愛犬・愛猫が年をとると、老化による脳機能の低下が進みます。その影響で起こるといわれているのが認知症です。正式な名称は「認知機能不全症候群」といいます。犬も猫も認知症になりますが、その症状の表面化は犬のほうが顕著です。なかでも、長生きをする小型犬や中型犬に多く見られます。今回は認知症についてのお話です。
認知症のサインとは?
認知症は発病してしまうと、治すことができない病気です。下記のような症状があれば、認知症かもしれません。しかし、早めに対応することで進行を抑えることはできますので、飼い主の素早い行動が大切です。ただ、愛犬・愛猫の行動の変化は、病気が原因の場合もあります。脳腫瘍などの疾患でも同様の症状が見られますので、動物病院でしっかりと判別してもらいましょう。
▶ 一定の場所をぐるぐる回る
▶ 夜になっても眠らずに夜泣きを続ける
▶ 急に甘えん坊になった
▶ 急に攻撃的になった
▶ トイレを失敗することが増えた
▶ 食欲旺盛になる
認知症による困った行動への対処法
認知症によって今までできていたことができなくなると、飼い主はもちろんですが、愛犬・愛猫も不安を感じるようになります。前述したような認知症の症状には、困った行動が多く飼い主も苦労をすることになりますが、できるだけ明るい気持ちで、優しく接することが大切です。「新しい個性」だと考え、穏やかな気持ちで見守ってあげましょう。
【徘徊する場合】
認知症になると意味もなく動いたり、ぐるぐる回ったり、後ろに下がれなくなったりします。家具などの隙間に入って出られなくなる、壁や柱、家具などにぶつかって怪我をする可能性があるなどの場合には、角のない円形のソフトケージやサークルに入ってもらいます。傍に付いてあげられる時間には、運動不足にならないように広い場所で歩かせてあげましょう。
また、認知症の犬や猫が家の外に出てしまうと、戻れなくなる可能性があります。ドアの開閉時など外へ出てしまわないように、柵を設置するなどの工夫をしておきましょう。
【夜鳴きをする場合】
認知症の症状でもっとも多いのは夜鳴きです。日中は寝ていて、夜になると鳴き続けてしまうことが多く、飼い主は眠れない、近所迷惑になってしまうなど大きな問題となります。そうなれば、何かしらの対策を講じなければなりません。
夜鳴きの対策は、その原因に合わせた対処をすることが大切です。日光浴をさせたり、散歩をさせたり、おもちゃで遊ばせるなど、昼間を中心にした生活サイクルをつくってあげると、夜はぐっすりと眠るようになります。体が痛いようであれば、ベッドを快適に整えてあげます。そのほかの痛み等であれば獣医師に相談しながら、痛みの原因を取り除いてあげます。もし寂しくて鳴いているなら、飼い主の傍で寝かせるなどして安心させてあげましょう。
夜鳴きが酷い場合には、家の窓を二重サッシにリフォームしたり、飼い主が眠れなくて困るようなら、ペット専用の防音ルームを設置して鳴き声を遮断する方法もあります。そのほか、睡眠薬などを動物病院で処方されることがありますが、副作用のおそれもあるため、投薬はあくまでも最終手段として考えたほうがよいでしょう。
【急に甘えん坊になる・攻撃的になる場合】
年を取ると、犬も猫も人間と同じように五感が鈍ってきます。視覚や聴覚の衰えとともに、身体の痛み等に悩まされます。そのうえ、認知症は感情のコントロールが難しく、性格面でもこれまでと違った様子を見せることもあります。不安などから急に甘えてきたり、飼い主を認識できず、身体に触ろうとすると攻撃的になることもあります。
また名前を呼んでも、理解ができずに知らん顔をすることもあり、そうなると飼い主はショックをうけることでしょう。しかし、それは認知症のせいであり、決して飼い主を嫌いになったことが理由の行動ではありません。そのことをしっかりと理解して、愛情を持って接するように心がけましょう。
【トイレの失敗が増えた場合】
犬も猫も人間と同じように、年を取るとトイレの回数が増えます。認知症になるとトイレの場所が分からなくなることがあるので、飼い主がこまめにトイレに連れて行ってあげましょう。それでも、あちこちにしてしまう場合にはオムツを利用することもひとつの方法です。オムツを嫌がる場合には、エリザベスカラーを装着します。さまざまな素材、形状のものがありますので、愛犬・愛猫に合ったものを選択しましょう。
寝たきりの場合にもオムツが役に立ちます。オムツを嫌がる場合には、寝床に身体より大きいペットシーツを敷いてあげます。身体より大きければ動いても安心です。清潔を保つために、粗相をしたときにはすぐに体の汚れをふき取り、ペットシーツも変えるようにしましょう。
【食欲旺盛になった場合】
認知症の場合は、食べたことを忘れていることが多々あります。そのため、何度も食事を欲しがるという行動が見られます。なかには、食欲中枢の機能低下で、つねに空腹だと身体が判断していたり、その逆である場合も考えられます。何度も食べたがるときには、1回の量を減らして調節しましょう。また、食べない、食べているのに痩せるなどの場合は、ほかの病気を発生している可能性もありますので、獣医師に相談してみましょう。
認知症になりやすい犬種・猫種は?
はっきりした理由はわかりませんが、認知症になりやすいのは圧倒的に日本犬が多いといわれています。そのひとつの説として、日本犬の急激な食生活の変化が挙げられています。昔から日本人とともに過ごしてきた日本犬は、食文化の中心であった米や魚を長い間食べてきました。そのため、日本犬は魚から得るたんぱく質をうまく利用するという機能を、長い年月をかけて発達させてきたのです。
しかし、近年は海外からペットフードが輸入されることも多く、その影響で牛肉や鶏肉など肉中心のペットフードが増えています。日本犬が認知症にかかりやすいのは、その変化に要因があるのではないかと考えられています。
また、猫は認知症になりにくいといわれています。しかし、最近は牛肉や鶏肉を原材料にしたキャットフードも増えてきました。この説が正しいとしたら、近い将来、認知症を患う猫も増えるかもしれません。
認知症は予防できないの?
残念ながら、認知症を100%予防することはできません。しかし、日ごろから犬であれば、散歩やアジリティーなどを用いた刺激のある運動をさせてあげること。猫であれば、猫じゃらし等の興味のある物で遊んであげること。また、魚肉や魚油に含まれたEPAやDHAを摂取できるように食事やサプリメントで補完することが大切です。それらを日ごろから心がけておくことは、認知症の予防につながることでしょう。
まとめ
認知症は早めに診察を受ければ、その進行を抑えられることもあります。日ごろから飼い主が愛犬の様子を観察し、早期にその兆候を発見できるように、認知症についての知識を高めておくことが大切です。そうすることで、もし愛犬・愛猫が認知症になっても、心を落ち着かせて対応することができるでしょう。何ごとも準備が大切です。
次回は「介護施設や介護士、シッターを上手に利用する」をお伝えする予定です。