スコティッシュフォールド禁止? EUとオランダの規制を解説

スコティッシュフォールドの特徴的な折れ耳は、愛らしさの象徴として多くの人を魅了してきました。一方で、その特徴を生み出す遺伝的な仕組みと健康への影響をめぐっては、長く議論が続いています。

近年、欧州では犬や猫の繁殖をめぐる規制が強まり、なかでもスコティッシュフォールドは、その身体的特徴との関係から注目されています。

なぜ、ペットの「見た目」が動物福祉や法律の対象になるのでしょうか。

今回は、EUとオランダの規制が何を意味するのか、折れ耳と健康について研究から何が分かっているのかを整理します。そして、犬や猫を迎えるとき、私たちは「可愛い」の先に何を考えるべきなのかを探ります。

EUで何が成立したのか
犬猫の繁殖に初めて共通ルールが生まれた

これまでEUでは、犬や猫の繁殖や飼育、販売などに関するルールが加盟国ごとに異なっていました。そこで2026年、EU全体で犬猫の福祉を守るための共通ルールが成立しました。

ポイントは、特定の犬種や猫種を一律に禁止する法律ではないことです。

今回の規則では、犬猫の健康や福祉を損なうような繁殖を避けることが、EU共通のルールとして定められました。たとえば、健康上の問題につながる遺伝的特徴を持つ個体を繁殖に使うことや、動物に負担をかける「過度な体型的特徴」を生じさせる繁殖が規制の対象になります。近親交配についても制限が設けられました。

つまり、これまで国によって対応に差があった「人間が好む外見を優先した繁殖を、動物の健康や福祉の観点からどう考えるか」という問題について、EUとして共通の基準を設けたわけです。

ただし、この規則がすぐにすべての繁殖現場を変えるわけではありません。規制は段階的に適用され、具体的にどのような体型や遺伝的特徴が対象になるのかについても、今後さらに細かなルールが定められます。

また、EUの共通ルールは「最低基準」です。加盟国には、これより厳しい国内規制を設けることも認められています。

ここが、今回の「スコティッシュフォールド禁止」を理解するうえで重要なポイントです。

EUがスコティッシュフォールドという品種そのものを禁止したわけではありません。EUが定めたのは、犬猫の健康や福祉を損なう可能性のある繁殖を避けるための共通ルールです。

そして、EUの基準よりさらに踏み込んで、特定の身体的特徴を持つ猫の保有まで規制しているのがオランダです。

オランダでは
EUとは別に定められた「保有禁止」

一方、オランダが導入した規制は、EUの規則とは別に、オランダ政府が独自に定めた国内法です。オランダ政府の発表によると、2026年1月1日から、折れ耳猫(スコティッシュフォールドなど)と無毛猫(スフィンクスなど)を新たに飼育すること自体が禁止されました。これらの猫を繁殖させることは、この保有禁止に先立って既に禁止されていましたが、今回新たに「飼うこと」そのものを制限する仕組みが加わったことになります。

すでに飼育されている個体については、経過措置が設けられています。2026年1月1日より前に生まれ、その事実がマイクロチップによって証明できる猫であれば、そのまま飼い続けることが認められます。逆に、同日以降に生まれた個体やマイクロチップによる証明ができない個体は保有禁止の対象となり、違反した場合には最大1,500ユーロの行政罰金が科される可能性があります。また、経過措置の対象となる猫であっても、キャットショーなどへの出場は認められません。

この保有禁止は、あくまでオランダという一つの加盟国が独自の判断で定めた措置であり、EU全体に適用されるものではありません。EUの規則が繁殖事業者に向けた「繁殖のルール」であるのに対し、オランダの規制は個人の飼育行為そのものに踏み込んだ、より強い措置だと言えます。

研究が示すもの
折れ耳が抱えるリスクをどう理解するか

スコティッシュフォールドの折れ耳は、TRPV4という遺伝子の変異によって、軟骨の形成に影響が生じることで起こるとされています。この変異があると、耳の軟骨だけでなく、四肢や尾の関節周辺の軟骨にも変化が生じることがあり、これは骨軟骨異形成症と呼ばれる状態につながる可能性があります。

ただし、変異を持つ個体が全て重い症状を示すわけではない、という点は誤解されやすい部分です。過去の研究では、TRPV4の変異を持つ猫を対象にレントゲン検査を行ったところ、骨や関節に見られる変化の程度には個体差があり、症状が比較的軽いケースも確認されています。つまり、同じ変異を持っていても、実際にどの程度の影響が出るかは一頭ごとに異なるということです。

実際の発症率についても、慎重に数字を読む必要があります。2023年の研究では、骨軟骨異形成症と臨床的に診断された猫の割合は1.1%、疑いのある症例まで含めると5.7%という数字が示されています。ただし、これは動物病院を受診した記録のみをもとにしたという点は考慮すべきです。

このように、折れ耳という外見的な特徴の背景には、遺伝子レベルでの明確な仕組みがある一方で、実際にどの程度の健康上の影響が出るかには個体差があり、現時点でのデータにも限界があるというのが、科学的に見た現在地です。

猫の遺伝子異常は折れ耳のほかにも、多指症や色素異常などさまざまな形で現れますが、そのいずれも「異常だから即座に問題」と単純に捉えるものではなく、それぞれの仕組みと影響の程度を分けて理解することが大切です。気になる様子があるときは、自己判断せずに獣医師に相談することが基本になります。

「可愛い」の先に
見た目と健康はなぜ衝突するのか

ここで問題を「純血種だから不健康」という話にしてしまうと、本質を見失います。純血種と雑種のどちらが一律に健康ということではありません。健康上のリスクは、品種だけでなく、特定の形態、遺伝的背景、繁殖方法、飼育環境など、さまざまな要因によって変わります。

考えたいのは、人間が好む特定の身体的特徴を、繁殖によって繰り返し選択することです。特徴的な外見が人気になれば、消費者の需要が繁殖者の供給につながり、品種標準や市場価値を通じて、さらにその特徴が求められるという循環が生まれます。その過程には、消費者の好みだけでなく、品種標準、繁殖者の経済的インセンティブ、購入者側の情報不足なども関係します。

これは猫だけの問題ではありません。犬でも、極端な身体的特徴と健康・福祉の関係をめぐって、動物福祉団体や犬種団体などの間で議論が続いています。

「見た目を重視した繁殖」を考えるとき、問われているのは純血種というカテゴリーそのものではなく、どのような身体的特徴を、どこまで選択し続けるのかという問題なのです。

日本で考える
「可愛い」の先にある選択

EUやオランダの制度が、そのまま日本に適用されるわけではありません。日本では現在、スコティッシュフォールドやスフィンクスなどの猫種そのものを一律に禁止する制度はありません。

だからこそ、日本で犬猫を迎えるときにも、「その見た目は、動物自身にとってどんな意味を持つのか」という視点は無関係ではありません。

品種の特徴だけを見るのではなく、以下の事柄を確認しておくと、外見だけでは分からない情報を知る手がかりになります。

  • その犬種・猫種に特有の健康上の注意点
  • 親個体の健康状態
  • 健康診断の結果
  • 遺伝子検査の実施状況
  • どのような繁殖方針で親個体を選んでいるか

すでにスコティッシュフォールドやスフィンクスと暮らしている人が、必要以上に不安になる必要もありません。現在健康に暮らしている猫については、日常の様子を観察し、行動や動きなどに変化があれば獣医師に相談するという、冷静な対応が基本になります。

「可愛い」の意味を知ってから決める

制度も研究も、白か黒かで答えを出せるものではありません。だからこそ、特定の品種を「禁止すべきか」という二択で考える必要はないはずです。

大切なのは、その品種が持つ特徴の背景を知り、実際に迎える個体については両親の健康状態や検査歴をブリーダーに確認するという、地に足のついた一歩です。「可愛い」という気持ちの先に何があるのかを知ることが、その動物と長く付き合っていくための責任の一部になります。