛みが出て、脚を上げたり引きずったりすることがある。特に大型犬は顕著で歩けなくなることもある。
老化による身体の変化【猫の場合】 猫は犬と比べて衰えは緩やか。特に五感は衰えにくい。
被毛:毛質の衰えはあるが毛色の変化はない。毛繕いが減り毛玉ができやすくなる。
耳:聴覚が衰えて音や声の反応が鈍くなる。耳垢が増え汚れやすくなる傾向がある。
目:視覚の衰えは犬より緩やか。動作が緩慢になっても動くものへの反応はよい。涙目などで目の周りが汚れやすくなる。
口内:歯石が多い場合は口臭が強くなったり、歯が抜けたりする。歯周病や舌や歯茎の変色にも注意が必要。
肉球:乾燥が進みかさつくようになる。
爪:爪を再生する細胞が変化し、爪が厚く短い形に変化する。
歩行:動作が鈍くなる。筋力が衰え、よろけたり、ふらつくようになる。ジャンプ力も衰えるので、失敗して怪我をしやすくなる。
老化による性格や行動の変化【犬の場合】
1.甘えん坊になる
老化による体力や五感の衰えで、ちょっとしたことで怖がったり、不安に思ったりします。そのため人を頼るようになり、甘えん坊になる傾向があります。愛犬が以前よりも甘えん坊になったと感じたら、それは恐怖や不安を抱えているかもしれません。日々の行動を観察しながら原因を見つけて、愛犬が落ち着ける環境をつくってあげましょう。
2.頑固になる
体の痛みなどが原因で動きたくない、聴覚の衰えで人の指示が聞こえないという場合があります。飼い主は愛犬がわざと無視していると思いがちですが、病気などが原因で反応しないのかもしれません。愛犬が頑固になったと感じたら、身体に問題がないか確認しましょう。
3.無気力になる
視覚や聴覚が衰えると周囲を確認しながら行動するため動作や反応が鈍くなります。特に認知症の初期には無気力さが目立ちます。適度に刺激を与えてあげることは認知症の予防にも役立ちます。老化した愛犬が安全に過ごせる生活環境を整え、興味を持つ工夫をしながらコミュニケーションをとるようにしましょう。
4.攻撃的になる
急に攻撃的になった場合には、どこかに痛みがあったり、脳腫瘍や脳の異常の可能性があります。早めに病院へ連れていきましょう。
老化による性格や行動の変化【猫の場合】
1.甘えん坊になる
老化により疲れやすくなります。体の不調を感じて不安になり、甘えん坊になることがあります。ただ、猫の場合は人と一定の距離をもって過ごすことを好むこともありますので、無理に抱き上げたり、過剰な接触は避け、愛猫の自発的な行動に任せるようにしましょう。
2.頑固になる
瞬発力が衰えて動作が鈍くなり、人の呼びかけへの反応が遅くなります。寝ている時間も長くなります。しかし、痛みなどが原因でうずくまったままになることもあるため、頑固になったと感じることもあります。まずは、体に問題がないか確認しましょう。
3.無気力になる
猫はもともと好奇心が旺盛な動物ですが、老化とともに物事に興味を持たなくなります。おもちゃで遊ぶことも、毛繕いの頻度も減るため、飼い主には無気力に見えるかもしれません。老いを理解して、愛猫に合わせたコミュニケーションをとるようにしましょう。ただ、うずくまってまったく動かない場合には病気の可能性があるので、早めに病院へ連れていきましょう。
4.攻撃的になる
猫は老化により甲状腺機能亢進症を患うことがあります。この病気は食欲旺盛なのに痩せていき、攻撃的になるのが特徴的です。脳腫瘍や脳の異常でも攻撃的になります。また、どこかに痛みがあるかもしれません。穏やかな愛猫が急に攻撃的になったら、これらの病気の可能性があるので、早めに病院へ連れていきましょう。
まとめ
老化が始まった愛犬・愛猫をこれまでと同じように扱うのは、大きなストレスとなります。言葉を話すことができない愛犬・愛猫の老化の兆候を見つけ、その状態にあった対応をしてあげることは飼い主の大切な役目です。また、それはいつも一緒にいる飼い主だからこそできることです。まずは、愛犬・愛猫の現在の状態を把握することから始めてみましょう。
第2回は「シニア期からの飼育環境」についてお伝えする予定です。