猫の血統を考える

[2015/10/16 12:00 pm | 阪根美果]

血統書とは猫名、猫種、毛色、生年月日、両親、祖先、繁殖者、所有者などの事項が明記されたもので、さまざまな団体によって発行・登録された書類です。その家系の中にはショーでの受賞歴なども記載され、血統書を見ればその猫の素性がひと目でわかります。いわば猫の血筋を証明する戸籍謄本のようなものです。それらの血統書には世界的に認められているものか、日本国内だけで認められているものか、個人が私的に作成しているものか、実は大きな違いがあります。一般的に血統書付きというだけで多くの人が安心して猫を迎えてしまいがちですが、その血統書がどういうものであるかしっかりと内容を把握していなければただの紙切れになってしまいます。「血統書とは?」「その記載内容の意味とは?」きちんと飼い主が確認するべき情報です。純血種を飼う場合は必ず血統書の発行団体を確認し、その団体の目的や使命などを理解しておくとよいでしょう。

アメリカを本拠地とする世界最大の血統登録機関

血統書には世界的に有名なTICA(The International Cat Association)やCFA(The Cat Fanciers Association)の発行する血統書があります。ではそれらの団体の血統書を持った猫とはどんな猫なのでしょうか? TICA Asia Regionのディレクターである大泉本子さんにお話をうかがってみましょう。大泉さんはTICAのブリーダーとして、TICAのキャットショーのジャッジとして、そしてTICA Asia Regionのディレクターとして長年にわたり尽力をされている「猫界」を知り尽くす方です。

TICA Asia Regionディレクターの大泉本子氏

――TICAとはどういう組織なのか?

大泉氏:TICAは1979年に設立された純血種および家庭猫(ハウスホールドペットキャット)の世界最大の血統登録団体であり、そしてキャットショー公認機関としても世界級です。日本でも同じ時期に活動が開始されています。猫のスタンダードの保全管理を徹底し、その血統を後世に伝える正当な血統書を発行することを最大の使命としています。猫のスタンダード=血統書でなければならないと考える世界で最も正確、かつ最も網羅的な血統登録団体と言えますね。日本にはそのTICAに所属するキャットクラブが現在15団体あります。各クラブが国内登録猫の血統を管理し、繁殖された猫の血統書を発行しています。

――猫のスタンダードの保全管理とは?

大泉氏:TICAに公認された純血種にはすべてスタンダードというものが定められています。これは、その猫種がどういう外見をしているべき猫なのかと詳細に決めているものです。猫のスタンダードとは、その猫を愛する人たちにどのような外見が魅力的に映るかに重点が置かれており、ここが使役目的ごとに交配が進められた犬と大きく違う点です。よってスタンダードに近い猫ほど誰が見ても魅力的で、一度は飼ってみたいと思える猫なわけです。TICAでいう「血統優秀」とは高級猫ということではなく、スタンダードに近い猫が代々続いているということを意味します。つまりTICAの血統書を持つ猫はスタンダードに近い猫であり、その家系もみなそういう資質を持つ猫であるということ。「スタンダード=血統書」と、両方が同じ位置にあると考えているわけです。その保全管理はTICAの公認されたキャットショーに託されています。TICAに所属するキャットクラブは地域ごとにキャットショーを開催しています。日本では年間30回程度になります。登録キャッテリーのブリーダーは猫をショーに出陳することにより、TICAのジャッジの厳選なる審査を受け、よりスタンダードに近い猫を産出するために努力を続けているのです。

TICAの公認するキャットショーの意義

TICAの公認するキャットショーではショールールに基づいた、純血種ごとに定められたスタンダードの審査基準によって評価され順位がつけられています。キャットショーの開催にはブリーダーの産出する猫のスタンダードの向上のほかにも、いくつかの役割が含まれています。

資格を持つジャッジが猫種のスタンダードに沿って評価していく

――キャットショーの役割とは?

大泉氏:キャットショーには純血種の審査の他にハウスホールドペット部門の審査があります。これはTICAに登録のないドメスティックな猫(家庭でペットとして飼われている猫など)の部門で特に定められたスタンダードの基準はなく、単に美しさや愛らしさ、その日のコンディションなどによって順位が決められます。普段は自由気ままに生活している猫たちが集まり、いろいろな表情を見せながらショーに参加しています。おおいに楽しむことができる部門です。気軽に参加することができ、飼い主同士が猫談義に花を咲かせています。ショー参加の後も情報を交換しているそうです。また、開催するすべてのキャットショーは一般の方も入場し見学することができます。
会場入口で受付をするとそのショーのパンフレットがもらえます(ショーは一部有料)。ショーのスケジュールや出陳者一覧、審査の手順、出陳猫の情報、キャットショーやセミナーのスケジュールなどが記載された情報満載のパンフレットです。そこにはショーを見学するときのルールやマナーも記載されています。それを片手に会場を回ると、洗練されたたくさんのショーキャットを見ることができるのです。ペットショップなどでは見ることができない貴重な猫を見ることもできるでしょう。気にいった猫がいたら、そのブリーダーとその場で子猫を譲り受ける交渉をすることも可能です。特に純血種の子猫を探している方には見どころ、聞きどころがあふれている会場となっています。そのほか、プロの写真家による撮影会や猫用品やおもちゃなどのお店も出店されています。TICAの使命のひとつとして「TICAが公認するキャットショーはプロフェッショナルな方法で純血種および非純血種の猫を推奨し、ショーが出陳者、ジャッジそして一般の方にも楽しくかつ教養を得られるものとする」とあります。TICAのショーに参加・来場することで楽しみながら猫に関する知識を高めていただきたいです。ですから、みなさんぜひキャットショーに来てください。

ショー参加者に贈られるカップやリボン
手作りのグッズなども販売されている

純血種の販売形態を考える

2006年6月「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」の一部が改正されました。猫を購入する場合は、ペットショップやブリーダー、ネット通販などの販売元が動物取扱業の登録を行っていて、必ず動物取扱責任者が配置されているかを確認しましょう。また清潔な施設で飼育されていること。正しい知識を持ち、販売する子猫に対してきちんと説明ができること。そしてそれが明記されていること。販売・販売のための引き渡し・展示は生後56日以降であること。健康状態に問題がないことなど。これらを適正に遵守している業者であるかが重要なポイントとなります。

――日本の販売形態をどう考えますか?

大泉氏:日本で最も多い販売方法はペットショップです。欧米では日本のペットショップのような長時間におよぶ展示販売を批判的に見ていますが、法律の改正により少しずつですが改善されてきているように思います。情報社会になり一般の方もインターネットで調べることにより多くの情報を入手できることで知識も向上しました。そのため売り手であるペットショップも、いろいろな面で向上する必要が出てきたからです。しかしながら、まだまだ問題点も多いのが現状です。TICA Asia Regionのディレクターとしては、純血種を購入するなら、その猫種を専門に繁殖しているブリーダーからの購入をオススメします。きちんとしたブリーダーであればその猫種の知識が豊富で、両親猫やその子猫の詳しい情報を教えてもらえます。また購入後はフードやトイレのこと、日ごろのお手入れなどもアドバイスしてもらえるので、安心して飼うことができるでしょう。よいブリーダーに出会うにはキャットショーに出向くといいですね。お話をすることで、ご自身がお付き合いしていけそうな方か確認ができると思います。猫を飼ううえでいろいろなアドバイスをしてくれるような「頼れるブリーダー」を選ぶことが大切です。

――生後56日以降の販売に関してどう考えますか?

大泉氏:法律が改正されてずいぶんよくなったと思っています。改正前は、生後30日くらいの歩くのもおぼつかないような子が、親や兄弟姉妹から離されてペットショップに展示販売されていましたからね。生後56日頃はちょうど1回目のワクチン接種の時期にあたります。母親からの抗体が切れる時期で、このころにワクチン接種をして免疫をつけます。販売は法律上可能にはなりますが、この1回目のワクチン接種で免疫が付かない子もいるので、できれば2回目のワクチン接種後の、体調の良いときに販売されるのが理想です。ただ先天的な内臓や骨格の異常などは、生後4カ月あたりから出てくることが多いのです。ですから、生後4カ月を過ぎている健康な子をお選びくださいといいたいところですが、このころはコロコロとしたかわいらしい子猫から縦に成長をする子猫の変貌期にあたるので……。実際にこれを広めていくのは難しいのかなと思いますが、私はぜひとも推奨したいですね。

ペットとの共生について

現代社会の変化、いわゆる高齢化、少子化、核家族化等により人々の生活は大きく変わりました。その中におけるストレスの増大は、社会において大きな問題となっています。ペットと共に生きる暮らしは、人々の心と体にすぐれた効果と効用があると科学的にも実証され、多くの業界から注目をされているのです。ペットのもつかわいらしさや愛らしさが「癒し効果」をもたらし、人々の心身の健康によい影響を与えるのです。

――ペットと一緒に暮らすための準備として大切なことは?

大泉氏:社会の変化は、人間だけでなくペットにも大きな変化をもたらしました。生活環境は屋外から屋内へ移りつつあり、良質なフードや最新の医療等でペットたちは守られるようになりました。猫の平均寿命はおよそ15年。長生きの子は20年にもなります。この長い時間をともに過ごすのですから安易な気持ちや、衝動買いでペットを飼うのはお互いにとって幸せではありません。日々のフード代や病院代は必ずかかる費用ですから、生活にある程度の余裕がなければ飼うことは難しいのです。まずは責任を持ってペットと共に生きていく、しっかりとした「気持ちの準備」が必要です。

――ぺットショップやブリーダーなどの売り手の役割とは?

大泉氏:すでに述べたようにTICAに所属するブリーダーには血統を守り、スタンダードにより近い猫を産出する役割を担っていますが、子猫を販売する前に飼い主の「気持ちの準備」を確認する役割も担っています。「猫譲渡契約書」や「重要事項説明書」をはじめ、子猫の性格や行動だけでなく両親猫の性格など細かな部分まで説明します。そして飼い主の「気持ちの準備」を確認し、納得していただいたうえで子猫をお譲りしています。譲渡後も何かあれば、飼い主のよきアドバイザーとして活動しているのです。この「気持ちの準備」ができているかどうか、また困ったときにアドバイスをしてくれる人がいるかどうかで、ペットを虐待したり、捨ててしまうという確率が低下すると考えます。近年社会問題にもなっている、ペットの殺処分を減らすことにもつながります。最近はペットショップでも「気持ちの準備」を確認し、ありがちな衝動買いを防止するなどの動きを見せているところもありますが、交配・出産から携わるブリーダーとの知識の差があり、十分に経験を積んだ知識の豊富なショップスタッフでないと対応が難しいのが現状です。販売時の「気持ちの準備」の確認や、その後の飼い主のケアの方法をどう構築するかが今後の課題だと思います。なによりも売り手はそのペットの生涯にわたる幸せに責任を持ち、よい飼い主に託す必要があります。同時に飼い主は生涯にわたり、アドバイスをしてくれるよい売り手であるかどうかを見極めることが大切ですね。

――ぺットとの共生で今後に期待することは?

大泉氏:TICAに所属するブリーダーは、猫を知り尽くしたプロ集団です。今後は獣医師と協力しながらさらに知識を向上し、より健康的な魅力あふれる猫を産出していきたいです。いずれは獣医師がブリーダーを紹介してくれるような仕組みが構築されるとよいですね。飼い主様もより安心して猫と共生していけますから。

[阪根美果]