急なフード変更は犬にとって危険? 最新研究が明らかにした腸内の変化
愛犬のために新しいフードを選ぶ瞬間は、多くの飼い主さんにとって、その子の健康を願う大切な時間です。食べつきが気になる、アレルギー対策をしたい、あるいはもっと栄養バランスよいフードを与えたい……そう考えてフードの変更を検討する人も少なくないでしょう。
しかし、そのときに「お腹を壊さないか……」と不安を感じたことはありませんか? じつは、急なフードの切り替えは、愛犬の目に見えないお腹で予想以上に大きな変化を引き起こしていることが、最新の研究で明らかになっています。

愛犬のお腹には、「腸内細菌叢(腸内フローラ)」という健康に欠かせない無数の微生物たちが住んでいます。この小さな生態系は、愛犬の消化吸収はもちろん、免疫力や全身の健康を支える大切な役割を担っています。
しかし、この繊細なバランスは、食事の変化に非常に敏感であることがわかってきました。
スペインのバルセロナ自治大学(UAB)による研究では、健康な成犬のビーグル24頭を対象に、普段食べているドライフードから、高タンパク・高脂肪のウェットフードへと急に切り替える実験が行われました。
この「急な切り替え」は、意図的に犬の体に一時的なストレスを与えることで、食事変更が消化機能や腸内細菌叢にどのような影響を及ぼすのかを、より明確に観察するためのものでした。
研究者たちは、フードを切り替える前後で、犬たちの便の状態や消化の効率、腸内細菌叢のバランス、腸内細菌がつくり出す物質の変化を詳細に分析しました。その結果、以下のようなことが判明したのです。
便の状態の変化:フード切り替え後、犬たちの便は水分量が増えて柔らかくなる傾向が見られました。これは、多くの人が経験する軟便や下痢といった消化器系の不調と一致します。
消化機能の変化:特定の栄養素の消化率は一時的に上がったものの、体が利用できるエネルギー効率は低下しました。体が新しいフードにうまく対応できていないことを示唆しています。
腸内細菌叢のバランスの乱れ:もっとも顕著だったのは、腸内細菌叢のバランスが大きく崩れたことです。腸の健康を保つ善玉菌とされるツリシバクター属やラクトバチルス属が減少した一方で、悪玉菌(大腸菌、ウェルシュ菌、フソバクテリウム属など)が増加したのです。このバランスの乱れは「ディスバイオーシス」と呼ばれ、体の炎症反応を示すマーカーも一時的に上昇しました。
腸内代謝物の変化:腸内細菌の活動によってつくられる物質にも変化が見られ、腸内環境が内部から乱れていることが裏付けられました。
これらの変化は一時的なものでしたが、犬の体調や便の状態に明らかな影響を与える可能性があります。特に、消化器系が敏感な犬やシニア犬、持病を抱える犬にとっては、急な食事変更が大きなストレスとなり、健康を損なうリスクが高まることが示唆されました。
しかし、この研究は単にリスクを報告するだけではありません。研究の終盤にかけて、犬の腸内細菌叢が新しいフードに適応しようとする過程(適応プロセス)が見られたのです。
別の研究では、犬の腸内細菌叢が比較的短期間で新しい食事に適応し、2日以内に新たな代謝物を生成し始め、6日以内には細菌の構成が安定することが確認されています。
つまり、犬の腸内環境には変化への適応力があるものの、やはり急激な変更は避けるべきという結論になります。
この研究は、急なフード変更で生じる腸内環境の変化を「病気のモデル」として活用することで、将来的に犬の腸内環境をサポートする新しいフード添加物の開発にも役立つ可能性を示しています。
こうした研究結果を踏まえ、愛犬のフードを変更する際には、体への負担を最小限に抑え、健康を守るために以下の点に注意しましょう。
ゆっくりと段階的に切り替える
新しいフードへの切り替えは、少なくとも7〜10日間以上かけて徐々に行うのが理想的です。古いフードの割合を少しずつ減らし、新しいフードの割合を増やしていくことで、愛犬の消化器系が無理なく適応できる時間を確保できます。特にお腹がデリケートな子やシニア犬には、2週間程度かけるのがオススメです。
体調と便の状態を観察する
切り替え期間中は、愛犬の便の状態や食欲、元気の有無を注意深く観察しましょう。下痢・嘔吐・食欲不振などの異常が見られた場合は、無理に進めず、ペースを緩めるか一度元のフードに戻し、獣医師に相談するのが安心です。
プロバイオティクスも検討する
獣医師と相談のうえ、切り替え期間中にプロバイオティクス(有用な生きた微生物)などのサプリメントをを取り入れるのも効果的です。腸内細菌叢のバランスを整え、消化器系の適応を助けてくれます。
異常が続く場合はすぐに受診
もし、便の状態の悪化が3日以上続く、血便がある、ぐったりしているなどなどの症状がある場合は、すぐに獣医師の診察を受けてください。
愛犬の健康は、飼い主さんの細やかな気配りから育まれます。食事の変更は、犬にとって大きなライフイベントのひとつです。急な変化を避けて慎重に進めることが、愛犬との幸せな時間をより長く、より豊かにする第一歩になるでしょう。