教えておけば役に立つ! 基本的「コマンド」トレーニングとは?
しつけと聞いて「オスワリ」「フセ」「マテ」などを思い浮かべる人も多いことでしょう。たしかに、これらのトレーニングは多くの飼い主さんが行っています。でもじつは、しつけのなかでは、こららは重要度が高くないのです。それはなぜでしょうか? 藤田先生にうかがってみましょう。
オスワリやフセは、犬に指示を出す「コマンド」です
まず、「しつけとは何か」についておさらいしてみましょう。この連載の第1回で解説しているように、しつけは「人間と動物というまったく種族が異なる生き物同士が、人間の社会のなかで、人間が決めたルールに従って、ともに幸せに暮らしていくためのマナーを学ぶもの」です。人と犬とが幸せな共生社会を築いていくためには、決して欠かすことはできません。
ここで大切なのは「犬が自分自身で理解し、考えて行動してくれるかどうか」です。対して「オスワリ」「フセ」「マテ」「コイ」などは、人間の指示(コマンド)に従って犬に特定の行動をとらせること。厳密に言えば、ここまでの連載でご紹介してきたしつけとは異なるものです。
「コマンドによる犬のコントロールは、絶対に教えるべきものとは言えません。これらのコマンドを教えなくても、みんなに愛されながら幸せに暮らすことはできます。ただし、不要ということでもありません。コマンドを覚えてもらえば生活がよりリッチに、楽しくなりますし、獣医さんの診察を受けるときや散歩中にほかの犬と険悪な雰囲気になったときなど、さまざまな場面でメリットがあります」
たとえば「オスワリ」を覚えておけば、散歩中に相性の悪い犬が近寄ってきたときに座らせて落ち着かせることができますし、人間の幼児と遊ぶときには「フセ」をして目線を下げてあげれば、おだやかに楽しく遊べます。たとえば、大型犬は幼児にとっては怪物のように大きな存在ですから、怖がって犬が嫌いになってしまう心配も減ることでしょう。
まず「ホールディング」のコツを覚えましょう
「具体的なコマンドトレーニング話をする前に、心がけておきたい大切なことがあります。ふだんからのスキンシップです。体を触られるのが嫌いな犬や、社会性が育まれておらず飼い主さんの指示を聞く気がない犬に、コマンドを教えようとしてもうまくいきません。まずは、体のあちこちを触ったり動きを規制したりしても喜んで応えてくれる、スキンシップ大好き犬になってもらいましょう」
コマンドトレーニングは、犬の体に直接触れながら動きを規制する方法もよく採られます。場合によっては、トレーニング中に噛まれる危険もありますから、トレーニングはあくまでも自己責任で。うまくいかなかったらプロのアドバイスを受けましょう。
「まず、スワレ、マテなどのコマンドを犬に覚えてもらうための手段を知っておきましょう。方法は3つあります。しつけ本などでよく紹介されている方法は、おやつなどを見せながら犬に動いてもらう『誘導』。たとえば、犬を座らせたいときに、おやつに注目させ、スワレと声をかけながら、おやつを持つ手を犬の頭上に動かしていって座らせる、などの方法です。もうひとつは、犬に自ら考え判断してもらう『キャプチャリング』です。犬が偶然に行った行動にコマンドを関連づけて強化していきます。そして、3つ目が『ホールディング』、つまり力で押さえる方法です。コマンドを受けたらどうすればいいのかを犬が理解しやすいため、トレーニングの効果が早く確実に現れるのが特徴です」
力で押さえるというと、よくない印象を持ってしまう人がいるかもしれませんが、それは誤解です。人間の子育てに当てはめるなら、子どもの手をとって導いてあげるのと同じこと。嫌がる犬をむりやり拘束するわけではありません。
「ただし、ただ単に力を入れればいいというものではありません。犬はもちろん人間もそうですが、体のどの部分がどのような構造になっているのか、ある行動をとるときに体をどう動かせばスムーズなのかを考えないと、無理な動作を犬に強いたり、場合によっては大ケガを負わせることにもなりかねません」
たとえば、立って犬を座らせる際に、腰をガンッと押してしまっては、立っている状態で安定している腰骨と脚の関節に負担がかかり、関節を大きく損傷させかねません。
「ホールディングは『強く、ゆっくり』が基本です。一気に力を入れてはいけませんし、力が弱いと飼い主さんの意思が犬に伝わりません。最初はゆっくり、続いてグーッと力を入れていくのがコツ。動かないものを無理に動かすのではなく、犬が自然に体を動かせるようきっかけを与えるものだと心得ましょう」
もちろん、それぞれの手段を同時に使ってもかまいません。飼い主さんの意思が犬に効果的に伝わればいいのです。次回は、具体的なコマンドトレーニングのコツを藤田先生に解説していただきましょう。
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