犬の避妊・去勢「6カ月説」はもう古い? 最新研究が示す最適な手術時期とは

犬の避妊・去勢手術は一般的な獣医療行為として広く受け入れられています。主な理由としては、望まない繁殖の防止、特定の行動問題の軽減、健康上の利点が挙げられます。しかし、長年推奨されてきた手術のタイミングについて、最新の科学的研究が新たな視点を提供しています。

カリフォルニア大学デービス校の研究チームが発表した最新のガイドラインでは、犬の避妊・去勢手術の最適な時期は一律ではなく、犬種や体格、性別などによって異なる可能性を示唆しています。

この研究結果は、愛犬の健康を第一に考える飼い主にとって、非常に重要な情報となるでしょう。

これまでは。一般的には避妊・去勢手術は生後6カ月ごろ、特にメス犬では初回の発情前に行うことが推奨されてきました。メス犬の場合、この時期に手術を行えば乳腺腫瘍のリスクが大幅に減少するとされ、ある研究ではその発生率が0.05%まで低下するとの報告もあります。

オス犬においても、マーキングやマウンティングなどの行動の軽減、精巣腫瘍や前立腺疾患の予防など、早期去勢の利点として考えられてきました。

さらに、不要な繁殖を防ぎ、ペットの過剰繁殖を抑えるという社会的意義からも、早期の避妊・去勢手術が推奨される理由のひとつでした。実際に保護施設では生後間もないうちに手術を済ませる例も珍しくありません。

そんな状況において、カリフォルニア大学デービス校の研究チームによる最新の研究は、従来の考え方に一石を投じるものでした。

研究チームは、2013年からの長期調査をもとに、避妊・去勢手術の時期と健康リスクとの関係を詳細に分析しました。特に注目されたのは、早期手術が引き起こす可能性のある関節疾患や腫瘍のリスクです。

研究の結果、手術の最適な時期は、犬種、体格(体重)、そして性別によって大きく異なることが明らかになりました。

例えば、ゴールデンレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、ジャーマンシェパードといった大型犬種においては、早期の去勢手術が股関節形成不全などの関節疾患のリスクを高める可能性があるとされました。

一方で、チワワやトイ・プードルのような小型犬種では、手術時期による健康リスクへの影響は比較的少ないと報告されています。

興味深い例としては、メスのシーズーでは、生後6カ月から1歳までに避妊手術を受けた犬が、他のがんを発症するリスクが高まる傾向があり、逆に6カ月未満や2歳以降の手術が好ましい可能性が示されました。

また、スタンダード・プードルのオスでは、1歳で去勢手術を行った場合にリンパ腫の発症リスクが高くなるという報告もあります。こうした結果の背景には、性ホルモンが骨の成長に大きく関わっているという可能性があり、早期にホルモンを失うことで骨の成長板の閉鎖が遅れ、病気のリスクが増す可能性が考えられています。

こうした新たな知見を踏まえると、従来の避妊・去勢手術のタイミングは、見直す必要があるかもしれません。しかし、それでも避妊・去勢手術が依然として多くの重要な利点をもたらすことは忘れてはなりません。

メス犬にとっては、命に関わる子宮蓄膿症をほぼ確実に防ぎ、乳腺腫瘍の発生リスクを大幅に減少させ、卵巣・子宮のがんを予防する効果も期待できます。さらに、発情期に伴うストレスからも解放されます。

オス犬にとっても、精巣腫瘍の予防や前立腺疾患のリスク軽減、望ましくないマーキングやマウンティング、攻撃性といった行動の抑制などが期待できます。また、会陰ヘルニアや肛門周囲腺腫の予防にもつながります。

避妊・去勢手術を受けた犬は、手術を受けていない犬よりも長生きするというデータもあります。何よりも望まない繁殖を防ぐという点において、避妊・去勢手術は大きな社会的意義を担っています。

一方で、手術時期によっては健康への影響もあります。早期に手術を行うと、特に大型犬種において関節形成不全や肘関節形成不全、前十字靭帯断裂といった関節疾患のリスクを高める可能性があることが示されています。

骨肉腫や血管肉腫、リンパ腫など、いくつかのがんのリスクが高まる可能性も一部の犬種で指摘されています。

特に、早期に避妊手術を受けたメス犬では、尿失禁のリスクが高まる可能性があると指摘もあります。成長板の閉鎖が遅れ、骨の成長が続いて体が過剰に大きくなるといった影響も懸念されています。

また、成犬期(骨格が成熟した後)に手術を行う場合にも注意が必要です。乳腺腫瘍に対する予防効果が低下したり、行動上の問題がすでに定着している可能性があるためです。手術の効果が限定的になるだけでなく、麻酔や術後の合併症といった手術自体のリスクや、ホルモンバランスの変化によって体重が増加しやすくなる傾向も考慮しなければなりません。

このように、犬の避妊・去勢手術の最適な時期は、すべての犬に共通するものではなく、個々の特性に応じて慎重に判断する必要があります。飼い主にとって最も大切なのは、獣医師と十分に相談し、愛犬にとって最も適したタイミングを見つけることです。

相談の際には、犬種や体格、性別だけでなく、活動量や飼育環境といったライフスタイル、既往歴を含む健康状態、行動上の特徴、そして飼い主自身の思いや希望まで、さまざまな要素を総合的に考慮する必要があります。カリフォルニア大学デービス校の研究は、こうした個別の判断を支える有力な情報源として活用できます。

獣医師は最新の知見を踏まえつつ、個々の犬の状態を丁寧に評価し、最適な手術時期について専門的なアドバイスをしてくれるでしょう。特に大型犬では、一般的に手術時期を遅らせたほうがよいとされる傾向がありますが、最終的な判断はあくまで獣医師の診察と評価に基づいて行うべきです。

犬の避妊・去勢手術の最適な時期は、カリフォルニア大学デービス校の研究が示すように、犬種や体格、性別によって異なります。従来は「生後6カ月」ごろが推奨されてきましたが、犬によっては手術の時期を遅らせることで、関節疾患や一部の癌のリスクを抑えられる可能性もあります。

とはいえ、避妊・去勢手術には、望まない繁殖を防ぎ、生殖器系の病気のリスクを減らすといった大きなメリットがあることも変わりません。このようなメリットとリスクをどうバランスよく考えるかが重要です。

愛犬の健康と幸せを守るためにも、最新の知見をふまえつつ、信頼できる獣医師とよく相談して、それぞれの犬にとって最適なタイミングを見極めていきましょう。