人とペットのシアワセ生活(前編)
犬や猫がこんなにかわいいのはなぜ?
うちの子は世界一かわいい! ペットを飼っているみなさんは、日々こんな幸福感に包まれ暮らしていることでしょう。また、たとえ家庭の事情などで動物を飼えないとしても、動物が好きな方なら、犬や猫を見ればかわいいと感じる人も多いのでは。でも、犬や猫はなぜこんなにかわいく感じるのでしょうか。その理由を東京農業大学の太田先生にうかがってみました。
「犬や猫は、人と暮らしてきた歴史が非常に長いのです。犬と人は1万5000年くらいともに暮らしてきたと言われていますが、ある日突然、オオカミが犬になるわけはありませんから、犬になる前のことを考えれば、数万年にわたって人の身近に居続けてきたはずです。猫の歴史はもう少し新しいのですが、それでも1万年くらい前から人とともに暮らしています」
とはいえ、ヤギやヒツジは9000年、牛は8000年、馬は6000年も人とともに暮らしてきた歴史がありますから、十分に身近な存在です。なのになぜ、犬や猫だけがこれほどまで人に近く、癒される存在なのでしょうか。
「ヤギやヒツジ、牛、馬などは、ペットではなく畜産動物だからです。もともとは乳を利用するため、食肉のために飼育され始めた動物ですから、飼育目的のなかにペットという要素はありませんでした。それに対して犬や猫は、人と役割を分担し協力することで暮らしてきました。たとえば猫は、もともと穀物をネズミの害から守るために飼われ始めた動物。中世ヨーロッパで人口の3割、数千万人が亡くなった伝染病“ペスト”もネズミの菌が人に感染する病気で、そのネズミを退治してくれる猫がいたから人類が破滅しなくてすんだという話もあるほど、私たちに貢献してくれています。こういった歴史もあって、人間には、犬や猫を家畜ではなく“仲間”ととらえる遺伝子が刻まれているのだと思います」
犬や猫などのペットを、単なる動物ではなく大切な家族だ、と考える人が多いことからも、この“仲間”という感覚はよくわかります。また、犬や猫のほうも、人間を仲間、さらには自分の親のような存在だと考えているようです。
「犬や猫は、人が世話をしないと生きていけない動物ですから、人との心のつながりをとても大切にします。たとえば犬は、あらゆる動物のなかでもっとも人に忠実で、『座れ』と言えば座り、『待て』と言えばいつまでも待っています。気まぐれに見える猫にしても、ニャーニャーと鳴く猫科の動物は家猫だけ。ネズミを獲っていればよかった時代が終わり仕事がなくなってしまった猫は、捨てられては困るので、ニャーと鳴いて人にかわいがってもらうという生き残り戦略を採りました。あの鳴き声は猫の努力のたまものと言えます。その点、犬は猫ほど努力していないですね」
犬より猫のほうが努力家だったとはビックリです。また、犬や猫と人はまったく違う種族だという点も、仲間意識や絆が深まる理由なのだそうです。
「犬や猫と人とは、共通した部分とまったく異なる部分があるからこそ、惹きつけ合うのだと言えます。自分にない物を持っているからこそかけがえのない仲間になれる。だから犬や猫はかわいいのです」
犬や猫ともっと幸せに暮らしていくための方法は?
そんなかわいい犬や猫と、いままで以上に幸せに暮らしていくためには、どうしたらいいのでしょうか。太田先生によると、「トレーニング」がもっとも大切になるのだそうです。
「ただ単にかわいがるのではなく、トレーニング、しつけを通じて互いに積極的に関わってこそ、人と動物の距離が縮まり、よりよい関係が生まれます。実力のあるトレーナーさんについてもらって勉強するのが最良の手段かもしれませんが、そうでなくても、動物を飼う際には、飼い主の一人ひとりが犬や猫の行動学に興味を持ち、知識を身につけながらトレーニングをしていくべきです」
なんだかハードルが高そうな話になってきましたが、じつは、トレーニングはそれほど難しいものではないそうです。コツは“絶対に怒らず、基本を繰り返し教える”こと。毎日の生活のなかで、誰でも楽しくカンタンにできるのだとか。
「犬の場合、『座れ』『待て』『伏せ』の3つが、トレーニングの基本中の基本です。基本をしっかり身につけないうちにほかのことを教えても、うまく行くはずがありませんし、嫌がる犬や猫に無理矢理トレーニングをさせても意味がありません。自発的に行った行動を褒めるのが最大のコツ。犬や猫は頭がいいですから、毎日楽しく遊びながら基本トレーニングをすれば、1週間もしないうちに覚えてくれます。きちんとしたトレーニングをしないまま成長してしまった犬や猫でも、正しいトレーニングをすれば、必ずできるようになります」
猫は犬のようなしつけができない、という人もいますが、これはまったくの思い込み。猫でも「お手」「座れ」くらいはすぐ覚えます。覚えないのはトレーニングのやり方が悪いからです。
「うまくできたら心の底から褒めて喜んであげれば、トレーニングは必ず成功しますし、人と動物の距離がぐっと縮まります。日本人は感情を大げさに表わさないことが多いのですが、相手は犬や猫ですから恥ずかしがる必要はありません。とにかく大げさに、全力で褒めましょう。犬や猫は、人の言葉の意味は理解できないかもしれません。しかし人の感情は本当に敏感に感じとります。口先だけで褒めてもたちまち見破られるので、心の底から褒めないとトレーニングの効果は得られません」
褒めるタイミング、指示を出すタイミングも重要です。さっきはお利口さんだったね~、などと褒めても、犬や猫には伝わりません。目安は「3秒以内」。犬や猫と真剣に向き合い、心をひとつにしてトレーニングをしているなら、うまくできた瞬間に褒められるはずです。では、うまくできなかった場合にはどうすればいいのでしょうか。
「うまくできないのは当たり前なので、うまくできるまで根気よく続ければいいのです。絶対に怒ってはいけません。怒られるということは、危害を加えられることにつながるので、犬や猫は当然逃げます。人の都合だけで無理にやらせても何の意味もありません。また、犬と猫ではトレーニングの仕方も変わってきます。犬はこちらから近づいていっても喜んでトレーニングに参加してくれますが、猫は向こうから寄ってきたときだけトレーニングをしましょう」
犬や猫がイタズラをしたときには、つい怒ってしまうものですが、こういう場面でも怒ってはいけません。叩くなどは言語道断で、犬や猫は人の手を危険な存在だと見なすようになってしまいます。これでは心の絆など生まれるはずがありません。
「怒らずに無視してください。犬や猫に自分で考えさせるのです。たとえば、散歩中に、ほかの犬に吠えかかっていく犬がいますが、それを怒鳴りつけたりすると、犬はますます興奮するだけです。基本トレーニングがきちんとできていれば、『座れ!』とひと言命令するだけで問題は起こらなくなります。犬や猫が悪いことをするのは、犬や猫が悪いからではなく、飼い主の責任だと自覚すべきですね」
うちの子は言うことを聞かなくて、頭が悪くて、などと愚痴をこぼすのは、自分が飼い主としてきちんとしつけができていないと自己紹介しているのと同じです。ペットとの心の交流を大切にしながら、自分もペットとともに成長できるよう、つねに心がけていきましょう。次回は、ペットとのスキンシップから生まれる「幸せホルモン」のお話など、動物とともに暮らす幸せについて、引き続き太田先生にお話をうかがっていきます。
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