歯石除去手術の麻酔が引き金となった腎不全と戦う!!

家族の一員である愛するペットが突然病気やケガに見舞われてしまった……。また、元気な姿に戻ってほしいと願い、インターネットで情報を集め、何度も病院へ。でも、不安な気持ちはぬぐい切れず、何が正解なのか、悩みは尽きません。この連載では、そんな愛犬・愛猫と飼い主の奮闘をご紹介していきます。同じ病気やケガを抱えるみなさんと一緒に、愛犬・愛猫の回復を願い、頑張りたいという飼い主の想いが込められています。読者のみなさまからの情報や応援メッセージもお待ちしています。

今回は埼玉県川口市の富岡家のエキゾチックショートヘアの銀時(ギンジ)くんです。銀時くんは2002年6月23日生まれの現在15歳の男の子です。15年前に先住猫の遊び相手を探していたところ、ペットショップからの紹介で個性あふれる愛らしい銀時くんに出会いました。性格はとても小心者。でも穏やかでおとなしく、とても飼いやすい子。ここ数年は年齢のせいか自己主張が強くなってきたそうですが、変わらず富岡家の家族の一員として大切に育てられています。10歳になるまでは本当に健康で、問題もなく過ごしてきたのですが……。

エキゾチックショートヘアの銀時くん

顔から血が出ている

5年前のある日、仕事から戻ると銀時くんの頬から血が流れ出ていました。よく見ると頬が裂けていました。驚いて、すぐに救急病院へ駆け込みました。診断はなんと歯周病。思いもしない結果でした。細菌感染により歯周病が進行して炎症を起こし、袋状になった膿が破裂し、表皮を破ってしまったということでした。命に関わる緊急性はないとのことで、その日は家に戻り、翌日にかかりつけの病院で診てもらうことになったのです。

「歯が痛くて暫くご飯を食べなかったのではないですか?」と獣医師に聞かれましたが、まったくそのようなことはなく、いつものようにドライフードを平気で食べていました。次に「口臭は強くなりませんでしたか?」と聞かれましたが、じつはこの口臭については気が付いていました。ただ、10歳という年齢からくるものかなと思っていたので、気にはならず、とくに口の中を見ることはしませんでした。口臭が強くなってきたときに歯や歯茎をチェックしていたら、悪化させずに済んだかもしれない……。もっと年齢に応じたケアをしてあげればよかったととても反省しました。抗生剤を毎日飲ませて、傷口は軟膏を塗るという対処療法で、銀時くんは少しずつ回復していきました。

歯周病の再発を繰り返す

その後、1年間は何の問題もありませんでしたが、再び前回と同じように膿が破裂してしまいました。対処療法で回復しましたが、その半年後にまた再発。「このまま対処療法をして回復しても、再発する間隔がだんだん短くなっていくと思います。歯は食欲に直結するので、元気な今のうちに歯石をとっておいたほうがよいでしょう」と獣医師から提案をされました。

しかし、歯石をとるためには麻酔が必要になります。高齢の猫は数値に表れなくても腎臓が弱っていることがあり、麻酔により急性腎不全を起こす可能性があるというのです。そのリスクが気にかかり、すぐには決断ができませんでした。どうしたらよいのかネットで調べ、経験者や専門家に聞き、獣医師にも相談しました。しばらく右往左往しましたが、最終的には「ご飯が食べられなければ命を落とすことにもなりかねない。元気なうちに歯石をとったほうがよいかもしれない」と良くなることを願い、歯石除去の施術を決断したのでした。

恐れていた事態に……

麻酔をかける前に血液検査をして、腎臓の数値を確認しました。BUN(尿素窒素)は20.9 mg/dl、CRE(クレアチニン)は1.4 mg/dlで、問題のない状態でしたので、施術が行われました。しかし、麻酔が覚めて家に戻った銀時くんは3日が経過しても元気にならなかったのです。うずくまったまま動くことなく、ご飯も食べません。これはおかしい。すぐに病院へ向かいました。

血液検査をして、その結果から告げられた病名は急性腎不全。恐れていた事態が現実になってしまいました。BUN(尿素窒素)の基準値が16-36mg/dlに対して92.4 mg/dl。これは脱水・腎不全・尿毒症・尿路閉塞などが考えられることを示します。また、CRE(クレアチニン)の基準値が0.8-2.1mg/dlに対して4.7mg/dlでした。これは腎不全・尿毒症・尿路閉塞などが考えられることを示します。数値は急激に上昇し、急性腎不全をおこしていることを告げていました。その結果には愕然としました。銀時くんは、そのまま急性腎不全の治療を行うために入院することになりました。「後悔先に立たず」とはまさにこのことでした。

取材時に持参してくれた大量の検査報告書や領収書など

病院通いが始まる

後悔と不安な気持ちでいっぱいになりながら、銀時くんの回復を祈りました。3日後、BUN(尿素窒素)は34.1 mg/dl、CRE(クレアチニン)は2.4 mg/dlに下がったことで退院が決まりました。「急性腎不全の危険な状態は脱しましたが、まだまだ数値は正常値ではありません。このまま慢性化してしまう猫も多いので、様子には気を付けてください」と獣医師から説明を受けました。

しばらくの間は2週間に1度の血液検査が必要で、銀時くんの様子を見ながらの病院通いが始まったのです。「フルタイムで働く私にとっては、毎日の様子を長時間見ていてあげることができないので、退院直後はとても心配な日々でした」と富岡さん。その後の数回の血液検査でも数値が正常値に戻ることはなく、慢性腎不全と診断されることになったのです。覚悟を決めて、生涯続く慢性腎不全と向き合う必要がありました。

とある日の検査報告書

慢性腎不全の食事

「とにかくフードジプシーになりましたね」と富岡さん。慢性腎不全になってからは、銀時くんはご飯をあまり食べず、前日に少し口にしても翌日はまったく食べないという、フードの選り好みをするようになりました。

慢性腎不全の食事は専用の療養食があり、動物病院やインターネットで購入できます。ドライフード、缶詰、パウチなど、その形態はさまざまですが、どれを与えても銀時くんはほとんど食べませんでした。サンプルがあるものは試すことができるのでとても助かりましたが、ないものは通常販売されているサイズのものを購入するしかありません。半分以上捨てることになってもいろいろなフードを試してみました。少しでも食べてくれればという思いがあったからです。

とにかく食べないと体力が落ちて命にかかわる事態にもなってしまうので、必死に探しました。継続的に好んで食べたのは、アニモンダのドライフードの療養食です。ただ、このフードは高額なのが難点でした。体調により食欲や食べたいものもコロコロと変わるので、つねに何種類か常備するようにしました。

徐々に進行する慢性腎不全

2016年11月からは少しずつ血液検査の数値が上がってきたこともあり、自宅にて点滴(皮下輸液)をすることになりました。獣医師から自宅での点滴の仕方を指導してもらい、仕事から帰ると銀時くんに点滴をすることが日課となりました。そのころの数値はBUN(尿素窒素)が38 mg/dl、CRE(クレアチニン)が2.6 mg/dlで徐々に上昇傾向にありました。慢性腎不全は治る病気ではないので、現状をいかに維持するかが大切になります。

昨年末の銀時くん

毎日の点滴は銀時くんにとっても大きな負担にはなりますが、数値を上げないためにも点滴は必要でした。月2回行っていた血液検査は負担を減らすため2017年1月から月1回に変わり、点滴と薬で対応し、そのほかは体調が悪いときに病院へ行くということになりました。それでも、6月の血液検査ではBUN(尿素窒素)が62.6 mg/dl、CRE(クレアチニン)が3.4 mg/dlに上昇。徐々に慢性腎不全が進んでいることを示すものでした。数値を見るたびに、気持ちが落ち込みました。しかしながら、頑張る銀時くんを見るたびに、元気を出さなければと思うのでした。

BUNやCREが高かったときの検査報告書

計算したくない治療費

約5年前から始まった通院ですが、それまで銀時くんはとても健康で、ワクチン接種以外で病院へ行くことはありませんでした。そのため、ぺット保険の加入も考えたことがありませんでした。発病時はすでに年齢が10歳であったことや、発病してからでは保険には入れないということもあり、治療費は100%支払わなければいけません。

銀時くんは家族の一員。お金の問題ではないと思っていますが、実際には計算したくないくらいの治療費がかかっています。ペット保険に入っていればずいぶん助かったのにと、領収書の束を見るたびに思っています。しかしながら、10歳まで健康だったので、そのぶんの保険料を考えるとどちらがよかったのかは考えてしまうところですが……。

一回の通院で高額な治療費がかかることも

通院時の領収書の束を計算した合計金額。これは治療費のみなので、ここにさまざまなフード代なども加算されることになります

慢性腎不全の新薬を試せない

慢性腎不全の症状は徐々に進行してはいますが、現在はなんとか小康状態を保っています。2017年4月から猫慢性腎臓病治療薬 ラプロス®(東レ)が発売となりました。これは1回1錠、1日2回飲ませるもので、ステージ2~3の慢性腎不全に対して腎機能低下の抑制と臨床症状の改善を促す薬です。

試してみたいのですが、最近の銀時くんにはそれができない症状が表れていました。原因不明のふらつきです。初めは両方の後ろ足が動かなくなったので、心臓肥大症からの血栓が疑われたのですが、検査の結果問題はなし。その後、症状から中耳炎ではないかという疑いがでましたが、確定診断するには麻酔をかけてCTスキャン等での検査が必要です。

再度、麻酔をかけることは考えていないため、現在は抗生剤で様子を見ています。ふらつきの症状が治まり、新薬が試せる状態になればよいのですが。ただ、15歳という年齢もあるので、何ごとも無理しないことを心がけている日々です。慢性腎不全と原因不明のふらつきと戦う毎日ですが、銀時くんにはできるだけ平穏な毎日を過ごさせてあげたい……。そう思いながら見守っています。

飼い主の教訓

  • 若いころから歯周病についても学んでおくことが大切
  • 猫に多い慢性腎不全について日ごろから学んでおくことが大切
  • シニアからは麻酔のリスクが高くなることを理解したうえでの決断が大切
  • 療養食を食べなくても体力維持のためとにかく食べさせることが大切
  • ペット保険は加入時の年齢で検討することが大切