猫が舐め合うのは仲良しの証? 最新研究が明かすアログルーミングの真意
2匹の猫が寄り添い、顔まわりや首元を丁寧に舐め合っている。そんな姿を見ると、「仲良くしていてよかった」とほっとする飼い主は多いでしょう。猫同士の舐め合いは、写真や動画でも親しさを感じさせる場面として目に留まりやすい行動です。
ただ、猫の関係は、その瞬間だけを見て判断できるほど単純ではありません。舐め合ったあとに並んで眠ることもあれば、一方がその場を離れたがる、食事やトイレの近くでは落ち着かない、といった様子が見られることもあります。
猫同士の舐め合いをどう受け止めればよいのでしょうか。今回は、近年の観察研究と獣医行動学の考え方を手がかりに、猫たちの距離感を見る視点を考えます。

最新研究が明かした3つの文脈
舐め合いは「仲良し」の行動とは限らない
猫が自分の体を舐めて整える行動は、セルフグルーミングと呼ばれます。一方、猫同士で相手の体を舐める行動は「アログルーミング」です。耳の後ろや頭、首まわりなど、自分では手入れしにくい場所に見られることもあります。
アログルーミングは、長く「親和的な関係を示す行動」として語られてきました。しかし、2026年の研究は、その見方を少し補足してくれます。
この研究では、家庭で暮らす53の2頭飼育家庭から提供された動画を分析し、猫同士が舐め合う最中だけでなく、前後に見られる姿勢や行動も調べました。これは観察研究であり、行動の原因を特定する実験ではありません。以下の解説も「こうした可能性が示された」という視点で読んでください。
絆を深める文脈
猫同士が寄り添って休む、体の向きをそろえるといった場面で始まる舐め合いには、社会的な絆を強める機能があると考えられています。研究では、猫用ベッドで寄り添うなど身体接触を求める行動のあとにアログルーミングが続いたケースが全体の41%を占めていました。
舐める部位は頭や耳に集中しやすく、耳の周辺には匂いの腺があるため、猫にとって触れられると心地よい部分でもあります。飼い主が耳のあたりを撫でると気持ちよさそうに目を細める猫が多いのは、このためかもしれません。
遊びを誘う文脈
舐め合いが遊びの開始合図になることも観察されました。前脚で相手を抱え込み、後ろ脚で蹴り合う「レスリング」のような遊びにつながる場面では、舐める部位が首のあたりに集中する傾向がありました。
首は猫同士が遊びの中で噛み合う部位と重なるため、「そろそろ遊ぼうよ」という合図として機能しているのかもしれません。舐め合いのあとにじゃれ合いが始まったなら、それは基本的にポジティブな関係の表れと受け取ってよさそうです。
緊張を和らげる、あるいは境界を示す文脈
一方で、舐め合いの直後に耳を後ろに倒す、前脚で叩く、噛みつくといった行動が見られるケースもありました。こうした場面では、片方がもう片方に覆いかぶさるように立っていたり、見下ろすような姿勢をとっていたりと、2匹の姿勢がそろっていないことが多かったようです。
舐められている側の猫が頭を振る、耳の後ろを掻く、あくびをする、唇を舐めるといった微細な行動も観察されており、研究チームはこれらを緊張のサインと位置づけています。
研究チームは、こうした場面でのアログルーミングが衝突を回避するための「宥め行動」として機能している可能性を指摘しています。
「舐めたから仲良し」「舐めたあとに離れたから不仲」と、ひとつの動作に答えを求めないこと。科学的にわかり始めたことと、まだ謎のままのことの境界を意識しておくことが、猫の行動を観察するうえでの出発点になります。
では、日々の暮らしの中で何を観察すればよいのでしょうか。
関係を見る手がかり
舐め合いの前後をセットで観察する
猫同士の関係を知りたいとき、特別な観察表を作る必要はありません。いつもの暮らしのなかで、舐め合いの「前」と「後」に少しだけ意識を向けるだけでも、猫たちそれぞれの過ごしやすさが見えてくることがあります。
大切なのは、良い・悪いをすぐに判定することではありません。猫たちの行動に、普段と違う変化や、一方に偏った我慢がないかを確かめることです。
近づき方と、終わったあとの距離を見る
たとえば、どちらの猫も自分から近づき、体をゆるめた姿勢で過ごしている。舐め合いが終わったあとも近くで眠る、同じ場所でくつろぐ、あるいはそれぞれが穏やかに別の場所へ移動する。このような流れなら、その時間は緊張の少ないやり取りの一つだったと受け止められるかもしれません。
一方で、片方が何度も離れようとするのにもう一方が追う、体を低くして動きにくそうにする、耳を後ろに向ける、直後ににらみ合いや追いかけが続く、といった様子が重なる場合は、舐め合いだけを根拠に「仲良し」と決めつけないほうがよさそうです。
ただし、追いかけ合いや軽い猫パンチがあったからといって、直ちに関係が悪いとも限りません。遊びのなかで見られることもありますし、物音に驚いた、家の中に来客があったなど、そのときだけの事情もあります。
一度の出来事ではなく、同じ猫がいつも逃げる側になっていないか、同じ時間帯や場所で緊張が起きていないかといった、続き方を見るほうが判断の助けになります。
食事・トイレ・寝場所で「選べているか」を見る
猫同士の距離感は、寄り添っている場面だけに表れるものではありません。むしろ、食事、水、トイレ、寝床、爪とぎ、高い場所、隠れ場所といった日常の資源を、どちらの猫も自然に使えているかに表れやすいものです。
たとえば、片方が相手の視線を気にして食事を急ぐ、トイレの前で引き返す、いつも同じ猫だけが高い場所を使うといった変化は、家庭内の緊張に気づく手がかりになります。はっきりした喧嘩がなくても、こうした小さな遠慮が続く場合があります。
米国猫獣医師協会(AAFP)のガイドラインでも、猫同士の緊張は、激しい争いだけでなく、凝視、回避、通行の妨害といった気づきにくい形で現れることがあるとされています。
もちろん、こうした様子が一度見られたからといって、問題があるとは限りません。けれど、食欲が落ちた、排泄の様子が変わった、隠れて出てこない、けがを伴う争いが起きるなど、生活や健康に影響する変化が続くときは、獣医師に相談しましょう。必要に応じて、猫の行動に詳しい専門家につなげてもらう方法もあります。
観察を続けるなかで、気になる場面が多いと感じたら、次に目を向けたいのは猫たちの生活環境です。
多頭飼育の環境
仲良くさせるより、離れられる場所をつくる
多頭飼いでは、「2匹がいつも一緒に寝ている」「舐め合っている」「遊んでいる」ことが、仲の良さの基準になりがちです。でも、すべての猫が密着して過ごすことを心地よいと感じるわけではありません。
同じ家で暮らしながら、必要なときには近づき、休みたいときにはそれぞれの場所で過ごせる。そのような距離感も、落ち着いた関係の一つです。猫たちを仲良くさせようと急ぐより、猫自身が距離を選べる環境を用意するほうが、結果として暮らしやすさにつながります。
まず見直したいのは、生活資源が一カ所に集まりすぎていないかです。食事や水飲み場、トイレ、寝床、爪とぎ、隠れ場所などを複数用意し、家の中に分けて配置します。どちらかの猫が使っているから、もう一方が近づけないという状況を減らすためです。
高い場所へ上がれる家具やキャットタワー、視線を避けて休めるベッドや箱なども役立ちます。猫が相手を避けたいとき、逃げ込む場所だけでなく、相手と鉢合わせしにくい通り道があることも安心材料になります。行き止まりになりやすい場所や、食事場所の近くで一方が待ち伏せしやすい配置になっていないかも確認してみましょう。
新しい猫を迎えた直後はもちろん、引っ越し、家具の配置替え、家族の生活時間の変化などがあったときも、猫同士の過ごし方は変わりやすい時期です。以前は問題なく共有できていた場所でも、少し居心地が変わることがあります。
環境を見直したら、再び舐め合いの前後を観察してみてください。休息場所や移動ルートの選択肢が増えたことで、ストレスサインが減るケースもあります。変化には数日から数週間かかることもあるため、焦らず見守る姿勢が助けになります。
一方で、環境を調整しても、舐め合いの後に攻撃行動が続く、一方の猫が過剰に自分の毛を舐め続ける、食欲が落ちている、隠れている時間が目に見えて増えたといった行動が2週間以上にわたって続くようであれば、獣医師や獣医行動学の専門家に相談することを検討してもよいかもしれません。
多頭飼育の慢性的なストレスは、猫の心身にさまざまな影響を及ぼすことが知られており、早めに専門家の助言を取り入れることで、関係の悪化を防げる場合もあります。
舐め合う姿を見かけたときも、飼い主が近づけたり、同じ場所にとどまらせたりする必要はありません。写真を撮りたい気持ちを少し抑えて、猫たちが自分で近づき、自分で離れられるようにしておく。その余白が、猫同士の関係を見守るうえで大切です。
猫同士の相性の見分け方について詳しく知りたい方は、あわせてご覧ください。
まとめ
猫たちが選べる距離から関係を見守ろう
猫同士の舐め合いは、絆を深めるときにも、遊びに誘うときにも、緊張を和らげようとするときにも現れる、多面的な行動です。「舐め合っているから仲良し」とも「舐め合わないから仲が悪い」とも、単純には言い切れません。
飼い主にできるのは理想の仲良し像を求めることではなく、猫たちが近づくことも離れることも選べる環境を整え、その変化を見守ることです。すべてを理解しきれなくても、猫の行動を注意深く見つめる時間そのものが、一緒に暮らす日々を少し豊かにしてくれるのではないでしょうか。


