【編集興記】ホームドクターに望むのは最新情報へのキャッチアップと専門医との連携

ちょっと気になったペット関連のトピックスを、編集スタッフが持ち回りで紹介する“不定期”コーナーです。

このところ、猫の「肥大型心筋症(HCM)」についての情報が立て続けに耳に入ってきました。いろいろなケースがありますが、そこには獣医師および獣医療における根本的な問題があるように思います。今回は、事例とともに、私たち飼い主がどう対応すべきかを考えてみたいと思います。

【ケース1:千葉県在住の飼い主さんの例】
メインクーン2頭(2歳と1歳)と毎日楽しく幸せに暮らしていました。猫じゃらしで遊んだあとに、1歳の子が「ハアハア」と荒い息をしていて、時間が経っても症状が変わりません。心配になって、近くの動物病院に。レントゲンと心エコー検査を行うことになり、その結果HCMと診断されました。しかし、処方された薬を飲んでも改善が見られないためブリーダーさんに相談したところ、心臓の専門医を紹介され受診。その結果、何も問題がないことが判明しました。荒い息は、激しい運動をしたため若干の過呼吸になったのではないかとのこと。遊び方を変えてからは、何も問題もなく生活をしているとのこと。

【ケース2:神奈川県在住の飼い主さんの例】
先住猫の遊び相手にと新たにメインクーンの子猫を迎え、毎日賑やかに暮らしていました。ある日、体調が悪いのか元気がなくなってしまったので近くの動物病院を受診。HCMと診断され処方された薬を飲ませて様子をみていましたが改善しないため、別の動物病院を受診。その結果、今度はアレルギーとの診断でした。再び処方された薬を飲ませるも、症状は改善されず。ブリーダーさんに相談したところ、循環器の専門医を紹介されました。検査の結果、心臓に問題はなく重度の風邪との診断。風邪薬を飲ませたところ元気になったとのこと。

【ケース3:熊本県在住の飼い主さんの例】
ワクチン接種と健康診断を受けに動物病院へ行ったところ、メインクーンに多い病気だからという理由で検査を勧められました。言われるがままに検査を受け、その結果HCMと診断され薬を処方されました。「何の症状もないのに本当にHCM?」と心配になりブリーダーさんに相談したところ、心臓の専門医を紹介され受診。検査の結果、何も問題ないことが判明しました。いまも元気に暮らしているとのこと。


以上の事例から分かるように、一次診療における獣医師のレベルはまちまちです。HCMはメインクーンなど大型猫特有の遺伝子疾患と考えられていますが、発症のメカニズムはまだ解明されていな部分も多く、疾患の特定も難しい病気です。専門医でも様々な検査を行い、それぞれの結果を見ながら総合的に判断するということなので、検査機器が少ない一次診療では確定診断はできないと考えるのが妥当でしょう。

しかし、これはHCMだけに限った話ではありません。獣医師が自分の経験値だけで安易な判断をすると、誤診を招くことになります。そうなると、不要な治療や薬の費用だけでなく、必要のない薬を飲まされることで別の疾患を抱えてしまう可能性もあるのです。実際に誤診により命が奪われるケースもあり、訴訟に発展する事例もあります。

では、どうすればこうした悲しい事故を防ぐことができるのでしょうか。そのヒントが「愛猫を獣医師の誤診で亡くした飼い主の後悔」にありました。

もっとも大切なことは、ペットにおいてもセカンドオピニオンを受けることです。人間の場合、国が外来医療の機能分化を進めるために、「ホームドクター(かかりつけ医)」の普及を図ってきました。ホームドクターは、健康に関することをなんでも相談でき、必要に応じにて専門医や専門医療機関を紹介してくれる、頼りになる“地元のお医者さん”です。

町の動物病院も同様の位置づけのはずですが、人間の医療ほど連携ができていません。ですので、飼い主が自ら専門領域をもつ獣医師を探す必要があります。だだ、そこにも問題があります。自分の居住地と目的の診療科目をネットで検索すると、地域にあるほとんどの動物病院が引っかかります。しかし、それは必ずしも「特定の疾患に専門の知識とスキルがある」ということではないのです。単に「診察できる=総合診療」というケースがほとんどです。

動物病院のサイトを見れば、院長に特化した専門分野あったり、専門医が在籍していたり、または二次診療施設としての設備を有しているのかなどを確認できます。セカンドオピニオンは、こうした専門医に診察してもらう必要があるのです。専門分野を持たない一般診療の獣医師にセカンドオピニオンを求めても、確定診断は困難でしょう。

“医”という文字がついていながらも、獣医師ほど玉石混淆な世界はありません。人間の医療ほどインフォームド・コンセントが徹底されているわけでも、健康保険制度があるわけでもありません。あくまでも「自由診療」なのです。

メディアやCMでの露出が多く有名だからといって、必ずしも知識や技術があるわけではありません。逆に臨床以外の仕事が忙しければ、日進月歩と言われる最新の獣医療にキャッチアップすることもできないでしょう。

獣医師にとって、経験=臨床数が全てとも言えます。経験と選択肢は比例します。選択肢が増えれば症状から疾患を特性する確度もあがります。反面、経験が少なければ選択肢も少なくなります。選択肢が少なければ、疾患の特定を間違う可能性も高いということになります。

健全で熱意のある獣医師こそが、愛犬や愛猫の命を守り、飼い主をサポートしてくれるのだと思います。予期せぬ事態はいつでも、誰にでも起こる可能性あります。万が一に備え、信頼できるホームドクターを見つけておくことは重要です。

ワクチン接種、健康診断時などに、担当の獣医師に気になることをいろいろ質問してみてください。良い獣医師であれば、真摯に回答してくれたり、丁寧に説明をしてくれるはずです。そして、専門的知識が必要と判断した時には、自らのネットワークで専門医を紹介してくれることでしょう。