長持ちするおやつの裏側に潜む危険性 愛犬の歯を守るために知っておきたいこと
しかし、その裏には見過ごされがちなリスクが潜んでいることをご存じでしょうか。硬いおやつは、その強固な構造が原因で犬の歯に深刻なダメージを与える可能性があります。
今回は、長持ちするおやつが犬の歯にどのような影響を与えるかについてのお話です。
長持ちするおやつとは
犬用の長持ちするおやつとして、ヤクミルクチーズ、鹿の角、動物の骨などが販売されています。ヤクミルクチーズは、ヒマラヤ産の硬いチーズで、長時間噛むことができるため人気があります。犬が噛み続けることでストレスを解消します。
鹿の角や動物の骨も同様に硬く長時間楽しむことができ、犬の噛む本能を満たし、歯の健康維持にも役立つとされています。
硬いおやつによる歯のリスク
ほとんどの獣医師は、耐久性のある硬いおやつが引き起こす問題をすでに把握していますが、飼い主は耐久性を誤認しているようです。
硬いおやつは長持ちし、犬の本能を満たし、歯の健康にもよいと信じられていますが、硬いものは歯や顎に害を及ぼす可能性もあるのです。
硬いおやつは、犬が強い咬合力で噛むことが前提になっていますが、硬さと歯の破折(はせつ)は相関関係にあります。犬の歯は加わる力に耐えることができず、割れたり欠けたりします。
犬の咬合力
咬合力の測定は、アメリカでは「PSI(ポンド毎平方インチ)」で表されることが多いですが、一般的には「ニュートン(N)」で表されます。人間の咬合力は約500~700Nです。一方、犬の咬合力は犬種によって異なりますが、約1,000~4,500Nと非常に強力です。つまり、犬の咬合力は人間の約2倍から7倍に相当します。
マスティフやロットワイラーなどの大型犬種は、もっとも強い咬合力を持つことが多く、4,000N以上の咬合力があります。小型犬種はそれよりもかなり弱い咬合力ですが、それでも数百ニュートン程度の力を持つことがあります。
具体的な咬合力は犬の大きさや顎の形、筋肉の発達などによって変わりますが、平均的な犬の咬合力は1,500~2,000Nで、人間の2~3倍と強力です。
このように、犬の強力な咬合力は、発達した顎の筋肉と顎関節によって支えられており、食べ物を効果的に噛み砕く能力があります。これは、祖先であるオオカミが獲物を捕らえるために進化した結果です。
しかし、この強い咬合力は、硬い物を噛む際に歯に過度な負担をかけることがあります。特に硬いおやつを与える場合には注意が必要です。犬の咬合力を過信して、過度に硬い物を与えると、歯の健康に悪影響を及ぼす可能性が高くなります。
犬の歯のエナメル質
犬が歯を破折するもうひとつの理由は、犬の歯のエナメル質が人間に比べて比較的薄いことです。研究によると、犬のエナメル質の厚さは0.1~1mmで、人間の歯よりも薄いことがわかっています。また、別の研究では、犬の上顎犬歯のエナメル質の平均が0.35~0.44mmと報告されています。
これに対して、人間の歯のエナメル質は平均2~3mmの厚さがあります。つまり、犬の歯のエナメル質の強度は、人間の10分の1程度しかないのです。
エナメル質は、歯の外側を覆う硬い層であり、歯を保護する役割を果たしています。エナメル質は体のなかでもっとも硬い構造で、96%がカルシウムとリンを含むハイドロキシアパタイトというミネラル(無機質)で構成されています。
エナメル質は、有機質をほとんど含まないため非常に硬い反面、脆くもなります。犬の裂肉歯(上顎第4前臼歯と下顎第1後臼歯)に過剰な力がかかると、エナメル質の剥がれや欠けである板状骨折が発生することがあります。
また、硬いおやつを噛むことで、裂肉歯以外の歯(前臼歯、切歯、犬歯)が破折することもあります。これは、顎の筋肉が強い力で歯を噛むためです。
咀嚼に関わる筋肉は咀嚼筋と呼ばれ、咬筋、側頭筋、翼状筋、顎二腹筋の4つがあります。このうち咬筋、側頭筋、翼状筋の3つが顎を閉じる役割を果たし、顎二腹筋だけが顎を開く役割を担っています。つまり、顎を閉じる力が強いために、硬い物を噛むことで歯が破折するのです。
しかし、犬のエナメル質は比較的薄く、約1.5ミリメートルの厚さしかありません。これは、人間のエナメル質と比較すると薄いもので、人間のエナメル質は通常約2.5ミリメートルの厚さがあります。この薄さは、犬が硬い物を噛むときにエナメル質が摩耗しやすく、歯の内部にあるデンティンが露出するリスクを高めます。デンティンが露出すると、歯が敏感になり、痛みを引き起こすことがあります。
このようにエナメル質が破折すると、歯の保護機能が失われ、歯の内部に対してもダメージを与える可能性があります。歯の中心部の歯髄にまで達してしまうと、痛みや腫れ、出血、歯髄への細菌感染などが生じます。軽度であれば修復治療ができますが、重度になると抜歯するとこになります。
安全なおやつ選びとケア
愛犬の歯を守るためには、安全で適切なおやつの選び方が重要です。硬いおやつは、エナメル質が薄い犬の歯にとってはリスクが高いです。歯のエナメル質の摩耗は、長期的に見て歯の健康に悪影響を及ぼすことがあり、破折は早急な治療が必用となります。
骨や角は、歯だけでなく口の中や歯茎を傷つける可能性もあります。飲み込んでしまうと消化不良や腸閉塞を引き起こすことがあります。また、破片が消化管を傷つける可能性もあります。
こうした硬いおやつの代わりに、犬の歯に優しく、歯の健康をサポートするために設計されたおやつを選ぶとよいでしょう。
また、犬の口腔内の健康を維持するためには、定期的な歯科ケアが不可欠です。獣医師による定期的な歯科検診で、歯の状態や歯ぐきの健康を確認してもらいましょう。また、家庭でも歯磨きを行うことで、歯垢の蓄積を防ぐことができます。
まとめ
長持ちするおやつは、愛犬に長時間の楽しみを提供しますが、その硬さがもたらすリスクは見逃せません。歯の破折は、犬にとって大きな痛みや不快感を引き起こし、健康にも大きな影響を及ぼします。
愛犬の健康を第一に考え、安全で適切なおやつを選ぶことが重要です。さらに、定期的な口腔ケアと獣医師による検診を行うことで、長期的な歯の健康を維持し、愛犬との幸せな生活を続けていきましょう。