犬の耳の感染症 ~原因・症状・診断・治療・予防の完全ガイド
犬を家族の一員として迎え入れた多くの飼い主にとって、ペットの健康管理は大切な課題です。特に、犬の耳は普段から手入れを怠りがちですが、感染症にかかると不快感や激しい痛みを引き起こし、生活の質が大きく低下する可能性があります。
犬の耳の感染症は、多くの飼い主が経験する一般的な問題です。愛犬が耳を頻繁に掻いたり、頭を振ったりする様子を見ると、心配になることでしょう。しかし、早期発見と適切なケアによって、ほとんどの感染症は治癒可能です。
今回は、犬の耳の感染症について、原因や症状、治療法に予防策まで詳しく解説します。愛犬の耳の健康を守るために、ぜひ参考にしてください。

犬の耳の感染症とは
犬の耳の感染症とは、外耳、中耳、内耳のいずれかの部位で炎症が起こる状態を指します。感染の原因はさまざまで、細菌や真菌(カビ)、寄生虫(耳ダニなど)などの微生物が耳内部に侵入することによって引き起こされます。
特に湿気や汚れがたまりやすい耳は、感染症の発生リスクが高く、放置すると症状が進行し、激しい痛みや炎症、場合によっては聴覚障害にもつながる恐れがあります。一般的に、犬の耳は密閉された環境であるため、温度や湿度の管理が不十分な場合、病原体が繁殖しやすい状態となります。
また、アレルギーや皮膚疾患、耳ダニの寄生といった要因も、耳の感染症を引き起こす主要な原因です。犬種によっては、耳の形状や毛の生え方が異なるため、感染症に対する耐性にばらつきが見られ、早期発見と適切な治療が症状の進行を防ぐために極めて重要です。
犬の耳の構造と感染症のリスクファクター
犬の耳は、外耳、中耳、内耳という三層構造から成り立っており、それぞれが役割を持ちながらも感染症のリスクをはらんでいます。
外耳
耳介と外耳道から構成され、音を集めて鼓膜に伝える役割を果たします。毛や皮膚に覆われており、外部からの異物の侵入を防ぐバリアとして機能する一方、外耳道はL字型に曲がっていて通気性が悪く、湿気がこもりやすい構造のため病原体が繁殖しやすくなります。
中耳
鼓膜の内側に位置し、耳小骨と呼ばれる小さな骨が音を増幅して内耳に伝える重要な役割を果たします。また、中耳は耳管を通じて鼻咽頭とつながっており、この経路を通じて細菌や炎症が侵入することがあります。
内耳
内耳は平衡感覚や聴覚を司る精巧な構造を有する器官です。蝸牛は音の振動を神経信号に変換し、前庭器官は体のバランスを保つ役割を果たします。しかし、ここまで炎症が進むと、治療が難しくなるケースも少なくありません。
犬種によって耳の形状は大きく異なり、これが感染症のリスクに影響します。例えば、垂れ耳の犬種(コッカー・スパニエル、バセット・ハウンドなど)は、耳内部の通気性が悪く湿気がこもりやすいため、感染症のリスクが高まる傾向があります。一方、立ち耳の犬種(シベリアン・ハスキー、ジャーマン・シェパードなど)は、自然な空気循環が期待でき、比較的感染症のリスクは低いとされています。
さらに、犬の年齢や体質も重要なリスクファクターとなります。幼犬は免疫力が未発達であり、またシニア犬は免疫力が低下しがちなため、どちらも感染症にかかりやすい状態です。
また、犬の年齢や体質も感染リスクに大きく影響します。幼犬は免疫力が未発達なため、感染症にかかりやすいことがあります。また、シニア犬は免疫力が低下しやすいため、感染症にかかりやすいと言われています。
加えて、屋内外の温度差が大きい環境や高温多湿な状況、さらには水遊びや頻繁な入浴によって耳に湿気がこもるといった生活環境の要因、さらには不衛生な環境も感染リスクを高める要因として挙げられます。
犬の耳の感染症の種類
犬の耳の感染症は、その炎症の発生部位により大きく分けて外耳炎、中耳炎、内耳炎の三種類に分類されます。
外耳炎
外耳炎は、もっとも一般的なタイプの感染症であり、外耳道に細菌や真菌が侵入して炎症を引き起こすことで発生します。初期はかゆみや軽い赤みといった症状で現れ、放置すると膿がたまり、強い臭いや激しい痛みを伴うようになります。
中耳炎
中耳炎は、鼓膜の内側の中耳に炎症が起こる感染症です。外耳炎が進行して中耳に炎症が波及する場合や、鼻咽頭から耳管を通じて細菌が侵入する場合などがあります。中耳炎は、耳の奥深くまで影響を及ぼし、平衡感覚や聴覚に障害が生じる可能性があります。
内耳炎
内耳炎は、内耳に炎症が起こる感染症で、中耳炎が進行して内耳に炎症が波及する場合や、血液を介して細菌が侵入する場合などがあります。内耳炎は、慢性的な難治性の症状や深刻な聴力低下、平衡感覚の異常(ふらつき、旋回運動など)を引き起こすことがあります。
これらの感染症は、初期段階での発見と治療が極めて重要であり、症状が進むと治療期間が長引き、再発のリスクも増加するため、定期的な耳のケアと獣医師の診察が推奨されます。
犬の耳の感染症の主な原因
犬の耳の感染症は、複数の要因が絡み合って発症します。犬の耳の感染症の主な原因は、以下のとおりです。
細菌感染
細菌感染はもっとも一般的な原因のひとつであり、特にブドウ球菌やレンサ球菌などが外耳炎や中耳炎を引き起こすことが多いです。これらの細菌は、湿気の多い環境、耳の傷、さらにはアレルギー反応などが原因で増殖しやすくなります。
真菌感染
マラセチアなどの酵母菌は、犬の耳の皮膚に常在していますが、過剰に増殖すると炎症を引き起こし、外耳炎の原因となります。真菌感染は、湿気の多い環境や、免疫力の低下などによって起こりやすくなります。
耳ダニ
耳ダニは、犬の耳の中に寄生する小さなダニで、強い痒みを引き起こします。耳ダニの感染は、二次的な細菌や真菌感染を誘発する要因となります。耳ダニは、感染した動物との接触によって感染します。
アレルギー
食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などのアレルギーを持つ犬は、耳の皮膚が炎症を起こしやすく、感染症のリスクが高まります。アレルギーは、耳の痒みや赤みを引き起こし、犬が耳を掻くことで皮膚が傷つき、細菌や真菌が感染しやすくなります。
異物
植物の種や小さな虫などが耳の中に入り込むと、炎症を引き起こし、感染症のリスクを高めることがあります。異物は、耳垢の蓄積や耳道の閉塞を引き起こし、細菌や真菌が繁殖しやすい環境を作ります。
その他
ホルモン異常、免疫力の低下といった内因性の要因も感染症の発症の要因となります。
これらの要因は単独で発症する場合もあれば、複数の要因が重なり合うことで、症状がより深刻化することも少なくありません。飼い主としては、日頃から耳の状態をよく観察し、適切なケアと環境管理を心がけることが、感染症の予防に大いに役立ちます。
犬の耳の感染症の症状
犬の耳の感染症は、初期段階と進行段階で現れる症状が異なります。
初期症状
犬の耳の感染症は、初期には比較的軽微な症状を示すことが多く、飼い主さんが注意深く観察することで早期発見が可能です。まず、愛犬が頻繁に耳を痒がり、後ろ足で掻いたり、家具に擦り付けるといった行動が見られます。また、不快感から頭を頻繁に振ったり、傾ける仕草も特徴的です。耳垢の量が増加し、普段とは異なる異臭がすることや、耳の皮膚に赤みが生じることがあります。これらは、耳に何らかのトラブルが発生している初期サインとして注意深く観察する必要があります。
進行時の症状
感染症が進行すると症状はより顕著になり、愛犬の苦痛も増します。耳からは黄色や茶色、黒色など、通常とは異なる色の分泌物が見られるようになり、その粘度も水っぽいものから粘り気のあるものまで様々です。耳に触れようとすると嫌がったり、痛がる様子を見せることもあります。さらに、呼びかけに対する反応が鈍くなるなどの聴力低下の徴候も現れます。
内耳に炎症が波及すると、平衡感覚に異常をきたし、ふらついたり、同じ場所をぐるぐると回る旋回運動が見られることもあります。重度の感染症に進展すると、発熱や食欲不振、元気消失など、全身に影響を及ぼす症状が現れます。

犬の耳の感染症の診断と治療方法
愛犬の耳の感染症は、早期発見と適切な治療が非常に重要です。獣医師による的確な診断と、それに合わせた適切な治療を行うことで、愛犬の苦痛を軽減し、早期回復を促すことができます。
診断方法
獣医師は、まず視診と触診によって、耳の状態を注意深く観察します。耳の赤みや腫れ、耳垢の量や質、異臭の有無などを確認し、触診によって痛みや腫れの程度を把握します。次に、耳鏡検査を実施し、外耳道の奥や鼓膜の状態まで確認し、異物や炎症の有無、鼓膜の損傷などを確認します。
さらに、耳垢の検査も行われます。採取した耳垢を顕微鏡で観察し、細菌や真菌、耳ダニなどの感染原因を特定します。必要に応じて、培養検査を行い、感染している細菌や真菌の種類を特定し、適切な抗菌薬や抗真菌薬を選択します。中耳炎や内耳炎が疑われる場合には、レントゲン、CT、MRIなどの画像検査を行うこともあります。これらの画像検査によって、中耳や内耳の状態を詳細に確認し、炎症の広がりや骨の損傷などを確認します。
治療方法
治療方法は、感染の原因や重症度によって異なります。細菌感染の場合には抗菌薬、真菌感染の場合には抗真菌薬が処方されます。炎症を抑えるために、抗炎症薬や抗ヒスタミン薬が使用されることもあります。これらの薬は、点耳薬や内服薬として投与されます。耳垢や分泌物が多い場合には、耳洗浄が行われます。重度の中耳炎や内耳炎の場合には、外科的な処置が必要になることもあります。
治療期間や方法は、感染の種類や重症度によって異なります。治療中は、獣医師の指示に基づいて定期的に診察を受け、治療経過を観察することが重要です。自己判断による治療中断や市販薬の使用は、症状の悪化を招く恐れがあるため避けましょう。
犬の耳の感染症の予防と日常ケア
愛犬の耳の健康を維持するためには、日頃のケアが欠かせません。感染症を予防し、愛犬が快適に過ごせるよう、以下の日常ケアを実践しましょう。
定期的な耳のチェックと清掃
定期的に愛犬の耳の状態をチェックし、清潔に保つことが大切です。耳垢の色、量、臭いに変化がないか、赤みや腫れ、傷がないかなどを確認します。耳垢が溜まっている場合は、獣医師推奨の耳洗浄液をコットンやガーゼに含ませ、優しく拭き取ります。綿棒は耳の奥を傷つける可能性があるため、使用は避けましょう。
シャンプー後の丁寧な乾燥
シャンプー後、耳のなかに水が残ると、湿気によって細菌や真菌が繁殖しやすくなります。シャンプーの際は、耳の中に水が入らないように注意し、終わったらタオルやドライヤーで丁寧に乾かしましょう。ドライヤーを使用する際は、低温設定で、愛犬が嫌がらない程度の風量で乾かします。
雨の日の散歩や水遊びのあと
雨の日の散歩や水遊びのあとも、耳のに水分が残りやすい状態です。特に垂れ耳の犬種は、耳の中に湿気や水が溜まりやすいため、注意が必要です。タオルで耳の外側や入り口付近をやさしく拭き、必要であればドライヤーで軽く乾かしましょう。
アレルギー対策
食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などのアレルギーは、耳の炎症を引き起こし、感染症のリスクを高めます。愛犬にアレルギーの徴候が見られる場合は、獣医師に相談し、アレルギー検査や適切な食事管理、薬物療法を行いましょう。
耳ダニ予防
耳ダニは、強い痒みや炎症を引き起こし、二次的な細菌感染や真菌感染のリスクを高めます。定期的に獣医師推奨の耳ダニ駆除薬を使用し、感染を予防しましょう。特に多頭飼育の場合や、他の犬との接触が多い場合は、予防が重要です。
犬種によっては耳の形状や毛の生え方が異なるため、個々の特性に応じたケアが望まれます。日常的に耳の状態をチェックし、異常が見られた場合は速やかに獣医師の診察を受けることで、重篤な症状に発展する前に対処が可能となります。また、飼い主自身が愛犬とコミュニケーションを取りながらケアを行うことで、ストレス軽減にもつながり、全体的な健康維持に寄与するでしょう。
まとめ
犬の耳の感染症は、早期発見と適切なケアによって、ほとんどの場合治癒可能な病気です。耳の構造や犬種ごとの特性、さらに環境要因を正しく理解し、飼い主が日々のケアに努めることで、愛犬の健康を守ることができます。
正しい知識をもとに、日常的に耳の状態を観察し、異常を感じたらすぐに獣医師に相談することが、愛犬が快適な生活を送るための最善の対策となります。