ペットと共生する幸せ Vol.1

[2015/05/18 12:00 am | 辻村多佳志]

ペットと暮らす毎日、心の底から癒されて本当に幸せですよね。やる気と元気が湧いてきます。何らかの事情があっていまはペットが飼えない人も、将来絶対にペットと暮らすんだ、と幸せな毎日を夢見ていらっしゃるのではないでしょうか。

じつは、ペットとの暮らしにはただ単にかわいい、癒されるというだけでない、もっともっと大きなメリットがあるのです。それは「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」全般の向上 と、経済社会活動の活性化です。実際にどのようなメリットがあるのかについて、一般社団法人ペットフード協会会長の越村義雄さんにお話をうかがってきました。

取材前は、単なるペットフード関連企業の集まりなのかな、とイメージしていたのですが、違いました。ペットをとりまくあらゆる環境や社会、健康を見据え、幸せな暮らしとより素晴らしい人生を実現すべく、さまざまな尽力をされているそうです。

一般社団法人ペットフード協会会長 ペットフード公正取引協議会会長 越村義雄さん

ペットと一緒だと健康で長生きできる!

「犬と一緒に散歩に出かけている女性は、犬を飼っていない女性に比べ、健康寿命が2.8歳も延びるんですよ」

のっけから驚くべき事実が判明!

犬を飼っていて一緒に散歩に出かける人と、犬を飼っていない人を比べたところ、男性では0.44歳、女性ではなんと2.8歳も健康寿命が延びることがわかったのだそうです。

犬と一緒に散歩するのは、人間にもメリットがあるのです

介護を必要とせず、何歳まで自立した状態でいられるか、が健康寿命です。厚生労働省が2012年に発表したデータによると、日本人の健康寿命は男性が70.42歳、女性が73.62歳。要介護の状態で長生きするのと、元気に歩き回れる状態で長生きするのでは、同じ毎日でも生き甲斐や張り合いが大きく変わってきますよね。2.8歳も長く健康でいられるというのは、とてつもなく素晴らしいことではないでしょうか。

「日本の人口は7年連続マイナスを続けています。現在の65歳以上の高齢者の割合は26%です。今後は30%、40%と増えていくことは確実な情勢です。これに伴い、ひとり暮らしの高齢者も年々増えており、男性は12%、女性では21%。高齢者が誰にも看取られず亡くなり、しばらく経って発見されるという事件も起こっています。政府も、健康寿命を延ばすために毎日の継続した運動を推奨していますが、運動は楽しくなければ続かないものです。しかし、犬が一緒なら毎日楽しく散歩ができ、運動が習慣になって長く続けられます」

アメリカでは、犬との散歩は健康推進に効果的あると推奨され、『ペットとの暮らしがもたらす様々な健康の効用』について国の期間で科学的に研究されているそうです
※参考資料:笑顔あふれる、ペットとの幸せな暮らし。(発行元:ペットとの共生推進協議会)出展・参考文献 アンダーソンら(Anderson,W.P.,et al.,1992)

高齢になると、どうしても家の中に引きこもりがちになるものですが、犬と散歩に出かければご近所とのコミュニケーションが生まれます。犬好きの人と出会い、会話を楽しむ機会も増えることでしょう。どこに誰が住んでいるのか、体調や持病はどうなのか、などがほかの人に伝わっていれば、孤独死などの悲劇を防ぐことにもつながります。

ペットと一緒だと病院にかかる回数が減る!

「ペットとの暮らしは健康の維持にさまざまな効果があります。毎日に生きがいが生まれ、認知症の予防や血圧の安定にもつながりますし、観賞魚を眺めているだけで、痩せてきたお年寄りの食欲が増進し、体重が増えたという報告もあります。さらに、心臓疾患を罹った人の1年後の生存率では、ペットを飼っている人の生存率が94.3%であるのに対し、ペットを飼っていない人は71.8%に止まるという調査結果も報告されています。高齢者が年間何回病院にかかるかの調査でも、ペットのいない人が10.4回なのに対し、ペットのいる人は8.6回に止まっています。ペットとの暮らしは、高齢者のQOL向上に大きく貢献しているのです」

「日頃ストレスを感じている人」の通院回数が、犬を飼っている人のほうが少ない研究結果が出ています。毎年増加している国民医療費全体の抑制にもつながる重要なペット飼育の効用といわれています
※参考資料:笑顔あふれる、ペットとの幸せな暮らし。(発行元:ペットとの共生推進協議会)出展・参考文献:シーゲル(Siegel,M.,Anderson,W.P.,1990)

ペットとの共生でQOLを高めていく取り組みは、徐々に広がりを魅せています。その一例が、アメリカで生まれた「タイガープレイス」です。

「タイガープレイスは、ペットと一緒に暮らせる高齢者用住宅・特養ホームです。入居者はペットとともに充実した老後を過ごせますし、どちらかが先に亡くなってしまっても、遺された相手は最後まで面倒を見てもらうことができるので、安心して老後が送れます。また、東京都稲城市のよみうりランド慶友病院のように、ペットの面会が可能な医療施設もあります。ペットが家族と一員として認められる社会になってきているのです。私たちは、日本でもこういった施設をどんどん作っていく必要があると考え、さまざまな活動を行っています」

自分の健康を自分で管理し、病院を受診するためにかかる出費や時間を抑えようという「セルフメディケーション」の推進にも、ペットとの共生が確かな効果を見せると、経済産業省から発表されています。もちろんこれは、増え続ける医療費の削減にもつながります。データはやや古いのですが、ペットとの共生を推奨することで、ドイツでは年間7500億円、オーストラリアでは年間3000億円も医療費削減効果があったのだそうです。

高齢化社会が進む日本では、ペットと暮らす意義がさらに大きくなっていくことは間違いなさそうです。でも、高齢者以外にはあまり効果がないの? いえ、そんなことはありません。小さなお子さんから大人まで、社会全体がペットとの暮らしでよりよいものになっていきます。次回は、子どもたちの健康と未来にもペットとの共生が大きく役立つというお話をうかがっていきます。

[辻村多佳志]