犬・猫への愛情は? 「悪質」ブリーダーが狙う「動物愛護管理法」規制の抜け道とは

犬・猫への愛情は? 「悪質」ブリーダーが狙う「動物愛護管理法」規制の抜け道とは

弁護士JPニュース | 2022/06/03

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このコーナーでは、注目ニュースに対する編集部や識者のコメントを紹介します。

6月1日に「改正動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律)」が施行されました。情報の多くはマイクロチップ装着の義務化(ペットショップ、ブリーダー以外の飼い主は努力義務)についての評論となっています。

ただし、不幸なペットを生み出さないためには、悪質な事業者を撲滅させる必要があります。そのためには、この記事のように「改正動物愛護管理法」をより広い視点で考える必要があります。

マイクロチップの義務化以上に効果が期待できるのが「数値規制」です。この規制は、一人あたりの飼育頭数、ケージのサイズ、繁殖回数及び年齢を厳密に設定したものです。

【寝床や休息場所となるケージ】
犬:タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の2倍
猫:タテ体長の2倍×ヨコ体長の1.5倍×高さ体高の3倍(棚を設け2段以上の構造とする)

【従業員一人当たりの飼育数】
▶2022年6月~
犬:30頭(うち繁殖犬25頭)が上限
猫:40頭(うち繁殖猫35頭)が上限
▶2023年6月~
犬:25頭(うち繁殖犬20頭)が上限
猫:35頭(うち繁殖猫30頭)が上限
▶2024年6月~
犬:20頭(うち繁殖犬15頭)が上限
猫:30頭(うち繁殖猫25頭)が上限

【繁殖回数・年齢】
犬:生涯出産回数は6回、雌の交配は6歳以下
※7歳に達した時点で生涯出産回数6回未満であることを証明できる場合は、交配時の年齢は7歳以下
猫:生涯出産回数は設定なし、雌の交配時の年齢は6歳以下
※7歳に達した時点で生涯出産回数が10回未満であることを証明できる場合は、交配時の年齢は7歳以下


しかし、この数値規制で円満解決とはいかないという懸念もあります。ペットジャーナリストの阪根美果さんが指摘しているように、法の抜け道はいろいろ考えられるのです。

もっとも問題となるのが、飼育数と従業員の数です。法では上記の飼育数は“従業員一人当たり”となっています。もっと多くの繁殖犬や繁殖猫を飼育するのであれば、従業員を雇えばよいことになります。

従業員のうち常勤の職員は、法定労働時間(1日8時間以内、1週40時間以内)と労働基準法で定められています。常勤の職員以外の職員は、勤務延時間数が40時間未満の労働形態となっています。しかし、法では職員数に対する上限頭数の計算方法や、職員数の記録について説明されているだけです。

これでは、本当に労働しているのか、賃金が適正に支払われているのかはチェックできません。偽装労働とはいかないまでも、ボランティアと称して国が定める最低賃金以下で従業員を雇う可能性もあるのです。

そもそも、動物の飼養について、何の知識もない従業員を雇うことが正しいのでしょうか。「動物愛護管理法」の基本原則では以下のように明記されています。

すべての人が「動物は命あるもの」であることを認識し、みだりに動物を虐待することのないようにするのみでなく、人間と動物が共に生きていける社会を目指し、動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱うよう定めています。

出典:環境省 動物愛護管理法の概要

この原則に則るのであれば、従業員は「動物の習性をよく知ったうえで適正に取り扱える人」でなければなりません。そのためには、しっかりとして教育が必要なのではないでしょうか。最低でも、第一種動物取扱業者もしくは第二種動物取扱業者の登録を受けたものに限定すべきと考えます。

“そこに「愛情」はあるのか?” まさにそのとおりだと思います。健全なブリーダーは、飼育するすべての犬や猫に惜しみない愛情を注いでいます。毎日それぞれに話しかけて様子を見たり、撫でながら身体や健康状態に問題がないかを確認します。もちろん、生活場所の掃除も欠かせません。はたしてすべての子たちに目を配れる頭数は、法で規定された頭数でしょうか?

健やかで優しい犬や猫に成長するには、生まれてから巣立つまでの環境が重要だといわれています。私たちがペットを迎える際には、法で規制された数値に則った事業者である以前に、その業者が本当に「愛情」をもって飼育しているのかを確認する必要があります。詳しくは、「愛情がないならブリーダーを辞めるべき」という理由 を参考にしてください。